夫が私の親友と不倫……
夫が私の親友と不倫
夫が自分の親友と不倫、しかも彼女からそのことを告げられたら……。彼女のことも大好きだからこそ混乱し、当惑し、苦しんで。そんなつらい時期を過ごした女性が出した結論とは。
親友夫婦が破綻して
2歳年上の男性と結婚して15年、13歳の娘と10歳の息子をもつナナコさん(44歳)。高校時代から親友のフミさんもまたナナコさんと同時期に結婚、12歳の息子がいる。それからはずっと家族ぐるみでつきあってきた。
「家族二組でよく旅行もしたし、お互いの家を行き来したし。子どもたちも仲良くしていました。フミは私が20代前半で大失恋したとき、本気で心配してずっと家に来てくれていたんです。ひとりにしておけないと言って。私は結婚して仕事を辞め、今はパートで働いていますが、彼女はずっと仕事をしてきました。出産後も育休もろくにとらずに仕事に戻っていた。そんな彼女が羨ましいような気がした時期もあったけど、むしろ彼女への尊敬の念のほうが大きかった」
彼女の夫は、本当はもっと妻に家庭を向いていてほしかったようだ。だが、そのことをふたりできちんと話し合ったことはなかったらしい。フミさん夫婦の関係が微妙にずれているとナナコさんが感じるようになったのは、3年ほど前だ。
「うちに家族で遊びに来ても、フミ夫婦はあまり会話がない。子どもを通じて会話している感じ。私の夫も心配して、フミのご主人を誘って飲んだりしていましたね」
他人がいくら心配しても仲をとりもとうとしても、夫婦が一度ずれはじめると亀裂はどんどん大きくなっていくものだ。
「価値観が違うとよくフミは言っていました。夫は私のことをうっとうしく思っている、と。そうこうしているうちにフミのご主人に恋人がいるとわかったんです」
もう修復のしようはなかった。破綻が先なのか夫の恋愛が先なのかもわからなかった。
「毎晩のようにフミの相談に乗っていた時期もありました」
フミさんの息子の精神状態が不安定になっていくのを見て、ナナコさんは預かったこともある。それでも離婚は免れようがなかった。
まさか夫が
「もうダメだわ、離婚を決めたとフミが言ったのはそれから1年後でした。もうがんばれない、と。息子は父親と一緒にいると言ったそうです。そのことにもフミはショックを受けていました」それから数カ月後、離婚したという報告とともにナナコさんが聞いたのは、「ごめん、ナナコのご主人と寝た」というひと言だった。
「冗談だと思いました。だって私とフミの関係は、それぞれの夫婦関係より長いんですよ。お互いに大事な相手だと思っていたはず」
夫に確認すると、夫は空を見つめて動かなくなった。ナナコさんは思い切り、夫の頬を平手打ちした。ケンカひとつしたことのなかった夫婦が険悪になっていく。
「言い訳なんか聞きたくなかった。子どものために普通に暮らしていこうと思ったけど、フミと夫が絡んでいる姿を想像しては吐いてしまう。あるとき夫が絞り出すような声で言ったんです。『自分を痛めつけていくフミさんを放っておけなかった』と。だからって寝ていいわけじゃないでしょと私は夫を責めました。夫はつらそうな顔をして『本当に申し訳ない』と。フミからも連絡が来ました。あなたを傷つけるつもりはなかったって。私にはふたりして私をバカにしているようにしか思えなかった」
離婚という言葉は思い浮かばなかった。ただ苦しかったとナナコさんは言う。今となってはどうやってあの苦しい日々を乗りこえたのかわからないそうだ。
「1カ月か2カ月したころ、とうとう私の神経が参ってしまって。フミに会いました。『あなたを刺して私も死ぬ』と言ったらフミが『私はあなたに殺されてもかまわない。だけどあなたの子どもたちはどうなるの? お母さんが犯罪者になってしまっていいの?』って。そう言われて初めて泣き崩れました。ああ、私は夫の浮気がわかってから一度も泣けなかったんだとよくわかった。浮気相手に抱きついて泣いているというしょうもない図式なんですが、私の苦しさはやはりフミがいちばんわかってくれるとも思っていた」
フミさんは私が死ぬと言い張ったが、それはナナコさんが止めた。誰が正しくて誰が間違っているのか、誰が悪いのかもわからなかった。
「その晩だったかな、夫が『やり直してくれないだろうか』と言い出して。フミと夫が恋に落ちたわけではない、フミを放っておけなかったという夫の言い分も間違っているわけではない。そう感じました」
がんばりすぎずにやり直してみよう。ナナコさんはそう思った。その後、フミさんは離婚、そして人生をやり直すと言って、会社に転勤願いを出して関西へとひとりで旅立っていった。
「今も心がチクチク痛むことはあります。怒りよりもなんだかせつなくてね……。夫に素直に向き合えないこともある。だけど夫は揺らがないんです。以前とまったく変わらない態度でいますね。もともと友だち夫婦みたいな感じなんですが、今も私の顔色をうかがうわけでもなく、ごく普通に接してくる。それだけが救いになってもいるんです。夫と親友に傷つけられて、夫と親友に救われた。いや、もともとふたりがあんなことをしなければなにごともなかったんだけど」
それでも、夫のことを嫌いにはなれなかった。それがわかったのは大きな収穫だったとナナコさんは言う。フミさんとはあれきり連絡をとっていないが、いつかわだかまりなく会える日が来るのかもしれない。
「夫婦関係に一石を投じられたような気はしますが、私たちは壊れなかった。それを頼りに今後も生活を続けていくんだと思う」
そう言いながらも、ナナコさんの表情にふっと暗い影が差す。やはり心の傷はそう簡単には癒えないのだ。
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