初詣での「偶然」から一家離散の危機を経て

家族の危機

思わぬことから不倫が発覚するのは、それほど珍しいケースではない。たとえば球場で、不倫関係にあるふたりが大スクリーンに映ってしまったとか、台風時期の空港でテレビに映ってしまったとか。不特定多数の人が集まるところはバレにくいが、自身も不特定多数の市民であるがゆえに偶然、テレビや写真に写り込むこともあるのだ。可能性としてはリスクは低いはずなのに、「こんなときに限って」の法則がなぜか発動されやすい。

 

テレビ画面に夫が、そして娘も!?

あり得ないような場面をテレビで観てしまったと言うのは、リカコさん(48歳)だ。大学時代からつきあい始めた彼と「燃え上がるような恋」をして、26歳で結婚。20歳の大学生の娘と受験を控えた息子がいる。

これは昨年の元旦の話である。

「夫は社交的で明るいタイプ。うちは休日はそれぞれ勝手に過ごすのが長年の習わしなので、特におせちもつくらない。私も仕事をしているからめんどうだしね。ただ、大晦日になんとなく家族に確認したんですよ、今日はどうするって。夫は『東京に転勤してきた独身の後輩が、どうしても東京で初詣に行ってみたいというから連れていく』と。娘は『友だちと初詣』、息子は『ひとり暮らしの大学生の先輩に勉強を教わってくる』と。私は家で猫と一緒にのんびりしていました」

午前零時になり、なにげなくテレビを観ていると、初詣でにぎわう街や神社の様子が映し出された。

ほんの一瞬だったが、神社の前で夫が若い女性と一緒にいるのを見つけた。女性の頭が夫にもたれかかっているように感じたという。

「何を見たんだ、と自分の目を疑いました。でも確認する術はない。うーん、どうしたものか、夫に連絡してみようか放っておこうかと迷いつつ、またテレビに目をやったら、今度は繁華街の真ん中で娘が中年男とべったりしながら歩いている。なんかね、悪い夢でも見ているのかと思いましたよ、立て続けにそんな(笑)」

リカコさんはケラケラ笑うが、当時は笑える心境ではなかったという。

「正直言うと、そのとき私がどちらを心配したかというと娘でしたね。夫には皮肉のひとつも浴びせてやろうとちょっと戦闘モードになりましたけど、娘に関しては気が動転してしまった」

自身も大学生のころから夫となる人とつきあっていた。親にウソをついて彼と初詣に出かけたり外泊したりしたこともある。だから娘の恋愛に関しても寛容なつもりだった。

「でも、どこからどう見ても、夫、つまり娘の父親と同い年かそれ以上に見えたんですよね。年齢で差別するつもりはないけど、相手に家庭があるかもしれないし、そもそもそんな年上の人とつきあうことないじゃないですか」

当時の興奮が少し蘇ったようにリカコさんは語気を強めた。

 

娘(姉)の「恋」を息子(弟)はどう受け止めるのか……

リカコさんが気持ちをおさめきれず、だが娘に連絡をとることもできずにいると、息子が帰ってきた。

「朝まで勉強するって出かけたのに、どうしたのかと思ったら、息子の顔が真っ白なんですよ。『おかあさん、ねえちゃんがオヤジより年上の男とベタベタしてた』と。よく聞いたら、このところ娘の様子がおかしかった、と。息子は姉が大好きで、ふたりは本当に仲良しなんです。息子はなんとなく姉の男関係を疑ったようで、初詣に出かける姉を尾行したんですって。それで衝撃の場面を見てしまったみたい。ふたりはラブホテルに入って行ったと」

たとえ姉弟でもプライバシーはあるとリカコさんは思った。姉がどんな恋愛をしていようと、弟が非難するのは違うのではないかと、彼女は息子と話し合った。そう言いながら、いちばん胸がざわついていたのはリカコさんだったのだが。
 

まさかのラブホテルで父娘が遭遇!?

この話はさらにすごい展開を迎える。娘と男が出てきたラブホテルに、初詣を終えた夫と女性が入ろうとして顔を合わせてしまったのだ。どのくらいの確率でこういうことが起こるのかわからないが、天文学的な確率なのではないかと思う。

「朝になる前に帰ってきた夫の様子がおかしいんですよ。しばらくもぐもぐしていたんですが、娘がラブホテルから男と出てきたとつぶやいた。どうしてあなたがそこにいたのと言ったら、たまたま通りがかっただけだ、と。まあ、結局、全部白日のもとにさらされたんですが、夫は自分の行動を明らかにしても娘のことを考えていたのでしょうね。そこだけは評価してあげようかと(笑)」

リカコさんは息子を寝かせ、夫に「テレビに映ってたわよ」と皮肉を言い、朝方帰宅した娘に「あとで話がある」と告げた。

「家族でみんなぶちまけて話してしまおうかと思ったんですが、それこそひとりひとりにプライバシーはあるので、私がじっくり話しました。でもねえ、元旦から夫と娘がそれぞれ不倫している場面を見てしまうなんて、どういう巡り合わせなんだろうと思いましたよ」

夫は一時の気の迷いだと平身低頭だったので、様子を見ることにした。やっかいだったのは娘だ。母に恋を知られたことで攻撃的になった。

「彼女にとっては初めてのオトナの恋だったんですよね。それで執着した。恋愛は自由だけど、訴えられる可能性はある、成人なのだから自分で決着をつけなさいと言うしかありませんでした。止められたら燃え上がるのが恋ですからね」

自分の経験から、リカコさんはそう感じたという。

息子はいろいろ混乱していたが、なんとか受験を乗り切って大学生になった。

「夏頃だったでしょうか、娘が駆け落ちしかけたんですが、結局、既婚の彼に裏切られたようです。夫の勧めもあって、秋に娘とふたりきりで初めて旅行しました。彼女の恋愛の話はしなかったけど、娘に聞かれて私と夫の学生時代の恋については少し話しました。娘はショックだったでしょう。でもそれを乗りこえる強さをもってほしい。そう願っています」
 

衝撃の年末年始から1年、今年は

あれから1年。今回の大晦日は、夫婦と猫で過ごした。娘も息子も「友だちと初詣」だった。


「夫に言ったんですよ。私は、家族という形には執着しないよ、と。子どもたちはどこへでも羽ばたいていけばいい。夫も私もまだまだ若いし、それぞれ自由を求めてもいいんじゃないかと思うし」

だがそれを聞いた夫は、うろたえていたという。

「いや、オレは家族がいちばんだ。一家離散したら、子どもたちが帰る場所がなくなるって慌てていて、おかしかったですね。どの口が言うかと笑いました。でも本当にしみじみ思いましたよ。家族という形態は、子どもが大きくなったら無理して保たなくてもいいと」

子どもを社会に送り出す。その役目を果たしたら、もう家庭という形にこだわる必要はない。そんな考え方も今後、増えていくのかもしれない。
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