ストレスマネジメント

「煩悩」って、なくすべきですか?【尼僧の仏教解説】

仏教では、煩悩とは「心身を乱す心の汚れ」を意味します。煩悩という心の汚れによって物事の真理が見えなくなってしまうため、苦しみが生まれるのです。仕事や家庭で生じるストレスを、少し和らげるための仏教の知恵、仏教用語、考え方を、優しく温かく解説します。

掬池 友絢

執筆者:掬池 友絢

仏教とストレスケアガイド

<目次>

「煩悩」って、なくさなきゃいけないの?

「煩悩」って、なくすべきですか?【尼僧の仏教解説】

煩悩の意味を解説

 
「煩悩」という言葉を聞いたり使ったりしたことのある人は多いでしょう。

「煩悩が多い」「煩悩を捨てる」などマイナスなイメージで使われることが多いかもしれませんが、「子煩悩」など良い意味で使われる場合もあります。

今回はそんな「煩悩」の意味を考えてみましょう。

仏教では、煩悩とは「心身を乱す心の汚れ」を意味します。煩悩とはサンスクリット語(古代インド語)の「クレーシャ」の漢訳で、「汚すもの」「苦しめるもの」を意味します。煩悩という心の汚れによって物事の真理が見えなくなってしまうため、苦しみが生まれるのです。
 

煩悩の代表が「三毒(さんどく)」

煩悩の中の代表的なものを「三毒(さんどく)」といいます。「貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)」の3つから成り、これが人間の諸悪の根源といわれています。
 
  • 貪(とん)」は貪りの心、要するに欲望です。
  • 瞋(じん)」は怒りの心で、憎しみや妬みも含まれます。
  • 癡(ち)」は無知の心で、人間の愚かさを表しています。

この三毒こそが私たちの心を悩ませ、苦しめるものです。

しかしながら、煩悩には生きるエネルギーになるものもあると私は考えます。例えば「健康でいたい」「モテたい」「家族を養うためにお金を稼ぎたい」……、これらも煩悩ですが、それが生きるモチベーションになることもあるでしょう。だから煩悩=悪というわけではないのです。

とはいえ、私たちは煩悩を持っているために悩み、苦しみます。できれば持たないほうがいいけれど持ってしまうもの、なくしたほうがいいけれどなくせないのが煩悩です。大切なのは煩悩に気づき、振り回されないこと。煩悩ときちんと向き合い、なくす方向や良い方向に転換できるように自分の心をコントロールすることです。
 

どうすれば煩悩に気づけるのか?

もちろん、簡単なことではありません。煩悩に振り回されていること、それ以前に自分が煩悩を抱えていることにさえ気づけないかもしれませんね。では、どうすれば煩悩に気づけるのか……?

実は、悩みがあるときが煩悩を見つめるチャンスです。悩んでいるときは心に余裕がなく、煩悩など見つめたくないかもしれませんが、そんなときこそ冷静に向き合う必要があります。そこに悩みの真理があるからです。

そして自分は今、煩悩に振り回されているのだということをきちんと認めること。認めるのはつらいものですが、気づかないと人間は変わりません。気づかないままだと、また同じ失敗を繰り返してしまいます。そしてますます苦しくなるのです。
 

まずは煩悩に気づくことから

まずは自分の受け止め方を変えてみる。煩悩に気づいて反省し、新たな努力をすることです。自分が変われば、「ああ、こうやって受け止めればいいのかな」と気づくことができます。そうした気づきをストックしていけば、人生はぐんと生きやすくなります。

そうはいっても、人間はそううまくはできないものですよね。できないけれど、少しでも良い方向に向かうように努力していく姿勢が大事。そして、できない私たちを受け止めてくださるのが仏さまです。

自信をなくしたり、落ち込んだりすることもありますが、「できなくても大丈夫。自分のペースで進んでいけばいい」と大らかに受け止めてくださる存在があるのです。安心してください。

仏教はそうした気づきをたくさん与えてくれるものです。煩悩に気づき、なるべく良い方向に進むように努力して生きていく。仏教的な生き方をぜひ実践してみてください。
 

百八つの除夜の鐘は、数多い煩悩の象徴

除夜の鐘の数は煩悩の象徴

除夜の鐘の数は煩悩の象徴

 
大晦日には除夜の鐘を108回つきます。これは108ある人間の煩悩を滅するためと言われていますが、煩悩は実際に108あるわけではなく、たくさんあることの象徴として「108」という数が使われているという説もあります。

鐘をついたからといって煩悩がなくなるとは思えませんが(笑)、自分が煩悩を持っていることに気づくという意味では、良い機会かもしれませんね。

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