集中力向上や健康維持も。木はやっぱり体にやさしい
感覚的にも科学的にも身体と心にやさしい木材の効能を、多様な視点からひもといてみましょう。
●木造施設内ではインフルエンザにかかりにくい
木は、周囲の湿度が高い時には湿気を吸収し、乾燥すると水分を放出する調湿効果を備えています。この性質がもたらす大きなメリットと考えられているのが、インフルエンザウイルスの蔓延防止。木造校舎は鉄筋コンクリート造の校舎に比べて「インフルエンザによる学級閉鎖の割合がおよそ3分の1」との調査結果が報告されています。(財団法人日本住宅・木材センター「木造校舎の教育環境」より) インフルエンザウイルスは、気温が低く、空気が乾燥している環境で長期間生存します。木の調湿効果は、そんなインフルエンザウイルスにとっていわば“大敵”と言えるでしょう。加えて、木ならではの抗菌性もインフルエンザウイルスの増加を防ぐ要因と考えられています。
●子どもの一番人気は木質空間だった
住友林業筑波研究所が、3歳児クラス6名、4歳児クラス6名、5歳児クラス12名の子ども達に、下の写真の4種の床で遊んでもらい、どれが好きかを調査する実験を行いました。
結果は、1分以上寝転んでいた床、10分以上遊んでいた床、いずれも1位は無垢の床(木材の一枚板の床)。ある子どもは「柔らかくてしっとりしているから好き」とその理由を語っています。この感想に賛同する大人も多いのではないでしょうか。
●木造施設では子どもの集中力が高まる
住友林業筑波研究所では、こんな興味深い実験も行いました。小・中学生の子ども10名に下の写真の4種の空間で、90秒間の計算と90秒間の休憩を繰り返してもらったのです。 その結果、白色クロスで囲まれた空間に比べると、木目に囲まれた空間では休憩中によりリラックスでき、計算中も木目の空間ではより集中して問題を解けることが分かりました。具体的には、リラックスしている時の脳波「α波」、集中している時の脳波「β波」の数値がより大きくなることが確認されたのです。
さらに、別の文献では、子ども達の「疲労度」と「集中力」は、鉄筋コンクリート造校舎よりも木造校舎のほうが数値が良いことが報告されています。木造の学校や塾、自宅なら、より勉強や宿題がはかどるかもしれません。(財団法人日本住宅・木材センター「木造校舎の教育環境」より)
●マウスが教えてくれる「健康長寿に木が好影響」
静岡大学農学部が行ったマウス実験によると、木造施設での暮らしは、健康長寿に良い影響を与える可能性があることが分かりました。木製、金属製、コンクリート製、3種類のケージに生まれたばかりのマウスを入れ、生存率を比較した結果、木製は生存率が85%だったのに対し、金属製は41%、コンクリート製に至ってはわずか7%だったのです。 なぜこのような極端な差が付いたのでしょうか。原因は、木が空気を多く含み、断熱性に優れているため、マウスの体温をあまり奪わなかったことで健康長寿に好影響を与えたためではないかと考えられています。
高い耐久・耐震・耐火性。鉄にも劣らない木の強さ
現在でも、新築住宅の多くは木造で建てられています。世界有数の森林大国だけに身近な素材であることに加え、木ならではの「強さ」も木造住宅がここまで受け入れられている要因と考えられます。●法隆寺五重塔が証明する1000年以上の耐久性
7世紀末から8世紀初頭に完成し、築1000年をはるかに超える法隆寺五重塔は、世界最古の木造建築物です。我が国の国宝であるのはもちろん、世界文化遺産にも登録されています。
なぜ法隆寺五重塔は、これほど長い時間継承されてきたのでしょうか。東京スカイツリーの耐震構造にも応用されているという五重塔の心柱構造もさることながら、木自体の耐久性も大きな要因と考えられます。 木の風化速度は1年に約0.03mm。100年間風雨にさらされても、3mm程度劣化するだけで長期間にわたって当初の太さを保ちます。ちなみに鉄の劣化速度は年0.05mm。一般的に使用されている2.3mm厚の鉄骨が両端から錆びた場合、20年程度で朽ちてしまう計算になります。
