株価の上昇が金融資産残高に寄与
資金循環統計は日本銀行が四半期毎に公表しているマクロデータで、家計全体の金融資産全体をふかんするのには最適なデータです。2018年12月21日に公表された同データによれば、同年9月末の家計の金融資産残高は1859兆円(速報)となり、2017年9月末(1820兆円)と比較して、金額で39兆円、増加率は2.2%となりました。企業の金融資産残高も2017年9月末より6.3%増加して1120兆円となり、やはり過去最高を更新しています。家計、企業ともに株式の時価評価額が上昇したことがその要因です。日経平均株価が年初来高値を付けたのが2018年10月2日ですから、金融資産残高が過去最高を更新したのもうなずけるところです。
ただ、日経平均株価は高値を付けた後、大幅に下落していることから、2018年12月末の金融資産残高は、家計、企業ともに大幅に減少していると考えられます。金融資産残高が再び過去最高を更新するには、株価の動き次第では時間がかかるかもしれません。では、金融資産残高の詳細を見ていくことにしましょう。
現預金の増加は既に10年を超えている
金融資産残高の増加に寄与したのは株式では、増加率は2017年9月末比8.4%となっています。投資主体別売買動向などのデータでは、個人投資家は株式を売り越しているのですが、時価評価の上昇が高い増加率となったようです。資産全体に株式等が占める割合は11.2%、金額で209兆円です。株式の増加率は高いのですが、投資信託の増加率は2017年9月末比0.8%と3期連続して1%未満の低位に甘んじています。金融庁が毎月分配型投資信託の販売姿勢に指導を与えた以降、投資信託にトレンド(売れ筋)が出ていないことも要因かもしれません。ただ、つみたてNISAなどの非課税投資制度は順調に口座数や買付額を増やしていることを考えると、今後は増加率が上がってくると思われます。
資産全体に投資信託が占める割合は4.0%、金額で74兆円です。株式と合わせてもその割合は15.2%、金額で283兆円ですから「貯蓄から投資(資産形成)へ」は遅々として進んでいないように思われます。
遅々として進んでいないことを裏づけるのが現金・預金の割合です。増加率は2017年9月末比2.2%に過ぎませんが、その残高は毎期過去最高額を更新。既に10年超も増加が続いているのです。超低金利と言われ続けていますが、家計は相変わらず安全性を重視していることがわかります。現金・預金が資産全体に占める割合は52.1%、金額では968兆円となり、徐々に1000兆円という残高が視野に入りつつあります。
債務証券(債券)は、唯一残高を減少させている金融資産です。ただ、減少率は徐々に低下しており、2017年9月末比0.2%減とほぼ横ばいとなってきました。2期前の2018年3月期が5.6%減でしたから、2019年にはプラスに転じる可能性が出てきたように見えますが、2018年11月以降、再び長期金利は低下しています。個人向け国債の変動10の金利は0.09%(当初6ヵ月間)まで上昇しましたが、同年12月募集では最低保証金利の0.05%に低下してしまいました。増加に転じるには時間がかかりそうです。
現金・預金と同じく手堅く残高を増やしているのは、「保険・年金・定額保証」です。増加率は2017年9月末比0.6%に留まっていますが、保険だけに限ると同1.0%になります。予定利率が引き下げられたとはいえ、保険を活用している人は依然として多いことがうかがえます。保険が資産全体に占める割合は20%、金額で372兆円になります。「保険・年金・定額保証」の割合では、28.2%、金額で525兆円にのぼります。