自粛生活にホッとしている人たち
首都圏では緊急事態宣言が延長されたままだ。自粛生活も1カ月半に及ぶ。だが、この生活が案外、心地いいと感じている女性もいる。
もともとひとりが好き
「先日、美容院に行ったんです。予約客数人しか店に入れないので、店はガラガラ。いつもなら『週末、どこか行くんですか』なんて聞いてくる美容師さんが、『私たちも時短で暇で。何か家でできるおもしろいことないですか』とため息をついている。私はもともとひとり時間が大好きなので、最近はまっている海外ドラマや本などを教えました。すごく喜ばれて意外でしたね」
そう言うのは、マヨさん(39歳)だ。会社員だが、現在は在宅勤務。パソコンさえあればできる仕事だから、もともと黙々と仕事をしていたが、今は家でできるのでかえって効率がいいという。
「会社の飲み会とか、つまらない世間話とか、いっさいつきあわなくてよくなったので、私としては本当に快適なんです。仕事に集中して早めに終わらせ、配信されるドラマや舞台芸術なんかをたくさん見ています。ひとり暮らしで誰にも気を遣わないから、本当にありがたい」
数少ない友人とはオンラインで話せるし、なにより会社で、「今度の連休、どこかに行かないの?」とか「実家、どこだっけ」などとプライベートな話を振られないのも心地いい。
「私は帰る実家もないんですよ。両親は私が小さいころ離婚して、父はすぐに再婚。母も私が20歳のころに再婚しました。母の配偶者のことはあまり好きではないので、母ともほとんど会っていません。そんな境遇を赤の他人にいちいち話すのもめんどうだから、いつも実家はないんですって冷たく言い放っていたんですけど(笑)、聞かれなければ言う必要もないから気楽です」
マヨさんは以前から、ひとりで食事をとるために店に入るのも平気だった。同じようなひとり暮らしの友人が、「近所にあいている店があって入りたかったけどテイクアウトにした」と言うのを聞き、慣れていないとそういうこともできないんだと驚いたという。
「ひとり好きの人間にとっては、この自粛生活、みんなホッとしているところがあるんじゃないでしょうか」
誰もかれもが、友だちと飲み会をしたいと思っているわけではないのだ。そして極力、「他人にかまわれたくない」と思っている人がいるのも事実なのだろう。
親からのプレッシャーが減った
短期のアルバイトを繰り返しながら、マンガを描いたりアニメファンとしての活動をしたりと「趣味だけで生きている」ルリさん(38歳)は、このコロナ禍で、同居する親の態度が変わったという。「70歳の父と68歳の母と同居しているんですが、ずっと結婚しろ、まっとうな仕事に就けと顔を見るたび言われてきました。自分の身の回りのことは自分でやるしお金をもらっているわけでもないけど、家賃は払っていないので、親からすれば『厄介者』だったんでしょうね。『娘さん、どんなお仕事?と聞かれても答えられない』と母親が嘆いていたこともありました。今は週に3日、アルバイトをしながらあとの日は家に籠もってマンガを描いています。お金にはならなくても楽しいんですよね。でも、こういう生活が親からしたら腹立たしかったんでしょう」
だが、新型コロナウイルスの感染が拡大するようになると、親の態度が変わった。外出して大丈夫なのか、危険ならアルバイトは辞めたらどうか、なるべく家にいなさい、などと言われるようになったのだという。
「その年齢なら子どものひとりやふたりいて当然だと以前は罵倒していた父親まで、『おまえはひとりっ子なんだから、結婚しなくてもいい』とまで言い出して。人ってこんなに変わるのかというくらい不思議です。実際には親のほうが不安なんでしょう。一時期、トイレットペーパーを買いだめしていた母親を私、怒ったことがあるんです。そのときは不機嫌そうにドラッグストアに行くのをやめた母親が、あとから『アンタの言うことは正しかったわ』なんて言い出して。なんだか気持ちが悪いくらい、私を尊重するようになっているんですよね」
マイペースに、生きたいように生きているルリさんがいることで、家庭はそれなりのバランスをとっていると両親が気づいたのかもしれない。
「通常の生活に戻ったとき、また結婚しろ、就職しろというプレッシャーがかかってくるのかもしれませんが、それでも私は生き方を変えるつもりはありません」
ただ、ルリさんも少し変わった。以前は帰宅すると自室に直行、家にいるときは常にこもっていたが、今はリビングで両親とお茶を飲んだりすることもあるという。
「お互いにちょっとだけ居心地がよくなっている。そんな気がします」
家族で過ごす時間が長くなってストレスがたまる家庭もあれば、こんなふうに互いに少しだけ歩み寄れるようになった家庭もある。