もう一度幸せをつかみたい。傷ついた男の踏ん張り
妻が出て行ってシングルファザーに
コウタロウさん(50歳)は、3年前のある日突然、妻から離婚を切り出された。結婚して18年がたっていた。当時、息子たちは17歳と14歳だった。妻の言い分は「ひとりになりたい」だった。
「私は仕事一筋で、確かに妻に家庭のことや子どものことなどを任せてばかりいたかもしれない。でも年に2度は家族で旅行したり、ときには私が台所に立ったり。決して夫婦仲も悪いとは思っていなかった」
だから驚いた。話を聞いてすぐに結論は出せない。とにかくゆっくり話し合おうと言うしかなかった。だが数日後、家に妻の姿はなかった。
男3人でがんばったが……
仕事と家事に追われて疲弊し…
ある日の夕方、長男から会社にいるコウタロウさんにメールが届いた。
「学校から帰ってきたら家の中の荷物がなくなっている、と。あわてて帰ってみると妻の身のまわりのものはもちろん、共有していたパソコンやデジカメまでなくなっていた。私のベッドの枕元にはサインした離婚届が置いてあって、走り書きのメモに『提出してください。さようなら』だけ。携帯に電話してみても出ません。翌日、もう一度携帯にかけてみたら、すでに解約されていました」
何がなんだかわからない。ただ、妻がいなくなり、離婚を望んでいることだけはわかった。彼は子どもたちに事実をそのまま伝えた。
「でもひと言、フォローしましたよ。お母さんがいなくなったのは、たぶんお父さんに腹を立てていたから。きみたちのせいではない。お母さんはきみたちとは別れたくなかったんだよと。長男はシラケた顔をしていました。次男は泣いていましたね」
翌朝からコウタロウさんは長男のために弁当を作り始めた。会社に行く前に夕食の下ごしらえもして出かけたが、2ヶ月もたたないうちに心身共に疲弊してしまう。
「長男も次男もがんばってくれたけど、ふたりとも部活が忙しい。私も当時、部署が変わったばかりでなんとか成果を出さなければいけない時期。さすがに疲れ切って、私の母に助けを求めました」
地方でひとり暮らしをしていた母が駆けつけてくれ、ようやく家の中が落ち着いた。ちょうどそのころ、前妻に恋人がいたことが共通の知り合いからの情報でわかった。
「正直言って、落ち込みました。男がいるからってこれまで築いてきた家庭を、そんな簡単に捨てられるのかと。そういう女性を選んだのは私だから、ますます気分が滅入った」
中学時代の同級生と再会
離婚したばかりの同級生に出会い
あるとき、「家に戻りたい。地元の友だちに会いたい」という母を送って、久しぶりに実家に戻った。彼が帰ってくると知り、中学時代の同級生が飲み会を開いてくれた。そこで再会したのが昔、好きだった女性・ハルカさんだ。
「彼女、離婚したばかりでたまたま実家に戻ってきていたんですが、住まいは東京だという。知らなかったのでびっくりしました。今度は東京で会おうということになって」
それ以降、彼女とはときどき食事をする仲に。彼が元妻のことを嘆いたり愚痴ったりしたときも、彼女はひたすら慰め励ましてくれた。だが彼も子どもたちの世話や家事があり、なかなか関係は進展しなかった。
「彼女自身も、もう結婚にはこりごりだと言っていましたから、こちらも押しようがなかった。長男が大学生になったころ、ようやく彼女を口説いたんですが、『友だちでいたほうがいい』と彼女は主張する。ただ、私がなんとかがんばってこられたのも、彼女がいたおかげです」
彼は必死に口説いた。今後の人生、彼女と一緒に歩んでいきたいと。これが最後の恋なんだと。
「彼女が『私もあなたのことは好きだけど、関係が深まるのが怖い』と。その言葉を聞いたときはうれしかったですね。別に私はセックスが目的ではありませんから、彼女がしたいと思ってくれるまで待つつもりでした。彼女は男女の関係になる前に、息子たちに会いたいと言ってくれた。息子たちにおとうさんの友だちに会うかと聞いたら、会いたいと言う。それで今年の春、みんなで食事をしたんです。長男も次男も照れてはいましたが、彼女の人柄にいい印象をもってくれたみたいで。長男がその場で、『おとうさん、結婚しなよ』って。まだそんな関係じゃないんだよと言ったら、長男が彼女に『どうかよろしくお願いします』って。みんなで大爆笑でした」
その後、彼女の態度が変わっていった。前の結婚で子どもがいなかった彼女だが、コウタロウさんの息子たちなら適度な距離を置いてうまくつきあえそうだと確信したようだ。
「今では彼女、よくウチにも遊びに来るようになりました。泊まってはいきません。そこが彼女のけじめらしくて。ただ、外でデートしたとき、男女の仲にもなりました。彼女とそういう関係になって、ようやく前の結婚の痛手から少し回復したような気がします」
妻に“見捨てられ”てから3年、必死にがんばってきた彼に少しずつ希望が見えてきた。第二の人生を、彼は「好きな人と毎日を大切に生きていきたい」と話してくれた。
一時期は人生に絶望した彼だが、「前の結婚で自分も反省するところがある」と今は語る。「人生、あきらめちゃいけませんね」照れたような笑顔がまぶしい。