YAMAHA(ヤマハ バイク)

ヤマハのトレーサー900GT試乗インプレッション

MT-09のバリエーションモデルとしてリリースされたMT-09TRACERがモデルチェンジ。名前もトレーサー900に変更されました。シート高が5mmとはいえ高くなっているのが気になるところですが足つき性はどうか?走りはどう変わった?実際に都内の通勤で試乗してインプレッションします

相京 雅行

執筆者:相京 雅行

バイクガイド

MT09トレーサーからトレーサー900ABSへ

トレーサー900フロントビュー

トレーサー900GTフロントビュー

2014年に発売されると同時に大ヒットとなったMT-09。ヤマハ(YAMAHA)は経営の中長期計画の一つに基本プラットフォームを意識したバリエーションモデルを展開することを発表していました。そして翌年の2015年、ストリートファイタースタイルの「MT-09」をベースにアドベンチャーバイクの要素を取り入れたバリエーションモデル「MT-09TRACER」をリリースしました。
 
ベースモデルの「MT-09」は2017年にマイナーチェンジが実行され、デザインも機能も熟成。2018年には上級仕様の「MT-09SP」もリリースになりました。ベースモデルのアップデートに合わせて、2018年4月には「MT-09TRACER」もマイナーチェンジ。名前も「TRACER900(以下トレーサー900)」に変更されました。
 
さらにベースモデルMT-09に上級仕様の「MT-09SP」が追加されたように、トレーサー900にも「トレーサー900GT」という上級モデルが用意されました。2015年にリリースされた初代MT-09TRACERにも試乗経験がある筆者が、マイナーチェンジしたトレーサー900GTに試乗し、熟成された性能を体感してみました。
 

トレーサー900GTの装備をチェック

初期型のMT-09TRACERに比べ、さまざまな装備が熟成されているトレーサー900GT。例えば、ライディングを快適にする装備として追加されたのが「アシスト&スリッパークラッチ」。クラッチレバーの操作を軽くし、ギアダウン時にリアタイヤがロックするのを緩和する装備です。
やや大きくなったフロントスクリーン

やや大きくなったトレーサー900GTのフロントスクリーン

さらに熟成されたパーツに、従来型に比べてやや大きくなった「ウィンドスクリーン」があります。以前のモデルでは3段階だったスクリーンの高さ調整機構は、今回のモデルから10段階となりさらに細かく調整が可能となりました。

またやや重いイメージだった「ブラッシュガード」は、かなりコンパクトに変更されました。本来は山道を走行する際、手に枝などが当たるのを防ぐための装備であるブラッシュガード。ウィンドプロテクション効果も高かった以前のモデルに比べて風防効果は落ちるかな?と思いましたが、小さいのにしっかりと風を和らげる効果がありました。
トレーサー900のスイングアームは60mm延長された

トレーサー900GTのスイングアームは60mm延長されました。

バイクの乗り心地や安定感を左右するパーツの一つ「スイングアーム」は、従来型に比べて60mmも延長されました。乗り心地が大幅に変わるはずなので、このあとのインプレッションで詳しく解説していきます。
 
その他にも、タイヤの空転を検知してスリップを緩和する「トラクションコントロール」や、乗り心地を変える「前後サスペンション」の調整機構、走行環境やライダーの好みでエンジンの特性を変更できる走行モードの切り替えシステムなども搭載されていますが、これらはMT-09TRACERから引き継がれてきた装備です。
 

トレーサー900GT用の装備とは?

サスペンションのセッティングは更に細かくできるように

サスペンションのセッティングは、さらに細かくできるように。

トレーサー900の上級仕様「トレーサー900GT」には、より旅を快適にする装備が追加されています。例えばトレーサー900も前後サスペンションは調整が可能ですが、トレーサー900GTはさらに調整できる幅が広くなりました。伸び側の減衰力調整機構だけでなく、圧側もセッティングできるように。これはサスペンションが伸縮する際の抵抗を調整する機構なので、乗り心地やコーナリング時の感覚が大きく変わります。特に初心者ライダーは、お店の人に手伝ってもらいながらセッティングを決めてもらいたいところです。
工具を使わないでプリロード調整ができるリモートプリロードアジャスター

工具を使わないでプリロード調整ができるリモートプリロードアジャスター

リアサスペンションには「リモートプリロード調整機構」が装備されました。通常サスペンションの調整にはフックレンチなどの工具が必要ですが、サスペンション周りは狭く上手く調整ができないことがあります。しかし「リモートプリロード調整機構」が備わっていれば、工具を使わず簡単にプリロード調整ができるようになります。というのもリモートプリロード調整機構とは、サスペンションのバネを先に縮めておくことができる装備。初期の沈み込み量も調整できるので、特に足つきが気になるライダーはこの装備を試してみてはいかがでしょうか。
 
クラッチ操作をしなくてもシフトアップができる「クイックシフトシステム」も装備。ここで注意してほしいのが、このクイックシステムはギアアップ時にのみ対応するということ。ヤマハの他の車種には、ギアダウン時にも回転を合わせて変速ショックを和らげるクイックシフトシステムが備わっていたので、トレーサー900GTにもギアダウン時に対応する機構を採用してほしかったところです。
 
寒い日のハンドル操作がしやすくなる「グリップヒーター」も標準装備。あと付けのヒーターだとグリップがひと回り太くなってしまう場合もありますが、そこはさすが純正採用。グリップの径は標準サイズです。
クルーズコントロールの操作は左ハンドルスイッチで行うことが出来る

