1995年に発表されたさくらももこによるエッセイの文庫版
初めての妊娠。嬉しい反面、体調の変化に加え、「無事に出産できるのだろうか」「ちゃんと子育てできるのだろうか」……など、心も揺れ動きますよね。
そんなときにおすすめなのがちびまるこちゃん』の作者・さくらももこさんが、自身の妊娠、出産体験を綴ったエッセイ『そういうふうにできている』(新潮社)です。
二人の子どもの母親でもある私は、30代後半で初めて妊娠しました。すこぶる順調な経過だったにもかかわらず、妊娠後期にまさかの大量出血→緊急入院。病院のベッドで不安や孤独にうちひしがれている時に出会い、救ってくれた思い出の一冊です。
「不安なのは自分だけじゃない!」と励ましてくれる
人生における一大イベントのひとつである妊娠・出産。私は30代後半で、初めて体験しました。高齢出産のため不安は大きかったものの、妊娠経過はすこぶる順調。出産直前まで仕事を続ける気まんまんで、取材やロケなど、日々忙しく過ごしていました。
ところが、妊娠後期のある朝、突然の大量出血。慌てて病院に行くと、その場で入院を言い渡され、「出産まで絶対安静。状況によっては帝王切開になるかも」と告げられてしまったのです。
妊娠中、誰もが一度は感じる孤独、不安
「突然の仕事キャンセルで、仕事関係の人に申し訳ない」
「帝王切開だなんて。……マタニティスイミングにも通って、呼吸法練習していたのに」
「おなかの赤ちゃん、ごめんね。自分のことばかり考えてるからこうなっちゃったんだ」
……病院のベッドに横たわりながら、「これからどうなるのだろう」「無事に出産できるのだろうか」など、自責の念に加えさまざまな不安が嵐のように押し寄せ、涙が止まらなくなってしまいました。
そんな中、お見舞にきてくれた主人から手渡されたのが、この「そういうふうにできている」でした。
ページを開くと、読み進めるごとに、“さくらももこワールド”が全開!
例えば、
「妊娠初期。何の理由もないのに全てが嫌になってしまったのである。自分の存在すらも嫌でたまらなくなってしまったのだ」
「安定期は便秘に悩まされた。肛門にひっかかった便を出し切るのにかかった所用時間は、
1時間半。長い長い戦いであった」
「予定日が近づいても胎児がおりてこない。もしかしたら帝王切開になるかもしれない。
切腹? 嫌だ。切らずに産みたい」
など、さくらさんご自身の妊娠~出産エピソードが、時にユニークに、時にほのぼのと描かれており、くすっと笑ったり、じわっと涙ぐんだり。
「そうそう、私も同じ!」
「なるほど、そう考えればいいんだ」
「さくらさんも、こんなに大変だったんだ。私もがんばらなきゃ」。
不安でいっぱいだった私を、軽妙かつ臨場感&洞察力あふれる文章で励ましてくれました。
孤独や不安よりも、希望を
さくらももこの死生観にもふれることができる「哲学書」
妊娠、出産は神秘
この本のもうひとつの魅力は、折にふれて
・「産まれてくること」の意味
・「妊娠、出産」というフィルターを通して考える生と死
・「親」と「子」のあり方
など、さくらさん独自の「死生観」のようなものについて語られているところです。
特に、帝王切開中に確信したという、「脳と心と魂の関係」についてのくだりは、神秘的でいながら現実的でもあり、哲学書を読んでいるような荘厳さを感じました。
また、文庫版では巻末のビートたけしさんとの対談も必読!「やっぱり子どもが原点!」をテーマに、お互いの作品にふれながら、子ども時代のことや子育て観に加え、ここでも「脳と心と魂の関係」について語られています。
妊娠、出産への不安をふきとばしてくれるだけでなく、生きる希望を与えてくれる本書。
天国にいってしまったさくらさん。新刊はもう読めないのかと思うと、とても残念ですが、
妊娠中の人はもちろん、たくさんの人に読んでもらい、この本の魅力を語りついでいただきたいです!
DATA
新潮社|そういうふうにできている(文庫版)
著者:さくらももこ