仕事と家庭の間で悩む、日本の女たち
タレントの小倉優子さん(36歳)に離婚報道が浮上した。2018年に再婚した歯科医師の夫が、妻に専業主婦になることを求め、話し合ったが折り合わなかったために家を出て行ったのだという。
夫婦の間のことは他人にはわからない。それぞれの家庭の事情もあるだろう。だがこの一報を聞いた瞬間、女性はいまだに仕事と家庭との選択を迫られるのかと驚いた。
一般的には妻にも働いてもらわないと家計が回らないのが現状だが、仕事と家庭との間で悩む女性も少なくはないようだ。
夫の仕事がうまくいって
「結婚したときは共働きをしないとやっていけない状態でした。ふたりの子をもうけ、夫が独立してからはもっと厳しかった」
そう言うのは結婚15年のヒロカさん(46歳)。8年前、2歳年上の夫は40歳になるのを機に脱サラ、友人とともに会社を立ち上げた。それが軌道に乗るまで3年、本当にうまくいってサラリーマンの平均年収の3倍ほどを夫が稼ぐようになったのがここ3年ほどのことだ。
「それまでは夫は優しかったんです。私が疲れて帰ってくると、夕飯の支度がしてあったり夜はマッサージをしてくれたり。だけど仕事が忙しくなるとともに、家庭のことは何もしなくなっていった。忙しいからできないのはわかるんだけど、そこは時間を作り出す工夫をするべきだろうと私は思っていました。さらに年収が多くなると、どんどん態度が変わってきたんですよね」
ついに今年の初め、夫は妻に仕事を辞めるよう要求してきたという。ヒロカさんにしてみれば、いくら夫の仕事がうまくいったとはいえ、今後、どうなるかの保証は何もないのだから、自分の安定した仕事を辞める気はさらさらなかった。
「しかも収入が増えると、使う額も大きくなるんですよね。夫の友人が堅実な人だから会社は大丈夫だと思うけど、それでも今の状態がいつまで続くかわからない。夫は浮かれているんです。私は仕事を辞めないし、辞めたくもない。私のアイデンティティのひとつですから」
夫は収入が増えるとすぐ、外車を買おうとした。彼女は離婚話まで持ちだしてそれを止めた。そもそも電車通勤の夫に車など必要がない。必要ならカーシェアリングをすればいい。これから子どもたちの学費もかかるのだから、と必死に説得したのだという。
「専業主婦になれと今も圧力をかけてきます。私が専業主婦になることにどんなメリットがあるのかわからない。そう言ったら『妻に仕事を辞めさせた夫って、それだけで稼いでるってわかるでしょ』って。アホすぎて泣きそうになりました(笑)。世間から見たら夫のところなんて零細企業ですよ。それがわかってないんだから、いつ潰れても不思議はないと言ったら大げんかになりました」
がんばっている自分を褒めてほしいのだろう。そして世間には夫の収入だけでやっていける家だと思われたいのだろう。
「くだらない見栄のために、どうして私が仕事を辞めなければいけないのかわからない」
ヒロカさんはそう言ってため息をついた。
見栄がはびこる男社会
40代後半のある男性が言っていたことがある。「同窓会などで男同士が集まったとき、妻が専業主婦だと言う人がいると、みんな『おおっ』となるんですよね。それだけ男の稼ぎがあるからだという目で見られる。うちなんて妻のほうが収入が多いですから、それを言うと笑いが起こります」
妻のほうが収入が多いことが笑いのネタになるのもどうかと思うが、いずれにしても男性社会においては「収入の多いほうが勝ち」なのだろう。だから妻が専業主婦だと言うときに周りの羨望の目を心地よく感じるのだ。
妻が専業主婦を望んでいて、夫婦間でそれが納得できているならそれもいいかもしれない。だが妻が仕事をすることを望んでいるのに、夫がそれを阻止しようとするのはどう考えてもおかしい。妻の仕事は妻の人生の一部であり、夫のそれではないからだ。
働くには、生活のため、家計のため、将来のため、いろいろな理由がある。どんなに夫が稼いでいても、妻は自分の仕事が好きだから辞めたくない場合もある。自分で収入を得ることに重きをおいているケースもあるはずだ。つまり、夫の収入と関係なく、妻が働いていることもあるのだ。
前出のヒロカさんは、このところのコロナウイルス問題で、夫の会社は仕事が減少していることがつい先日わかったのだという。
「夫はそのことを私に言わなかったんですよね。今のところ、うちは贅沢をしていないからたとえ夫の収入が途絶えても、なんとか暮らしてはいける。それも私が働いていたからです。落ち着いたら、夫にはそのことをよく考えてもらいたい。そして稼げばエライっていうものではないと考えを改めてもらわないと」
ヒロカさんは少し怒ったような口調でそう言った。収入で夫婦の力関係が変わるということがあってはならない。彼女が言うように「稼いでいればエライというものではない」のだ。夫婦関係がもっとフラットでなければ、女性たちは黙っていないのではないだろうか。