サーキットにおけるパフォーマンスを最大限に引き出すこと
フェラーリのラインナップで、最も人気のあるシリーズはというと、1975年の308GTBの登場以来、ずっと、V8エンジンをミッドに積んだモデルだった。現行型は488GTB&488スパイダーで、今年3月のジュネーブショーでデビューした488ピスタはその高性能版だ。フェラーリは、360モデナ&スパイダーの時代から、ライフサイクルの最後のほうで、その次の世代へと繋がる高性能仕様をリリースし続けてきた。360のときはチャレンジストラダーレだったし、F430ならスクーデリア、458ならスペチアーレ、だ。特に430スクーデリア以降はスパイダー版の限定車も存在する。おそらく、488ピスタでもオープン版の限定車が登場することだろう。
それはさておき、488ピスタの国際試乗会は、フェラーリの本社があるマラネッロに近接する、“フィオラノ”サーキット(フェラーリのテストトラック)、で行なわれた。フェラーリファンなら、いちどは訪れてみたい、聖地である。
488ピスタのコンセプトは、その名がピスタ=サーキットのイタリア語であることからも分かるとおり、サーキットにおけるパフォーマンスを最大限に引き出すこと。フェラーリといえばF1に代表されるモータースポーツイメージが強く、488シリーズにもチャレンジやGT3&GTEなど、レースカーが存在する。それらのテクノロジーをできるだけ移植したロードカーと言っていい。
”毎日でも乗れそう”な乗り心地
とはいえ、フェラーリには今のところ、ロードカー的な性能を削ってまで、サーキット性能を引き上げようという気はさらさらないようだ。フィオラノサーキットでのインプレッションを語る前に、488ピスタがトラック専用車では決してないことを、まずは明らかにしておこう。マラネロ周辺のオープンロードを駆け巡ってみた。もちろん、舗装路なのだが路面はひどく荒れていて、いたるところに凸凹があるし、砂利化も激しい。つまり、自分のスーパーカーを思う存分走らせたいと思うような環境ではない。そこを、マラネッロはあえて走らせた。
そんな道を、拍子抜けするほど無難に、488ピスタはこなす。ステアリングホイールに備わったスイッチでドライブモードをスポーツに、変速モードもオートを選んでおきさえすれば、安楽だ。2000回転を過ぎたところでさっさとシフトアップを繰り返し、サウンドボリュームも控えめ。特別なフェラーリを操っていることを忘れてしまいそうになる。
何より驚くのは、車体とアシ、ドライバーとの一体感だ。バタツキや振動がまるでない。ソリッドだが、乗り心地は決して悪くない。助手席に乗っていても、イヤな感じがまるでない。これなら、毎日でも乗れそうだ。
安心感と安定感で“素人”でもサーキットを楽しめる
とはいえ、488ピスタの真骨頂はサーキットでの走りにこそある。ストレートで、まずは加速を試してみた。5000回転からのパワー感が、ベースのGTBとはまるで違う。アッという間にリミットまで回ってしまう。慌ててシフトアップすることが、しばらく続く。それほど、シャープに吹ける。
サウンドも迫力もの。特に高回転域における高周波サウンドが、かしましい。加減速はもちろん、旋回中も路面がぐっと近くに感じられた。左右に振れば、紐かなにかで強力に引っ張られているかのように、ノーズが左右へと向きを変える。かといって、フラットに徹することはなく、わずかながらもロールしてくれるので、レーシングカーのような緊張感は微塵もなかった。
とにかく、乗り易いのだ。とはいえ、ドライブモードをレースにすれば、ガツンガツンと強烈、腹に直接響いてくる。ブレーキの効き、フィールも、驚くほど素晴らしい。
みるみるペースも上がっていった。とても速いのに、車体がしっかりと押さえ付けられているという安心感と安定感を常に感じていられるので、コントロールできているという妙な自信が沸く。実際、ミスをしても、反応は穏やかで、素人でも十分、対処できるだけの余裕があった。
ダイナミック・ビークル・コントロール・システムも進化。ブレーキキャリパーの制動圧を調整するラテラル・ダイナミクス・コントロール・システムを備えたフェラーリ・ダイナミック・エンハンサーを採用、オーバーステアにより簡単に対応できるようになっている
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