「働き方」をテーマとした著書で訴えたかったこと

働き方

働き方をテーマにした本を執筆

――お二人とも最近、仕事・働き方をテーマにした本を出版されましたね。

 

豊田剛一郎氏

豊田剛一郎氏

豊田「私は、もともと患者さんだった編集者の方に声をかけてもらい、医療の未来に対する思い、そしてこれまでの経験を伝えることで、読者の方の役に立てたらと思って書籍を書くことに。

初めての書籍でしたので、自分の全てを詰め込んで必死で書きました。医師からマッキンゼーに入り、今はベンチャーを経営しているというと『ちょっとうさんくさい』と思われたり、医療関係者にも“今の医療を壊す敵なのでは”と警戒されたりすることが多くて……。

でも、この本を読んで自分や会社の思いを知って、応援してくれる方が増えました。やりたいことを実現していく上で、まずは『自分のストーリー』を多くの人に知ってもらうことが大事だと改めて感じました」
小暮真久氏

小暮真久氏

小暮「僕も1冊目の本を出したのが、TABLE FOR TWO(TFT)を設立してすぐだったので、知名度向上やブランディング、採用にとても効果がありました。刊行から9年経ちますが、今も親子で本を読んでくれ、活動に参加してくれる方もいます」


――小暮さんの新著は、「五感のスキル」を磨くことを提唱する内容です。

小暮真久氏

小暮真久氏

小暮「TFTの事業が成熟する中で、自分も組織も次にシフトしていかなくては、という焦りがありました。ちょうど子どもが生まれたこともあり、別の価値観の中で暮らしてみようと2014年から一家でイタリアに移住し、3年を過ごしたのです。

“好き嫌い”や“感じる”を大事にして働くという、自分の価値観を再確認する時間となりました。ちょうど、人生100年時代のキャリアのあり方を説いたリンダ・グラットン教授の著書『ライフ・シフト』が話題を呼んでおり、彼女の提唱する働き方の実践者の一人として、仲間の経験も入れてまとめたのがこの本です」

マッキンゼーで学びたかったこと

――お二人には、マッキンゼーのコンサルタント経験を経てベンチャーへ、という共通のキャリアがありますが、そこに至る経緯は?

豊田剛一郎氏

豊田剛一郎氏

豊田
「研修医として働く中で、日本の医療の将来に不安を覚えました。医療費は膨張し続け、社会保障制度は破綻寸前です。日本の国民皆保険という制度は素晴らしいですが、病気を予防する努力をする人としていない人が、全く同じ制度に守られているというのもおかしいですよね。

また、医師が休みなしに働いている状況にも限界があります。こうした全体の仕組みを変えていかないと、日本の医療は崩壊してしまう。こうした現実を知り、医療の外から仕組みを変えていく必要があるのではと悩んでいる時に、先輩からマッキンゼーの存在を教えてもらったのです」

小暮真久氏

小暮真久氏

小暮「私も似た経緯です。学生時代はエンジニアとして人工心臓の弁の研究をしていたのですが、留学から帰ってくると、大学医局や行政などあちこちに壁があって、なかなかよい研究ができない。
何が足りないんだろう、と思ったとき、この国には人と人をつなぎ、お金を持ってきてプロジェクトを主導する『プロデューサー』が決定的に欠けている、と思ったのです。それなら自分がその役割を果たそう、そのスキルを付けよう、と考えて入社したのがマッキンゼーでした」

豊田剛一郎氏

豊田剛一郎氏

豊田
「マッキンゼーは採用面接が独特ですよね。私は初対面の面接官に『マッキンゼーに行って日本の医療を変えられますか?』と生意気にも聞いたんです。そうしたら『それはわからないが、同じ志で働いている人がたくさんいる。3年粘ってダメだったら違うところに行けばいい』と言われて。
実際、ものすごく働かないと生き残れない厳しい環境ですが、人の育成にすごいパワーを使っているという自信を感じました。人を成長させると自分に還ってくる、そしてそれを仕組み化することが大切というのも、マッキンゼーに入社して体感したことです」

「ハードスキル」と「ソフトスキル」のバランス

――マッキンゼーは前職までの学びと何が違いましたか?

豊田剛一郎氏

豊田剛一郎氏

豊田
「研修医時代もマッキンゼーでも、むちゃくちゃ働きましたが、両者で学んだことはかなり違うものでした。研修医時代は、状況の違う患者さんに対して病状や治療方針を説明する『伝える力』や、一刻の猶予もない状況でムダのない医療を提供するチームワークが鍛えられたように思います。マッキンゼーでは、それまで無縁だった目標設定や数値管理の大切さを叩き込まれました」

小暮真久氏

小暮真久氏

小暮
「確かに、最初はロジカルな考え方や計数能力を鍛えられます。でも、その後コンサルタントとしては長く働ける人は、そうした『ハードスキル』に加え、人を勇気づけたり、チームをつくったり、人が気づかないことに気づけたり、といった『ソフトスキル』にも非常に長けている。豊田さんはきっと医師時代に、そうしたソフトスキルを鍛えられていたのでしょうね」

――マッキンゼーの後に、ベンチャーへの参画を選んだ理由は?

豊田剛一郎氏

豊田剛一郎氏

豊田
「コンサル時代は、製薬会社などを通して医療全体を見ることができました。勉強にはなったのですが、『医療に接している企業』の経営を支援する仕事では、やはり本質的な変化は起こせない。自分で起業しようと思っていた時、過去の同級生である瀧口から、彼が立ち上げた医療ベンチャーであるメドレーに誘われたのです。彼が語る医療の課題や会社の未来に共感できたこと、自分に期待されている役割にも納得できたことから、共同経営者になることを決めました」

小暮真久氏

小暮真久氏

小暮
誘ってくれた人への信頼という点、僕も同じですね。TFTの仕組みを考えて僕を誘ってくれたマッキンゼーの先輩はコンサルタント時代に仕事を一緒にしたことはなく、それほど面識がありませんでした。ただ、人生では出会うべきタイミングで出会うべき人に会えると思っているので、ためらいはありませんでした」

豊田剛一郎氏

豊田剛一郎氏

豊田
「起業しても、経験のない自分が経営を軌道に乗せるまでには何年もかかるでしょう。『日本の医療を変える』という目的を達成するためにはこれが最短距離だと瀧口に言われ、確かにそうだと思いました。キャリアを変えたというよりも、自分の戦うフィールドを変えた、という感覚ですね」