50代に多い不調……ホルモンバランス・自律神経の不調など
更年期の後半戦、50代に入り閉経を迎える頃になると、女性の心身には様々な変化が起こります
婦人科で漢方相談を行っていると、閉経に伴って起こる心身の変化についてのご相談もよくいただきます。50代に差しかかる年齢の患者さんからは、自律神経系の不調、のぼせやほてり、めまいなどの訴えが多いです。
40代までと比べ、50代に入ると顕著に自覚されることが多い体の変化として、次のようなものが挙げられます。
- 白髪の増加
- 体力の衰え・すぐ疲れやすくなる
- 聴力・視力の衰え
- 足腰の疲れ
- 高血圧、動脈硬化、心疾患などの疾患
50代の不調の原因は? 東洋医学的な考え方
これらの不調は、基本的に「加齢による体力の衰え」や「基礎代謝の低下」などが原因で起こります。そして不調が重なると、それぞれの不調に対応するために薬が増え続けてしまったり、一つの不調が新たな不調の原因になってしまったりと、悪循環を生み出すことがあります。漢方では、加齢に伴う不調には「腎虚」が大きく関わると考えられています。腎虚とは、その名の通り「腎」の力が衰えてしまうこと。漢方において「腎」とは、腎臓のことだけを指すのではありません。泌尿器や、生殖器系、成長や発育に影響するエネルギーである「腎精」など、両親から受け継いだ生命エネルギーを司っているものを「腎」と考えます。腎精は、若い時には充実していて、加齢とともに減少していくものだと考えられています。
腎精は、生命エネルギーの根元に当たるものですので、この腎精をなるべく消耗しない生活習慣を整えることが、加齢に伴う症状全般に効果的です。
50代が気を付けたい「腎」に負担をかけない生活習慣のコツ
まずは腎に負担をかけてしまう生活習慣を避けましょう。大切なポイントは「過剰にならない」ことです。- 食べすぎ、飲みすぎにならないよう、暴飲暴食を避ける
- 日々の食事も薄味にして、味を濃くしすぎない
- 運動も疲労困憊してしまうほど、やりすぎない
- 房事過多(性生活が多すぎること)を避ける
これらは、両親から受け継いだ先天の精を消耗しないという考え方です。では、全く控える方が良いかといえば、そうではなく、ほどほどに取り入れて、バランスよく過ごしていく「中庸」という考え方が大切です。
そして、この腎精は、両親から受け継いでいるものではありますが、後天的に養うためには、日々の食事や薬膳、漢方薬が効果的と考えられています。
食材としては、山芋、納豆、オクラなど粘り気の強いもの、黒米・黒豆・黒ゴマ・黒きくらげなど色の黒い食材、また、程よく塩辛いものとして海藻類などもお勧めです。
50代・更年期や閉経時期の不調に効果的な3つの漢方薬
腎虚にお勧めの漢方薬はさまざまですが、以下で代表的な3つをご紹介します。■八味地黄丸(はちみじおうがん)
腎の温める力が不足し、腰や手足の冷えがあり、それにより痛みやしびれがある、また、排尿困難や尿漏れ、むくみ、口渇、かすみ目などがある「腎陽虚タイプ」の方には「八味地黄丸(はちみじおうがん)」を処方します。
■六味丸(ろくみがん)
八味地黄丸から桂皮と附子を抜いたもので、もともと小児に利用するために作られた処方です。腎の体を潤わせる力の不足により、ほてりや痒み、不眠の症状がある、また、排尿困難や頻尿、腰のしびれなどがある「腎陰虚タイプ」の方には「六味丸(ろくみがん)」を処方します。
■牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
八味地黄丸に牛膝と車前子を加えた処方です。八味地黄丸の適応で、特に水代謝や陽気の巡りが悪く、特に下半身のしびれや腰痛、浮腫が強い方には「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」を処方します。
漢方薬は医薬品のため、高い効果を期待できる一方で、合わない場合には副作用が出てしまうこともあります。ドラッグストアなどでも手軽に入手できる漢方薬ですが、まずは漢方の専門家に相談の上で服用していただくことをお勧めします。
50代、心身の不調に不安を抱えている方へ
50代が近づいてくると、それまでには体験したことがなかった不調が出たり、なかなか回復できず不調を引きずってしまったりすることがあるかもしれません。日常生活を整える養生は大切ですが、むやみに禁止事項を増やしたり、過度に頑張りすぎたりするのはよくありません。加齢に伴う変化は、生きている以上、誰にでも起こることです。悲観しすぎることなく、ご自身と「ほどよく」、不調とも上手に付き合っていくために、漢方のエッセンスを取り入れていただければ幸いです。