●木材は鉄骨より火に強い
木材と鉄骨どちらが火に強いか? こう聞かれると多くの人が「鉄骨」と回答するかもしれません。しかし、海外の研究機関が公表したデータを見ると、実は木の方が鉄より火に強いことが分かります。 この事実は、鉄骨と木材それぞれを炎であぶる実験で判明しました。まず鉄は、過熱から5分後、約550度に達すると急速に強度を落とし始め、約10分後には約2割までに落ち込みました。
対して木は、約550度では強度にほとんど変化はなく、約10分後、約700度に達しても約8割の強度を維持。15分後でも約6割の強度を保ちました。強度が保たれる時間が長くなるほど、火災発生時の避難時間が確保しやすくなるはずです。
木が鉄骨より火に強い秘密は「木の炭化」にあります。ある程度の太さがあれば、木は燃えて炭化します。表面を覆った炭化層が断熱材の役割を果たし、燃焼が食い止めやすくなるというわけです。
地球温暖化ストップに効果あり!木は地球にやさしい天然資源
木造住宅を建てるためには、当然のことながら、山や森林の樹木を伐採する必要があります。何だか地球にやさしくなさそうな…というのはステレオタイプな見方かもしれません。住宅用建材の3本柱である、鉄、コンクリ―ト、木材のうち、断然エコなのは木材なのです。●製造時のCO2排出量が少ない
木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造それぞれの建材製造工程でのCO2排出量を比較すると、下の図表のとおり、木造は圧倒的に少ないことが分かります。 鉄骨、鉄筋を製造するには、超高温の電気炉で溶解、成形するのですが、この工程で膨大なCO2を排出するのです。
対して木は、山や森林の樹木を伐採し、成形するのみ。しかも木は伐採される前に吸収したCO2を炭素にして自らの内部に固定し、木材として住宅などに使われた後も空気中に放出しません。さらに、木を伐採した後にもう一度植林を行うことで、若い木の成長過程でまた多くのCO2を吸収・固定することができます。 ちなみに一般的な木造住宅(136平方メートル)に使われている木材が固定している炭素量は約6t。これは約900平方メートル、つまりテニスコートおよそ3.5面分の森が固定する炭素量に匹敵します。杉の木に換算するとおよそ1570本に相当し、木造住宅を建てること、木材製品を使うことは都市に森をつくることと同じである、とも言われています。
●再生可能な天然資源・木の使用は防災、国土保全の意義も
日本の森林の大半は、木材生産を目的に植林された人工林が占めています。しかし、外国産の比較的安価な木材の輸入量が増えたことで、国産材の利用が減り、放置されている人工林は年々増加しています。 放置された人工林はどうなるのでしょうか。特に問題なのが、木々が密集し、林床に光が届きづらくなるため下草が育ちにくくなることです。本来、豊かな森には下草が豊富に生え、雨水をゆっくりと土中に浸透させています。この働きが鉄砲水や土砂崩れを防いでいるのです。
しかし、下草がうまく育たなければ雨水は一気に山の斜面を滑り下り、麓に大きな被害をもたらすことも考えられます。
これを防ぐ有効な手段なのが「適切に人工林を活用すること」。木は、苗木を植え、育て、成木を伐採して活用し、再び苗木を植えるというサイクルによって、繰り返し利用できる再生可能な天然資源です。木造住宅や木質製品をつくるため、計画的に人工林を使うことはCO2排出量を減らすのはもちろん、日本の森を守り、ひいては防災、国土保全にも大きく貢献するのです。 木が備える真の実力や、活用することの意義をお分かりいただけたでしょうか。ちなみに2024年度からは、1人1000円の『森林環境税(仮称)』が徴収され、森林資源の活用、林業の人材育成、木材利用促進などの財源に充てられることが決定済み。今後“国策”として加速していく建築物の木造、木質化に伴って木の効能が再評価され、木造住宅の価値が向上することも期待できそうです。
<関連サイト>
■木の強さとやさしさ
■環境に配慮した良質な木材で家づくり