男と女のあいだで、「ウソ」はあり!?
人は子どもの頃から、ウソをついてはいけないと教えられる。昨今の世の中の出来事を見渡しても、「ウソから身を滅ぼす」ことは多い。保身のためのウソ、人を傷つけるウソは特に嫌われる。ところが恋愛に関しては「ウソ」や「ごまかし」がまかり通っているようだ。
ウソも誠意?
不倫疑惑が生じ、詰め寄ったときに最近、認めてしまう夫が多い。以前だったら「たとえ女性とベッドにいるところを見られても関係を認めてはいけない」のが、男の世界における浮気のセオリーだったが、それが通用しなくなっている。
女性側も、「不倫そのものよりウソをつかれていることがイヤだった」という人が多い。「どうせなら最後まで騙し続けてほしかった」という“演歌”の世界はもはや存在しないのだろうか。
「私は騙し続けてほしかったですよ」
そう言うのは、ナツミさん(43歳)だ。31歳のときに結婚、すぐに子どもをを授かり、共働きしながら家庭を大事にしてきた。ところが第2子出産後の35歳のとき、ある日突然、予期していなかったことが起こった。
「当時、本当に家庭がうまくいっていたんですよ。私は産休中でしたけど、夫は仕事もがんばっていたのに残業をなるべくしないで帰ってきて、家事や育児をやってくれていた。子どもがふたりになって夫と私の仲も以前に増してよくなった。私、幸せだよって毎日夫に言っていました」
夫にほとんど不審なところはなかった。それなのにナツミさんは、夫と話しているときに、なぜかふと聞いてしまったのだ。「好きな人、いるんじゃないの?」と。
「自分でもなぜあんな言葉が口から出たのかわからないんです。でも夫がとてもステキに見えて、気づいたら言ってしまっていた。もちろん、『何言ってるんだよ』と笑って終わると思っていたのに、夫は急に目線が定まらなくなって、おろおろしはじめた。そして急に土下座して、『ごめん』って。何が起こったのか理解できませんでした」
夫は、家庭を大事に思いながらも外で恋をしていた。学生時代に熱烈に片思いした相手と偶然、再会し、彼女が離婚を考えていて相談に乗ったことが発端だった。
「ずっと心に残っていた好きな人と出会ってしまったら、気持ちを止めることはできなかったのかもしれません。ただ、私はそんなことは知りたくなかった」
ウソをつき通せなかった夫は弱いのか強いのか
当時、ナツミさんは「ウソをつき通してくれない夫の不誠実さ」を責めた。知らなければ知らないですんだ話だったはずなのに、と。「だけど夫は、『いちばん大事なのは家庭。生涯を通して一緒にいたいのはナツミ。今は熱に浮かされているだけだと自覚している。だからこそ、好きな人がいるのかという問いにウソがつけなかった』と言ったんです。それでますます私は混乱してしまった。大事な家庭があって、一緒にいたいのは私なのに、なぜ恋をしているのか。ウソをつけないと思って白状してしまったあなたは弱いんだと夫をなじりました」
その後、ナツミさんはうつ状態に陥り、心療内科に通った。夫はすぐにその彼女とは会わなくなったようだが、ナツミさんは3年以上苦しんだという。半年ほど休職し、職場でのステップアップも遅くなった。夫婦関係の再構築は今も道半ばだ。
「知らなければ私が病気になることもなかった。夫婦関係において、ウソは必要なんじゃないか、ウソこそ正義だということもあるんじゃないか。私は今もそう思っています」
もちろん、夫に起こっていることは知りたい、知ったうえで選択するのは自分だと思う女性もいるだろう。そのあたりは人それぞれ考え方が違うだろうが、ナツミさんは「夫にウソをついてほしかった」のだ。「知らなければ、それはなかったこと。一時期の恋であるなら、秘しておくのも誠意のひとつだと私は思います」