子どもにとって「不倫した父」は「母を傷つけた男」
お笑い芸人の千原せいじ氏が、今年5月の20代女性との不倫に続き、今度は40代元セクシー女優との不倫旅行を報じられた。レギュラー出演する番組の中で、「息子が、母親を傷つけた男として自分を見る」と語っていたが、不倫がもたらすものの大きさを露呈した形だ。
実際、夫に不倫されたとき、妻や子どもたちは何をどう感じているのだろうか。
夫の不倫を第三者から知らされて……ミナコさん45歳の場合
夫が親の代から続く店を経営、それを手伝いながらふたりの子を育ててきたミナコさん(45歳)。48歳になる夫が20代前半の若い女性とつきあっていると知ったのは、店に出入りする業者からだった。2年前のことである。
「知らなかった、気づかなかったことにまずショックを受けました。どうやら店の従業員もお客さんも噂しているらしい。私だけが気づかず、ごく普通に暮らしていた。恥ずかしかったですね。『夫に浮気された妻』というレッテルを貼られたような気がして」
このレッテルが彼女を苦しめた。自分が至らないから夫に浮気されたのだ、と世間が見ていると思い込んでしまうのだ。
「当時、長男が19歳、長女は16歳。ふたりとも夫と口をきかなくなりました。長男は『自分がしたことを恥ずかしいと思わないの?』『おかあさんを傷つけていいと思ってるの?』と夫に苦言、夫はそれに参っていましたね。家族の前で申し訳ないと手をついて謝りましたが、子どもたちは冷たい目で見ていました。私自身は、夫が浮気したという事実より、やはり浮気された妻と人に見られているほうがつらかった」
店の経営に特に影響はなかったが、ミナコさんの自己評価はどんどん下がっていった。ここに不倫の大問題が隠されているように思う。
夫が浮気をするのは妻が至らないからではない。あくまでも夫自身の性格であり、置かれた状況やタイミングの問題。妻が罪悪感を抱く必要などまったくないのだ。
自分を取り戻すむずかしさ
そうやって自己評価が下がった場合、妻がそこから自分を立て直すのは至難の業だ。誰かに慰められてもカウンセリングに通っても、夫に踏みにじられたプライドはなかなか元には戻らない。「子どもたちが夫に冷たくしているのも見ていてつらかったですね。夫のことは許せないんだけど、私の怒りや悲しみが子どもたちにも乗り移っているのは決していいことではないとわかっていたから」
家庭内を円満にするためには、自分がしっかりしなくてはと思うし頭ではわかっているのだが、実際には店には出られない日々が続いた。子どもたちもそれに伴って、さらに父親を無視したり貶めたりするようになっていく。
「このままじゃいけないと思ったのが、“事件”から半年後ですね。私が自分の殻にとじこもっている限り、家族は崩壊への道をたどる。夫は仕事は一生懸命していたけど、夜は家にいづらいようで飲みに出かけてしまうから、ますます気持ちが離れていく」
家族の心の変化が手に取るようにわかり、ミナコさんは、ついに夫と正面切って話し合うことにした。このままでは自分も家族も潰れていくだけだから。
「夫に、自己評価が下がってつらいという話をしました。夫は自分がいけないのであって、ミナコが悪いわけではないと言って。わかっているけど立ち直れないんだと率直に伝えました。夫ははっきりと『ごめん、大事なのはミナコだけだよ』と言葉にしてくれたんです。私は5時間くらい文句を言い続けたのに、夫は黙って全部聞いていました。そこから少しずつ気持ちが上向きになっていったような気がします」
彼女が明るくなると、子どもたちの様子も変わっていった。頑なだった子どもたちの気持ちも柔らかくなっていった。人の過ちを許すことが大事だとわかっていったのではないかとミナコさんは言う。
夫の浮気が家族に一石を投じ、そこからそれぞれがいろいろ考えたのかもしれない。
「今は逆に強くなりましたね。次に同じことがあったら、夫を追い出す、店は私ひとりで切り盛りするからと伝えています」
傷が癒えたわけではないだろう。ただ、いつまでも同じところにとどまっていてもしかたがないと彼女が変わることを決めたのだ。そして、夫婦の力関係は静かに逆転しつつあるようだ。