文庫版は旅に行くときに持参するのでボロボロになってしまい現在すでに4代目
著者の沢木耕太郎さんが実際に香港からザグレフまでをひとりで旅した体験をつづった『深夜特急』。80年代から90年代にかけて、日本人の個人旅行のスタイルを変えたと言っても過言ではない1冊です。
バックパッカー、とりわけ最終巻が刊行された1992年当時に大学生だった団塊ジュニア世代のバックパッカーにとってはバイブル的存在で、この本を読んで一人旅に出たという人も少なくないのでは? 私にとっても、人生を完全に変えてしまった大切な1冊なのです。
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ひとりで旅することのすべてを教えてくれた本
著者の沢木耕太郎さんは1970年代前半に、香港からポルトガルのサグレフまで1人旅をしています。最初はインドのデリーからロンドンまで、乗り合いバスで行けるかどうかを友人と賭けるところから始まりました。スタートとして、まずは格安航空券が手に入る香港へ発つのですが、ここから彼の濃厚な旅の物語が始まります。
今でこそバックパッカーの間では有名な香港の安宿密集雑居ビル「チョンキンマンション」や、バンコクのバックパッカーの聖地「カオサン」なども、私は『深夜特急』で知りました。
1泊数百円で泊まれる宿があることも、ローカルバスでの移動が刺激的なことも、貧乏でも現地の情報を駆使すれば旅ができることも、この本に教えてもらいました。ひとりで旅をすることのすべてを、私はこの1冊で学んだのです。
いたって普通な青年の旅物語に魅せられる
深夜特急がほかの紀行文と違うところは、沢木さんの物語がリアルに描かれている点です。
彼は無茶な旅をする人ではなく、とても真面目な普通の青年なのですが、香港で博打にハマってお金がなくなったり、人にだまされたり、途中で前へ進むことができないくらい心が弱ったり、さまざまなピンチに出くわします。
それでも旅を続けるなかで、人との素晴らしい出会いを繰りかえしながらたくさんのことを学んでいくのです。
その姿が少しどんくさく旅慣れしていないことにも親近感を覚え、彼の旅に魅せられてしまいます。旅の間のお金事情について事細かく書かれていて旅程がリアルなのも新鮮で、旅に出たいという気持ちを震わせてくれました。
「いたって普通の自分でも、そんなに予算がなくても、1人で海外を放浪できるのではないか」「人生で一度でもこんな経験をしたい」と思わせてくれるのです。
この本を初めて読んだとき、「旅行じゃない、”旅”がしてみたい!」と強烈に思ったことは今でも忘れられません。
私の人生を180度変えてくれた1冊
『深夜特急』のなかでも、私は香港からマレー半島、バンコク、シンガポールを旅する第1便(文庫だと1と2にあたる部分)が大好き。そこに描かれているアジアの街の風景や人々に会ってみたくて、実際に一人旅を何度もしました。
マレー半島は本と同じルートをたどりました。なかでも、本に書かれていたマラッカの夕日を見たときの感動はひとしおでした。ペナン島で本を頼りに沢木さんの泊まった宿を探し、宿泊したこともあります。宿を見つけたときは本当にうれしかったなぁ。
香港やバンコク、シンガポールもひとりで同じように旅をしてみました。そうやって私は、どんどんアジアと旅にハマり込むことになり、会社を辞めてアジアで暮らし、気がついたら旅のライターになっていたのです。
この本に誘われて、旅の魅力にとりつかれたから今がある。私にとっては、人生を完全に変えるきっかけとなった1冊です。
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DATA
新潮文庫┃深夜特急1-香港・マカオ-
著者:沢木耕太郎