2020年7月7日、東京都大田区で3歳の子が放置されて亡くなり、母親が逮捕されました。女の子の名前は稀華(のあ)ちゃん。

このニュースを聞き真っ先に思い浮かんだのが、2010年に発生した大阪市西区のマンションで2児(3歳女児と1歳9カ月男児)が、母親の育児放棄によって餓死した事件。まさに10年前のことでした。

3歳の女の子は8日間もの間、たった一人、部屋の中で過ごし、どんなにか寂しくつらかっただろうと思いを巡らすとともに、虐待防止の活動を続けてきた身としては、またこのような事件が起こってしまったという悲しさとむなしさがこみ上げました。
 

児童虐待におけるネグレクトとは?

児童相談所での児童虐待相談対応件数は、過去最多に

児童相談所での児童虐待相談対応件数は、過去最多に

児童虐待とは大きく以下の4つに分類されています(厚生労働省「児童虐待の定義と現状」より)。

■身体的虐待
殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる など

■性的虐待
子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にする など

■ネグレクト
家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など

■心理的虐待
言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(DV)など

児童相談所での児童虐待相談対応件数は、15万9850件(2018年度)で過去最多となりました。児童虐待による死亡事例は65人、この中に占めるネグレクトは20人(38.5%)となっています(2017年度第15次)。

これは厚生労働省が把握している数字ですが、2016年に日本小児科学会は、虐待で死亡した可能性のある15歳未満の子どもが全国で年間約350人に上るとの推計を出しています。厚生労働省の把握している数字は、氷山の一角と考える方がいいかもしれません。
 

「子どもだけを残して」のハードルが低い日本

日本の場合は、子どもだけを残して家を出るということのハードルが、他国に比べて低いようにも思えます。

たとえば、ニュージーランドでは「14歳未満の場合、子どもを一人で家に置いておくのは違法」としています。家に残す場合には、「子どもの世話ができ、緊急時に対応することができる大人」を残さなくてはならないとしています。これらが記載されたニュージーランド政府のサイトの最後には「チャイルドケアサービスを検索」というリンクもついており、こういったサポートを使うよう案内されていることも分かります。

アメリカは州によって規定されているところと、されていないところがあります。
テキサス州では「任意の場所に15歳未満の子どもを残す」ことは、法律の刑事事件の児童の放棄とされるとしています。

法的に規定されていなくても、アメリカでは以下のような一般的なガイドラインが示されています。
  • 7歳以下:時間の長さに関わらず、一人にしない。これには、子どもたちを車、遊び場、裏庭に置いておくことを含む
  • 8歳~10歳:留守番させる場合は昼間または夕方の時間帯のみで、1時間以上は置いてはいけない
  • 11歳~12歳:最大3時間留守番することができますが、深夜や不適切な状況でない場合に限る
  • 13歳~15歳:保護者がいない状況で留守番できますが、一晩中はNGです。
  • 16歳~17歳:留守番できます。場合によって、2日間連続も可能です。
このように国からガイドラインが示されていることにより、国民の間で「〇歳以下の子どもだけを残しておくと逮捕される」という意識が浸透しているようです。またコミュニティでの見守りも大きいようです。親も気を付けるし、周囲もそのような目で見守り、異変を感じたらすぐに通報するということです。

日本では毎年のように、暑い季節、ショッピングセンターやパチンコ屋の駐車場などに車中放置し、子どもが命を落とす事件が後を絶ちません。

さらにコロナ禍において、不要不急の外出を控える、買い物はなるべく家族で行かないなどのメッセージが出されました。命に関われば今回のようにニュースになりますが、子どもだけが置き去りになっていたケースも少なからずあるような気がしています。
 

子育てしている親は「受援力(じゅえんりょく)」という頼る力を

アフリカでは「子どもひとりが育つには、ひとつの村が必要だ」ということわざもあるそうです。一方、日本人の私たちは、「人に迷惑をかけない」「人に頼るな」と言われて生きてきた方が多いのではないでしょうか。

しかし、子育ては初めての経験です。行政のファミリーサポートや一時預かり、数日預かってくれるショートステイなど、子育てが大変だと思ったときに、親は話せる相手、相談できる相手、手を借りる相手が必要です。
頼る力、助けてといえる力を「受援力」という

頼る力、助けてといえる力を「受援力」という

そして、人に頼る力、助けてといえる力を「受援力(じゅえんりょく)」といいます。この受援力には、サポート側の意識も大切です。母子手帳配布時の面談や妊娠時の助産師訪問、産前講座、そして健診や子育て講座などに携わる方は、周囲に頼っていいということ、小さなことでも相談していいということを、親に伝えていくことが大切です。

特に、虐待やネグレクトのようなことが起きている場合、親は周囲と関わりがないケースが多くあります。今回の事件でも、報道によると、保育園に通わなくなったり、3歳児健診に行かなかった、さらにシングルでの子育てですから、行政からの積極的な支援が必要だったように思えてなりません。

子育てが上手くいかない、疲れたから休みたい……こんな親の気持ちを誰かに受け止めてもらえたら、そして「頑張ってるね」と認めてもらえたら、親はまた頑張れると思うのです。

一方、人は、責められたと感じると周囲に頼りにくくなります。人に自分の子育てが上手くできていないことを、とがめられるかもしれないと思い、見つからないように隠してしまうかもしれません。

もちろん「どうしても子どもと一緒にいるのが無理」というような状況の場合、児童養護施設などで預かってもらい、その間に親自身が心と体と生活を整えて、また親子での生活を再開できたというケースもあります。児童養護施設などに頼っての子育ては、育てられないからというよりも、子育てしていくための生活を整える期間ともなるのです。

今回の事件について、「愛情が持てず育てられないのなら、里子に出せばよかった」という意見も見られました。しかし、その前に大切なのは、「助けて」と言える力=受援力が親にあり、周囲や行政の子育て支援の手を借りるという行動が取れたら、というのがまず第一だと私は思います。里親に出されて不調(ミスマッチ)により、児童養護施設に戻される子も少なく、そう簡単にいくものではありません。
 

189への通告は、支援の第一歩

どうしても気になる親子、気になる泣き声、子どもだけが残されているのではないかと思ったら「189」(児童相談所虐待対応ダイヤル)に電話してください。匿名でも通告でき、24時間つながります。

虐待かどうかは、児童相談所が判断します。通告は行政からの支援の第一歩。虐待でなくても、子育てに困っているかもしれません。困っている親子を行政の支援に結び付けるためにも、ためらわず情報提供を心掛けていただければと思います。

2018年に虐待で命を落とした5歳の結愛(ゆあ)ちゃん、2019年に命を落とした10歳の心愛(みあ)ちゃん。この2人の大切な命によって、日本でも法律が動き、2020年4月から「子どもへの体罰禁止」がスタートしています。

体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~

副題は公募からつけられたものです。

「みんなで育児を支える社会に」を実現できれば、虐待死はもちろん、ネグレクトや虐待で苦しむ子どもや親子が減ると思っています。私たちにできることは、まずあいさつから。子育てで大変な時期にベビーカーで散歩していて、「こんにちは。赤ちゃんかわいいね」と声をかけられるだけで、社会から見守ってもらえ、ほっとしたというママたちのコメントもあります。ぜひ地域の皆さんは、子育てをする親を温かい目で見守っていただけたらと思います。私たちにできることから始めていきましょう。

【参考サイト】

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※乳幼児の発育には個人差があります。記事内容は全ての乳幼児への有効性を保証するものではありません。気になる徴候が見られる場合は、自己判断せず、必ず医療機関に相談してください。