アニメ

独特のタッチの映画で描写される少女の成長とイラン激動の時代

洋画のアニメ作品にも、日本のアニメとは違った魅力があります。今回、フランスガイドの野口裕子さんがイチオシしてくれたのは、カンヌ国際映画祭でも受賞しているイラン人作家の半自伝的アニメ作品です。

野口 裕子

執筆者:野口 裕子

フランスガイド

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イラン人作家の半自伝的原作をアニメ化
 

カンヌ映画際で審査員賞を受賞したイラン出身の女性の自伝的映画『ペルセポリス』。「ペルセポリス」とはギリシャ語で「ペルシア人の都」という意味で、世界遺産にもなっているイランの古代都市の名前です。

ファンタジー満載のアニメ作品とは違い、シンプルな白黒を基調として、激動のイランを生き抜いた1人の少女を淡々と描いています。
 
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シンプルなのに引き込まれるマルジャン・サトラピの世界

サトラピ

ボン・マルシェの160周年記念インタレーションを担当したマルジャン・サトラピ
 

本作の監督の1人はマルジャン・サトラピという女性。私がマルジャン・サトラピ作品に初めて出会ったのは、デパートのボン・マルシェで展示されていた、創業160周年記念のインスタレーションでした。

独特のイラストがとてもステキで、「このインスタレーションを担当したのは誰なんだろう?」と調べたのがきっかけでした。
 
調べていくと、彼女はイラン出身で自伝のアニメーション映画を製作しており、しかもその作品は2007年の第60回カンヌ映画祭で審査員賞を受賞しているということが分かりました。

私は日本のアニメがデザイン的に苦手であまり観ないタイプ。アニメを観るとしたらディズニーやピクサー作品などが中心でしたが、本作については興味を持ち、DVDを借りて観てみることにしました。
 
この『ペルセポリス』というアニメ映画は日本やアメリカのアニメではあまり見られないタッチの作品。絵は白黒が中心で、CGもなくとてもシンプルな印象を受けました。物語は主人公のナレーションをベースに淡々と進んでいきます。なのに、登場人物の表情や動きの描写が生き生きとしていて、どんどん引き込まれていきました。
 

少女の目線で淡々と描かれるイランの激動の時代

作中で描かれているのは、主人公・マルジが少女から大人になるまで。この間には、親戚・隣人の逮捕や非業の死などが、彼女の身近に起こります。イランの恐怖政治やイラン・イラク戦争も背景にあり、この不安定な情勢から逃れるために彼女はウィーンへと留学し、一旦帰国した後にフランスへと渡ります。
 
マルジがウィーンでした体験は少し自分と重なる部分があり、観ていて心苦しくなりました。着いたばかりのときは羽を伸ばし、パーティー三昧で自由を謳歌する彼女。そのうち外国人としての差別や風当たりを感じるようになり、どんどん孤独になっていき、結局イランに戻る決心をします。

作中で描かれている恋愛体験では、別れる前と後で恋人がまったく違う顔で描かれているのがおもしろかったです。非常に主観的な描写ですが、「こういうことってある!」と笑ってしまいました。
 

映画にまつわるトリビア

本作はフランスの名女優カトリーヌ・ドヌーヴと娘のキアラ・マストロヤンニが主人公の母娘の声を担当したことで話題になりました。ちょっと低くてハスキーなキアラの声は、フランスでは典型的な憧れの対象(私は理解できませんでしたが)。主人公が大人になってから終始タバコを吸っているのでとてもマッチしていました。
 
押しつけがましくなく、時ユーモアを織り交ぜながら、平和や自由がとても尊いものであることを再認識させてくれる映画です。ぜひ日本の子どもたちにも見てもらいたいですね。
 
DATA
ペルセポリス

監督:マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー
時間:95分
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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