メンタルが弱った夫をケアできない私は冷たい?
イラスト:金子べら(@bera_kaneko)
「病めるときも健やかなるときも」一緒にいたいと思って結婚したのに、夫のメンタルが弱ったとき、どうしてもケアしきれない女性たちもいる。
彼女たちは「こっちだって弱ってるけどがんばっているのに」と言いたいのだ。だが、弱っている夫の前でそれは言えない。そんな自分は冷たいのかと悩んでしまうようだ。
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子育てと家事など一気にワンオペ状態に……ユリカさんの場合
結婚後も共働きで、ずっとシェアしながらがんばってきたユリカさん(44歳)。2歳年上の夫との間に12歳、10歳の子がいる。夫の様子が変わってきたのは、ここ半年ほどのこと。
「今まで夫として父としてがんばってきた夫が、帰宅すると『今日はもうダメだ』と食事もとらずに寝てしまったりするんです。心配したけど翌朝は、いつも通り出勤する。でもまた数日たつと、今度は帰宅してからずっと愚痴をこぼし続ける。病院に行くことを勧めても仕事が忙しいから行かれない、と」
ただ、家事はほとんどしてくれなくなった。ゴミ捨てやお風呂掃除、週末の買い物の荷物持ちなどは子どもたちに割り振っているが、上の子は地域のサッカーチームに入っており、世話役の夫はほとんど行かなくなってしまった。
「具合が悪いならちゃんと調べて、病気を治してほしいんですよ。心配だしね。なのに週末はゴロゴロしているだけ。家事をサボりたいなら、そうはっきり言ってほしいけど、どうもサボりたいだけなのか、本当にメンタル的にまずい状況なのかがわからなくて」
結果、ユリカさんひとりがキリキリしている状態。子どものことを相談しても夫はどこか上の空だし、きっかけさえあれば愚痴を聞いてもらいたがる。どうやら上司と後輩の板挟みになってストレスが強まっているようだが、「そんなの私だって同じよ」とつい言って、夫を黙らせてしまう。
「だから専門家にかかってほしい。ずっとそう言っているのに夫はそうしないんですよね。弱った自分を家庭でさらけ出しても何もいいことはないのに」
ユリカさんは困り果て、夫の上司に相談に行こうかと考えている。
女性は男性の2倍、うつになりやすいが、自殺者の7割が男性だという。ただこの数字は、どう読み解くかがむずかしい。女性は自殺を思いつめる前に「うつ」という形で自己防衛するのだろうか。あるいは男性は「うつ状態」だからといって病院には行かず、我慢し続けたあげく、ぽきっと折れてしまうのだろうか。いずれにしても、男性のほうがストレスに弱いということはあるようだ。
夫を追いつめてしまった……カオルさんの場合
似たような状況で、やはり夫がなかなか医療機関にかかろうとしなかった経験をもつカオルさん(46歳)の場合、夫を追いつめてしまったと感じているという。
会社員の夫が異動となり、通勤時間が長くなったのは3年前。当時、子どもたちはまだ8歳と5歳だった。
「通勤のストレスと、異動先の人間関係と、いろいろあったんでしょうね。いつもは淡々と話すタイプの人が、テレビを観ていて急に涙ぐんだり、たいした理由でもないのに子どもを怒鳴りつけたりするようになって。完全に情緒不安定でした」
少し疲れているみたいだから医者に行ってみたらどうかと、カオルさんは夫にやんわりと言ってみたが、夫は聞く耳をもたない。共働きなのに、手のかかる子どもがもうひとり増えたようで、逆に彼女のストレスが強くなっていった。
「1年くらい、夫は夫なりに我慢しながら、私もそんな夫を心配しつつ生活していました。ときには『いいかげんにしてよ』『自分だけが大変だと思わないでよ』と厳しく言ったこともあります。だけどあるとき、夫が『会社を辞めたい』と深夜に泣き出したんですよ。いい大人がそんなふうになるのは、とにかくメンタルがやられているのだからと病院に行くよう説得しました」
その日は納得して就寝した夫だが、翌朝起きると、夫はいなかった。カオルさんはすぐに警察に通報、夫の会社にも連絡をして、夫の行きそうな場所を探した。
「結局はふらふらになって家に戻ってきました。私はその日、大事な会議があったのに休まざるを得なくて。昇進がらみの大事な会議だったんですけどね。もちろん心配しましたけど、夫に私の人生を邪魔されたくないと思う気持ちも強かった。そしてそんな自分を冷たい人間だと思いました」
夫はようやく病院に行き、うつ病と診断された。そこから治療が始まり、今は会社の理解もあって、部署も変わって定時での勤務についている。
「少しずつよくはなっていますが、やはり前のようにはいかない。今は夫の母が手伝いに来てくれていますが、それはそれで私にはけっこうつらいんですよね」
もっと早く病院に連れていけばよかった、キツいことを言わなければよかったと後悔することも多々あるという。
夫のメンタルケアも妻の役割なのか?
ただ、相手も大人である。メンタルが弱くなったと自覚したところで、本来は見栄を張らずに病院へいくべきなのだ。カオルさん自身、「夫も夫だ」と思いつつも、自分のケアが足りなかったのではないかと葛藤している。
「妻だから夫のメンタルまでケアしなければいけない」そう思っているとしたら、妻の役割はつらすぎる。もちろん、夫婦としてお互いにそう思っているならいいのだが。
「つまらない意地を張らずに、自ら受診すべきですよね」イライラを心の中にしまいこんで、カオルさんは言った。なかなかメンタルクリニックを受診したがらない男性たちは、もっと自分を率直に見つめ直し、弱さを認めていったほうがいいのかもしれない。
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