亀山早苗の恋愛コラム

仮面夫婦になって気がついた、あの頃の「母の不倫」と深い孤独

親子といえども相手の気持ちはわからないことが多い。母が不倫をしていると知った娘の気持ちを母はわからないし、その母の孤独を娘が理解するのもむずかしいのではないだろうか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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母の孤独がわからなかった私

母の不倫

親子といえども相手の気持ちはわからないことが多い。母が不倫をしていると知った娘の気持ちを母はわからないし、その母の孤独を娘が理解するのもむずかしいのではないだろうか。

 

仲のいい夫婦だと思っていたのに

「両親は仲がいい。ずっとそう思っていました。でもずっと仮面夫婦だった。父は仕事と偽って女性のところにいたようです」

そう言うのはジュンコさん(40歳)。彼女自身は結婚して10年、8歳と5歳の子がいる。両親の仲が決していいとはいえないと気づいたのは、高校生になったころ。

「友だちと繁華街を歩いていたら、なんだか見覚えのあるシルエットの女性が男と腕を組んでラブホテルに入って行ったんです。嫌な予感がして早く帰宅したら、しばらくして母が戻ってきた。あのとき見た洋服と同じでした。ショックでしたね。でもそれは母には言いませんでした」

父を裏切っている母。そんなふうに思っていたが、ある日、深夜に言い争う父母の声を聞いた。どうやら浮気三昧の父を母がなじっているようだった。

「ああ、お互いさまなのか、と。私はひとりっ子なんですが、ふたりとも私の前では決して声を荒げたことさえない。だけど関係はずっと冷え切っていたんだと思います。思い返せば、父も母も私を通してしか話さなかったし、ふたりきりでどこかへ行くこともなかったから」

その後も母の様子を観察していると、浮気は続いていたようだ。相手が同一人物なのかどうかはわからない。母のパート先で張り込んでいたら、「今日はパートのお友だちと食事会なの」と言っていたにもかかわらず、離れた駅で男と待ち合わせていたこともあった。

「私が大学に入ってからだったと思います。尾行したのは。母は後ろを振り向いたりしないタイプだから、素人の私でも尾行しやすかったです。一直線に目的地に向かってひたすら直進していくだけなので。でも男の元へ向かう母の後ろ姿が、やけに悲しそうだなと思ったことがあります。好きな人に会える喜びではなく、この人に会えなかったらどうなるかわからないという危うさがあった。前のめりに歩く母は、おそらく寂しかったんでしょうね」

20歳そこそこの彼女が、それほど深く母を観察できたのは、日頃の母がおっとりした女性なのに時折、妙な激しさを見せることがあったからだ。

「私と何か話していて、自分の意見が通らないときに急に激しく怒り出すことがあったんです。『どうしてそういうことを言うのよ』って半泣きになって抗議するような感じ。誰も彼も私のことなんて大事に思ってくれないんでしょという母の言葉にならない声を聞いたような気がしたことがあります。母はけっこうなお嬢さん育ちなので、そもそも父に大事にしてもらえなかったことでプライドが傷ついていたんでしょう」

卓越した観察眼で、彼女は母の様子を見守っていた。

 

母の孤独を思う

彼女が社会人になって数年後、父が急死した。どうやら浮気相手の家で倒れたらしい。救急車で運ばれ、深夜の女性からの連絡で、母とジュンコさんは病院に駆けつけた。

「その女性とは長い関係だったみたいです。遺言まで遺してあった。それをめぐって裁判沙汰にまでなりましたが、結局はどうなったのか。そのあたりは母がひとりで対処していましたね。私もそういう話を聞きたくなかったので知らん顔していましたし」

それからの母は糸が切れた凧のようになった。ジュンコさんが仕事から帰ってきても、母がいないことはたびたびあった。当時、母は50歳前後。いつもきれいに化粧をしてセンスもよかったので40代前半にしか見えなかったという。

「けっこうモテていたのかもしれません。私は母の人生は母のものだからと口を挟むようなことはしませんでした。そのころもおそらく寂しかったんだと思う。孤独を自分でどうにか手なずけていくような人ではなかった。依存することでしか孤独を癒やせなかったんでしょう。父の死後は私に依存しかかったことがあるんですが、私はきっぱり拒絶。一周忌を終えたころ家を出てひとり暮らしを始めました」

ジュンコさんが夫となる人とつきあい始めたころ、母は倒れた。入院したがすでに末期のがんに冒されていたという。

「気づいてやれなかったことが悔しかった。母は医師の予告通り3ヶ月で逝きました。入院後は痛みを止めるだけの治療しかできず、いつもうとうとしていましたが、一度だけ『あなたが立派な大人になってよかった』と言ったんです。別に私は立派な大人ではないけど、社会に送り出した母が、自分を安心させるために言ったのかもしれない」

母が亡くなって10年以上たったいま、あのころとは違って、ジュンコさんは母の孤独が身にしみてくるという。

「実は数年前から、うちも夫婦関係がアヤシくなっているんです。共働きなのに夫が何もしないので文句を言ったら、夫が話さなくなって。今では子どものことでの事務的な会話しかありません。このままではいけないと思いながら、日常生活にまぎれて修復できない。こうなってみて、母が抱えていた孤独のことを考えるようになったんです。子どもがいようと家庭があろうと、それだけでは人は幸せとはいえないんですよね」

私には仕事があるだけ母よりマシだけど、とジュンコさんは遠くを見つめた。そしてしばらくの沈黙のあと、夫婦関係を壊す覚悟で、一度はきちんとぶつかってみるつもりだと彼女は力強く言った。
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