フェラーリ製エンジンを搭載した2つのモデル
イタリアの名門高級車ブランド、マセラティが初めてSUVを世に問うたのは2016年のこと。レヴァンテという名の大型SUVは、モダンマセラティのデザイン的な文法に完全にマッチしたエクステリアデザインをまとっていた。V6ツインターボ(ガソリン&ディーゼル)を搭載するレヴァンテは、既存のクワトロポルテやギブリの乗り味を高級SUVとして十二分に発揮。高性能で格好いいSUVの筆頭格として、人気を博している。実はレヴァンテ発表の以前から、マセラティ本社の預かり知らない場所(モデナのどこか)で、ひとつのプロジェクトが進行していた。アルファロメオ・ジュリアを生み出したことで有名となったスカンク・ワークスのひとつで、レヴァンテ用のSUVプラットフォームをベースにその限界パフォーマンスを確かめるべく、V8エンジンを搭載した高性能SUVをひそかに開発していたのだ。 そのエンジンとはF154と呼ばれる3.8L90度V8ツインターボで、フェラーリ用3.9Lエンジンの親戚スジにあたり、マラネッロのエンジンファクトリーで組み立てられているフェラーリ製ユニットである。すでにマセラティ クワトロポルテGTSにも搭載されている。
背が高いだけのマセラティスポーツカー
レヴァンテが登場したとき、誰もがこのエンジンを搭載したGTS仕様が近い将来登場すると期待したもので、待つこと2年、ようやくその日がやってきた。しかも二重の歓びを伴って。何とマセラティはレヴァンテのV8を市場投入するにあたって、スカンク・ワークスの提案を受け入れ、同時に2種類のエンジンスペックを用意することを決めたのだ。550psのGTSと、590psのトロフェオである。
いずれも専用のシャシーチューニングと4WDプログラムを受け入れ、なかでもトロフェオにはSUVながらコルサモードというスパルタンなドライブセッティングも用意された。 日本上陸を果たした2台のレヴァンテのV8を、伊豆の雄大なスカイラインで試した。当然ながら、ワインディングロードでも抜群のパフォーマンスをみせたのはトロフェオだった。機敏で正確なステアリングフィールに、怒濤のトルクによる俊敏な立ち上がり、そしてスーパーカー顔負けのサウンド、といった具合に、まったくもって背が高いだけのマセラティスポーツカーだ。 もっとも、街中を軽く流しているときには、そのフラットで硬質なライドフィールが少しスパルタン過ぎると敬遠する向きもあるだろう。とはいえ、フェラーリ製V8を積んだSUVパフォーマンスは捨て難く……。そういう人はGTSが良い。
価値ある二面性をもったGTS。性能的にも十二分
基本的なパフォーマンスは、トロフェオとさほど変わらないのだ。GTSを駆っても十分に速いし、音だって迫力ものだし、車体サイズを感じさせないハンドリングの質もなかなかのものだった。その場で乗り比べて初めてトロフェオとの違いに気づくといったレベルであることも確かなので、見映えの差をまるで気にしないというのであれば、GTSでも性能的には十二分だと思って欲しい。むしろ、普段乗りには少しでも落ち着きがあったほうがいい、と思われる向きにはGTSを勧めたい。毎日、何が何でも戦闘モードになる必要などない。気分がのらないときには大人しく、のったらのったで思う存分、持てるパフォーマンスを解き放つ。価値ある二面性という意味では、スポーツよりのトロフェオよりも、GTSが優っている。 いやいや、人生毎日が波乱万丈で、大人しくなんてしてられない、というアグレッシブ&ハートな向きは、ためらうことなくトロフェオを。毎日が刺激的だと思う。