クルーズコントロールの操作は、左ハンドルスイッチで行うことができる

高速道路でのツーリングに便利な「クルーズコントロールシステム」も採用しています。バイク運転中は、常にアクセルを開けていると手首に負荷がかかります。そんなときにクルーズコントロールを使えば、アクセルを開けていなくても一定の速度で走行が可能になります。ブレーキをかければ即座に解除されるシステムなので、安全性も問題ありません。ロングツーリング時には積極的に使いたい装備の一つです。
 
トレーサー900とトレーサー900GTの価格差は7万円と決して小さい価格差ではありません。しかしトレーサー900GTにのみ標準装備のパーツは、高額なものばかりです。例えばリモートプリロードアジャスターが装備されているサスペンションの場合、MT-09用にワイズギアが出しているKYBのサスペンションで8万6184円(税込み)。グリップヒーターは2万3760円(税込み)です。追加された装備の価格を計算してみると、トレーサー900とトレーサー900GTの価格差には充分納得できるのではないでしょうか。
 

注意! トレーサー900GTはパニアケースを標準装備していません

仕向け地によっては「パニアケース」が標準装備となるトレーサー900GTですが、日本向けモデルのトレーサー900GTには標準装備していません。ヤマハの公式ホームページのイメージ画像の一部には、パニアケースが装備されている画像もあるので、間違えないようにしましょう。
パニアケースの装着には追加でステーが必要となる

トレーサー900GTへのパニアケースの装着には追加でステーが必要です。

トレーサー900GTの場合、パニアケースはオプション扱いとなり、装着するためにはスペアキーセットとサイドケースステーが必要になります。しかしトレーサー900GTには標準でパニアケース用のキーシリンダーが附属されるので、メインキーとパニアケース用の鍵は共通となります。
 
そこまでしてくれるなら、パニアケースも標準装備にしてくれれば良かったのに……と思うところではありますが、左右のパニアケースを購入すると14万9040円(税込み)、サイドケースステーは1万9440円(税込み)と、パーツ代だけで15万円を超えてしまうので、販売価格を下げるためにオプション扱いとなったのでしょう。
 

トレーサー900GTの足つき性は?

トレーサー900サイドビュー

トレーサー900GTのサイドビュー

トレーサー900GTはシートのポジションが変更できるようになっており、ローポジションで850mm、ハイポジションだと865mmに設定することが可能です。モデルチェンジ前はローポジションで845mmだったので、5mm高くなった計算です。
 
リモートプリロードアジャスターで、サスペンションの初期の沈み込み量が最も大きくなるように調節して跨ってみると、身長165cmの筆者でも片足は半分以上接地しました。以前試乗した初代MT-09TRACERではプリロードの調整をしなかったこともありますが、トレーサー900GTの方が足つき性はよく感じました。
 

走りは滑らかに! トレーサー900GTは乗り心地もさらに良くなった! 

トレーサー900リアビュー

トレーサー900GTのリアビュー

初代MT-09TRACERに試乗した際は、足回りのセッティングこそベースモデルのMT-09と異なりましたが、エンジンのセッティングは変わらないように感じました。初代MT-09TRACERとMT-09には、走行モードを変更できる機構が備わっていました。Aが最も過激なモード、次いでSTD、Bという順ですが、AとSTDはアクセルワークに気を使う印象でした。
 
一方トレーサー900GTの場合、相変わらずAモードはスパルタなセッティングで街中では扱いにくい印象ですが、STDモードはマイルドになり、街中でも使い勝手の良いプログラムとなりました。街中で使うなら普段はSTDモード、雨天時などにはBモードを使用すると良いでしょう。
 
今回はプリロードや減衰力などサスペンションのセッティングを変更して、沈み込みを柔らかくしました。トレーサー900GTはスイングアームが延長されたこともあり、乗り心地が以前に比べて向上し、コーナリング時や直進走行時にアクセルを開けた際の安定感も増した印象です。
 
サスペンションのセッティングが細かくできるので、今回のように街中重視のセッティングもできますし、伸び側の減衰力を少し強めにかければ、コーナリング時にさらにトラクションをかけられるようにもなります。減衰力の調整はマイナスドライバーで対応できるので、自分に合った調整を試してもらいたいところです。
 

トレーサー900GTはさらにマルチに使えるようになった!

モデルチェンジ前はツーリングに使い勝手が良い印象があった半面、街中ではやや使い勝手が悪い印象がありました。しかしトレーサー900GTは、走行モードの各プログラムが修正されたことや足回りのセッティング幅が広がったことにより、シチュエーションを問わず使い勝手が良くなったと思います。
 
バイクのスペックを見る際、身長の低い筆者にとっては「シート高」が特に気になります。トレーサー900GTはモデルチェンジ前よりシート高が上がったのですが、セッティングによっては以前よりも足つき性が良く感じるほどでした。シート高が心配でトレーサー900GTの購入を迷っている人も、まずは一度お店で跨ってみてはいかがでしょうか。
 
シート高が気になる人は、跨る前にリモートプリロードアジャスターでサスペンション初期の沈み込み量を一番大きくしてもらってみてください。大きなノブを「S」と書いてあるほうに回すだけなので、セッティングも簡単です。
 

トレーサー900GTを少しカスタムするなら

トレーサー900GTはシート高が高いので、気になるのはやっぱり立ちゴケ。あまりゴテゴテしたエンジンガードをつけたくないなら、スライダーがおすすめ。絶対的な防御力では劣りますが、見た目はスタイリッシュなので、「転ばぬ先の杖」として使うならピッタリです。
  足つき性がどうしても気になるなら、15mmシート高を下げるローシートも用意されています。サスペンションなどの足回りで調整してしまうと動きが変わってしまうので、足つきが気になる場合にはシートで解決するのがおすすめです。

 

 トレーサー900GT関連リンク


モデルチェンジ前のMT-09TRACERの試乗インプレッションはこちら
ベースモデルのMT-09の試乗インプレッションはこちら


 
 
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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