とはいえ、「ストレスがなさすぎてもダメだ!」ということも確認されています。およそ100年前、心理学者のロバート・ヤーキーズとジョン・ドットソンは、「難しいタスクをこなすには、適度なストレスレベル(覚醒レベル)を保つ必要がある」と発表しました(2)。
余裕たっぷりな環境はダメ
第一に、余裕たっぷりな環境は、僕らのパフォーマンスを低下させます。1つストーリーを考えてみましょう。あなたは大学受験を控えた高校3年生で、志望校は東京大学です。模擬試験を受けたところ、あなたの評価は「A判定」。余裕で合格できるラインだと、あなたは安堵しました。
まだ試験は終わっていませんが、すでに「合格した」と錯覚しはじめます。そして、「ちょっとくらい、勉強をサボっても、まだ大丈夫だろう」と考えます。気づかぬうちに勉強時間は減り、集中力も下がり、ボーッとしていました。
そして、来たる受験当日。あなたは満を持して試験を受けました。その結果は……。言わなくてもわかりますよね。ちなみに、これは僕の実話です。「十分余裕がある!」と考えたせいで、僕のパフォーマンスは下がりました。余裕があり過ぎると、僕らのパフォーマンスは落ちてしまうのです。
切羽詰まった環境もダメ
第二に、切羽詰まった環境も僕らのパフォーマンスを低下させます。ここでも、ストーリーを考えてみましょう。あなたは多忙なビジネスマンです。1分1秒を無駄にすることも許されません。少しでも気を抜くと、あっという間にタスクが山積みになります。1年365日、月に30日、週に7日、1日12時間働いています。休みの日はなく、年中無休です。ゆっくりできる時間といえば、食事の時間とお風呂に入る時間だけです。
そんな中、あなたのパートナーが「旅行しようよ!」と誘ってきました。「仕事よりもパートナーとの時間が大切だ!」というのがあなたの信念です。だから、なんとか時間をやりくりしました。
そして旅行当日。楽しみにしていた時間です。至福のひとときとなるはずでした。しかし、あなたは、旅行先に着いても仕事のことが頭から離れず、パートナーとの会話も上の空。「旅行から帰った後、どうやって時間をやりくりしよう……」といった不安で頭の中はいっぱいです。
あなたのパートナーは薄々そのことに感づいています。そして、旅行から帰ってきた後、パートナーは苦しい顔をして、あなたにこう言いました。「せっかくの2人の時間だったのに、楽しくなさそうだったね」。
これもまた、僕の実話です。多忙を極めた僕は、妻との旅行を楽しめなかったこともしばしば。旅行そのものに問題はありませんし、僕は彼女のことを心の底から愛しています。それでも旅行を楽しめなかった原因は、「余裕がなさすぎる」ことでした。
「少し物足りない環境」を作り出そう
2つのストーリーを紹介しましたが、ストレスが大き過ぎても小さ過ぎても、どちらの場合も自制心が下がる姿がイメージできますよね。「自制心が下がる=貧乏体質」「自制心が上がる=金持ち体質」といえます。自制心を高めるためにも、自分のストレスを管理しましょう。「余裕たっぷりな環境」でも「切羽詰まった環境」でもなく、間をとって「少し物足りない環境」に身を置きましょう。
適度なストレスで、自制心を最大限に高めるのです。それができる「少し物足りない環境」こそが、金持ち体質を手に入れる近道です。
【参考文献】
- 書籍:ケリー・マクゴニガル, 2012, 『スタンフォードの自分を変える教室』, 大和書房
- 論文:Robert M. Yarkes and John D. Dodson, 1908, 『The relation of strength of stimulus to rapidity of habi-formation』, Journal of Comparative Neurology and Psychology, 18(5), pp. 459-482