筑摩書房、著・チョ・ナムジュ、訳・斉藤真理子
そんな私が紹介するのは「82年生まれ、キム・ジヨン」。女性の差別的な困難などを描いた問題作で、韓国で社会現象を巻き起こしたベストセラーだ。8050問題にも通じる部分があり、ぜひ読んでもらいたい1冊。
女の幸せとは
私が育った田舎は主人公の環境と似ていて、封建的、年功序列、男尊女卑。男の子が跡継ぎとして大事にされ、女の子は勉強より家事をさせられた。私が家の手伝いをしている間、年上の兄は塾だ家庭教師だと常に勉強していた。学校では年配の女性教師から、妻であり母であることが女性の一番の幸せだと言われたし、親族間で集まれば女性たちはお酒と食事を用意し、男性たちは大宴会。田舎ではそれが当たり前だったのだ。
都会で見つけた居心地の良さ
息苦しい田舎から抜け出したかった私は東京の大学に進学、就職した。学校も会社も男女区別なく、職場では責任ある仕事を任され充実していた。忘れていた田舎の息苦しさを思い出したのは結婚、出産して実家に帰ったときのこと。孫が女の子であることが父には不満だった。子供のちょっとした粗相も母親の責任だと責められ、実家からは自然と足が遠のいた。
歪んだ優遇も地方でのひきこもりの遠因か
今、田舎では8050問題が起きている。中高年のひきこもりは男性が圧倒的に多く、地方に偏っているそうだ。私のまわりでも、家を継ぐための教育しか受けていない男性は自活能力が低い。優遇されて育った分、期待という重圧を抱え、押しつぶされてしまったときには恥だと罵られる。本書にもあるような当時の考え方は、女性を苦しめただけでなく、中高年男性が引きこもりになる一つの要因ではないだろうか。
読みながらさまざまな考察が広がる作品。苦しみを吐き出し、今を見据えるきっかけとしてぜひアラフィフ世代以上に読んでほしい一冊。
DATA
筑摩書房 | 82年生まれ、キム・ジヨン
著・チョ・ナムジュ、訳・斉藤真理子