感染症

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症…退院患者の9割近く?

【医師が解説】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した患者の9割近くに、退院後も後遺症があるという報告があります。後遺症の症状は疲労感、呼吸困難、関節痛など。また、ウイルス感染への差別などのストレスが原因でPTSDになる懸念も指摘されています。後遺症の経過についてはまだ不明点が多いですが、現時点でわかっていることを解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復しても後遺症は残る?

新型コロナウイルス感染症の後遺症とは

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症として疲労感を始め様々な症状が報告されています ※画像はイメージ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって起こる呼吸器感染症です。発生が報告されてからまだ1年も経っておりませんので、後遺症の経過についてもまだ不明な点が多いです。しかし現時点でも、新型コロナウイルスの後遺症ではないかと様々な症状が報告されています。2020年8月現在での報告をもとに解説します。
 

新型コロナウイルス感染症の主な症状……咳、発熱、関節痛等

まず、新型コロナウイルス感染症に罹患した際の主な症状としては、咳、呼吸困難などの呼吸器症状、発熱、関節痛、筋肉痛、疲労感、下痢などの消化器症状、味覚、嗅覚の消失などの症状が報告されています。高齢者、喘息や慢性肺疾患などの呼吸器の基礎疾患のある人、心不全などの循環器の基礎疾患のある人、糖尿病、免疫の低下の人では、重症化するリスクが高いとされています。さらに、若年者でも免疫システムの暴走によるサイトカインストームになると重症化します。

新型コロナウイルス感染症では、免疫にかかわる補体と呼ばれるシステムと血液凝固システムが活性化することが報告されており、血小板減少症や血栓症に罹ったことのある人が悪化することがあるようです。
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症……退院患者の9割近くに症状

後遺症に関する報告は、新型コロナウイルス感染後に回復した個人の発信から、医療者・病院からの報告まで様々ですが、ここではイタリアのAngelo Carfiらの報告を見てみましょう。この調査対象はCOVID-19を発症し、ローマの1施設に入院して治療を受け、PCR検査によって新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陰性が確認されて退院した患者143人です。平均年齢は56.5歳、男性90例(63%)、女性53例(37%)、18人(12.6%)はICUに入院し、77人(53.8%)が酸素療法を受けて、21人(14.7%)は非侵襲的換気、7人(4.9%)は機械的換気を受けていました。平均入院期間は13.5日で、発症から平均60.3日、退院からは平均36.1日の時点で調査が行われました。

その結果、125人(87.4%)に退院後も何らかの症状が見られました。症状の数は、1ないし2が46人(32.2%)で、3以上が79人(55.2%)。QOLの低下は63人(44.1%)に認められました。

回復後も持続していた症状として最も多かったのは「疲労感」で、53.1%に認められました。続いて「呼吸困難」が43.4%、「関節痛」が27.3%、「胸痛」が21.7%でした。咳、嗅覚の異常、ドライマウス/ドライアイ、鼻炎、目の充血、味覚の異常、頭痛、喀痰、食欲不振、咽頭痛、めまい、筋肉痛、下痢といった症状を訴える元患者もいました。

ただ、この報告は入院した患者を対象としているため、入院の必要がなかった軽症患者では結果が異なる可能性もあります。
 

ウイルスと関連? 慢性疲労症候群増加の懸念も

また、新型コロナウイルス感染症と関連した筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS, Myalgic Encerphalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome)の発症も増加する可能性があると懸念されています。慢性疲労症候群は、以前からウイルス感染との関連が言われており、過去のSARSとEBウイルス(伝染性単核球症)の集団発生時にも、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と診断された患者数がそれぞれ8~10%上昇したという報告もあります。

2003年にカナダのトロント市でSARSが流行した時には、273人がSARSに感染し、集中治療を受けた107名の患者に後遺症に関する調査が実施されています。この調査によると、様々な症状は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に似ていると報告されており、感染1年後にも17%の患者は持続的に症状が重いままで仕事に戻ることができておらず、87%の患者には何らかの症状が残っていました。

今回の新型コロナウイルス感染症も、様々な症状が後遺症として起こる可能性があり、また、それらの後遺症が長期的に持続する可能性もあるため、年齢にかかわらず予防・対策を続けることはやはり大切です。
 

新型コロナウイルス感染症による精神的な問題・人間関係の課題も

また、COVID-19に関連する精神的な問題についての調査報告もされています。Giuseppe Forteらは、COVID-19に関連する「PTSD」を評価する方法として、自己申告式の質問票「COVID-19-PTSD」を用いた調査を行い、イタリア成人のPTSDの有病率が29.5%であると報告しています。これは新型コロナウイルス感染症にかかったことや、知人が感染したことによるものとされています。

新型コロナウイルス感染症に関連した精神的ストレスは大きく、例えば、感染した人に対する差別や、新型コロナウイルスで亡くなった家族や友人とは通常通りの別れができない悲しみ、また、感染拡大対策のために在宅機関が長期化することでドメスティックバイオレンスなど、これらのストレスが原因でPTSDを起こす可能性も指摘されています。
 
新型コロナウイルス感染症そのものの後遺症もありますが、この状況で生活している人間の意識や言動が原因で起こる問題に対しては、適切な対応が望まれます。
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