人生に迷ったとき、また物事を判断するときに、指針となるものがないとブレてしまうものです。2024年度に一万円の顔となる渋沢栄一さん解説による「論語」の本は、まさにそんなときに指針となる一冊です。
そこで今回は、『渋沢栄一の「論語講義」』 (平凡社新書)をイチオシします。
“新一万円札”で知った人にも伝えたい「渋沢栄一」の魅力
私自身、「論語」を読み始めたのは、自分のブログのアクセス数が急激に上がったときでした。もし人として誤ったことを書いてしまったら、読者の方々に悪い影響を与えてしまうのではないかと不安を感じたからです。そこで、一から「人としての魅力」について勉強し直しました。当時、色々な「論語」の本を片っ端から読んだのですが、その中でも、いちばんおもしろくて、分かりやすくて、現代にも通じる内容が書かれていたのがこの本でした。
渋沢栄一さんは、“日本資本主義の父”と呼ばれ、第一国立銀行、東京ガス、東京海上火災保険、王子製紙、帝国ホテル、東京証券取引所、キリンビール、サッポロビールなど500社以上の企業の設立に関わり、社会活動にも熱心な人格者だったそうです。あの経営学者のドラッガーも彼から経営の本質を学んだともいわれています。
そんな渋沢さんが、儒教の最高権威者である孔子の「論語」を解説すると、こんなにも奥深い内容になるのかと感動したものです。
「人としての魅力」を学ぶと、日常にも恋愛にも役立つ
渋沢さんは本書で、「『論語』の教訓を守っていけば、人はよく自分を磨き、立派な家庭を築き、何事もなく無事に世を渡っていけると確信している」とおっしゃっています。恋愛において最終的に重要になるのは、上っ面のテクニックではなく「人としての魅力」です。これがなければ人といい関係を築くことができませんよね。でも、人としての魅力ってなんでしょうか? どうやって身に着ければいいのでしょうか?
この本では、「人としての魅力」とはどういうものなのかを「論語」を元に渋沢さんの経験に基づいて解説していて、どんな方にもわかりやすいと感じます。
例えば、「論語」では、こんなことを伝えています。
これに対して、渋沢栄一さんは、こんなことをおっしゃっています。自分については厳しく反省し、他人には寛容な態度で臨む。そうすれば、人の怨みを買うことも少なくなる
家庭内のやすらぎでも、友人との交際でも、自分については厳しく反省し、人を責めるのに控えめであれば、和気あいあいと円滑に物事が行われていくものだ
恋愛や結婚において、「相手を自分の思い通りにしたい」「相手をコントロールしたい」と思う人は少なくありません。でも所詮、相手は別の人間。自分の思い通りになんてできないものです。
自分自身もこういう人でありたいですし、パートナー選びの時もこういった人を選んだら、穏やかな家庭を作れるかもしれませんね。個人的には、下手な恋愛テクニック本よりも、読んでいた方がいい本だと思っています。自分の魅力を上げるだけではなく、相手選びの際にも参考になるでしょう。
論語の解説には「人格」が出る
「論語」の解説本はいくつもありますが、やはり最後は、解説する人の「人間性」が問われるもの。なぜなら、その人の人生観によって、同じ「論語」の文章でも解釈が変わってくるからです。例えば、「論語」には男尊女卑の価値観があると言われています。そんな古い考え方は現代に使えない! と考えることもできます。でも私は、孔子のような人格者が本当にそんな考えを持っていたのか? と疑問に思っていました。
この本には、このようなことが書かれていました。
今や政治上も男女同権に近づき、また教育も女子に行き渡ったのだから、昔と同じ見方はできないだろう。
(中略)
孔子は、「過去の歴史を勉強することによって、現代に対する洞察を深めていく」と述べているように、意欲的に新しいものを取り入れようという考え方を抱いている方だった。だから、もし孔子が今日に生まれたのであれば、絶対にこのような言葉は残さなかっただろう。婦人参政権も否認しないに違いない
このように、現代の価値観に合った論語の解釈を教えてくれます。
渋沢栄一さんの人間性だからこその深い解釈によって、より「論語」の神髄を学ぶことができる一冊になっています。人生に迷ったときに読むといい本ですよ。
DATA
平凡社新書┃渋沢栄一の「論語講義」
著者:(著)渋沢 栄一、(編訳)守屋 淳
発売年:2010/9/15
判型:新書/kindle