40を過ぎて人生が大きく変わった女性
ひょんなことから人生は大きな展開を見せることがある。よくも悪くも、だ。女性にとって、それは40代で起こることが多いのかもしれない。老いを感じるほど年をとってはいないが、若い女とは呼ばれない。そんな微妙な年齢だからこそ、かすかな焦燥感も覚えて、「ひょんなことから」突っ走ってしまう怖れもある。
地元でママ友と飲んでいたら……
パートを始めて少しだけ自分の自由になるお金ができた。子どもも大きくなって、夫に留守を頼めば出かけられる。そんな40代女性は少なくない。トモカさん(44歳)も、そんな状況だ。
「今は上の子が中学に入って、下は小学校高学年。下の子が小学校に入ってすぐにパートを始め、ここ数年はパートの時間も少し増やして、月に1、2回はパート仲間やママ友と地元の居酒屋で羽を伸ばすことができるようになりました」
2年半ほど前のことだ。トモカさんはママ友ふたりと一緒に、地元で飲んでいた。隣に座っていたのがやはり地元らしき同世代の男性3人組。
「なんとなく目が合って、一緒に飲みましょうかということになって。盛り上がって、次回はカラオケに行こう、と。一気にLINEでつながって、日常的にも些細なことでそこに話をふると誰かが相づちを打ってくれる。そんなグループができたんです」
かつてだったら連絡がめんどうで、こういうグループは続かなかった。だが今はLINEを始め、連絡を取る方法がいくらでもある。最初は薄いつながりでも、何度も集まるうちにまるで学生時代のように仲良くなっていくものだ。
「楽しかったですね。若いころの自分に戻ったようで。結婚してから私単独で異性の友人ができたのは初めてなんです。夫の友だち夫婦と会ったことはありますが、やはりどこかに遠慮があるし。居酒屋で知り合った同世代の男性たちはみんな明るくていい人で、会うのが楽しみでした」
ところが、半年ほどたつうちにトモカさんがいちばん仲良くしていたママ友のリョウコさんの様子がどこかおかしくなった。グループ内で嫌な思いでもしたのかと聞いてみると、なんとリョウコさんはそのグループの男性・ユウイチさんとダブル不倫に陥っているのだという。
「いつのまにかそんなことに、と驚きました。ふたりは他の仲間にいっさい内緒で、ふたりきりでデートしていたようです。人の恋愛に口をはさみたくなかったから、バレないように気をつけてねと言うしかなかった」
リョウコさんは、一見、とても穏やかな女性。ダブル不倫に走るような情熱やエネルギーがあるようには見えないそう。人はわからないものだなとトモカさんは感じたという。
グループの中では、トモカさんだけがふたりの関係を知ることとなった。当事者ふたりも、それが安心材料になったのか、グループの関係は穏やかに続いていたという。ところが1年後、そのダブル不倫は大事件を巻き起こす。
ドライブデートで大事故に
ある日、トモカさんが地元を自転車で通行していると、顔見知りの女性が「大変よ」と近寄ってきた。リョウコさんが交通事故にあったという。しかも、運転していたのは夫ではない別の男性だというのだ。
「ああ、と思いました。私がやらかしたわけではないのに、なんだか『しまった』という感じ。例のふたりがドライブデートをしていて、帰宅途中に大事故に巻き込まれたそうです。その後は本当に大変でした」
ふたりとも、大けがとまではいかなかったが、もちろんどちらも配偶者の知るところとなった。リョウコさんは離婚。もともと夫婦関係はよくなかったというが、10歳のひとり息子を置いて家を出ていくことになったという。
「実家に帰るわけにもいかず、かわいそうでした。今はようやくケガもよくなって離れた町でひとりで暮らしています。自分名義の貯金が少しあっただけらしいし、夫は一銭も出さずに追い出したみたいなので、いつも気になっています」
一方のユウイチさんは、しれっと元の鞘に収まっている。もともと「調子がよくて楽しくて、けっこうモテる男だと思う。浮気の前科もあるのかも」とトモカさんは言う。
「事故後、グループは自然解散しましたけど、ウチの下の子が塾に行っているんですが、そこにユウイチさんの子も来ているんですよ。だから顔を合わせるんですよね。彼、事故後に初めて会ったとき、『心配かけてすみませんでした』と頭を下げました。悪い人じゃないんです。最近になって、町を去っていくリョウコに少しお金を渡したことも話してくれました。彼が少しでも彼女のことを心配していてくれたのは、悲惨な事件の中で唯一の救いかもしれません」
ひょんなことから恋に落ちたふたりだが、リョウコさんの運命は完全に変わってしまった。どこでどういうことが起こるか、人生は本当にわからないものだ。