駆動方式は大きく5つに分けられる
クルマのタイヤは4本ありますが、実は、ほとんどのクルマは2本のタイヤしか動いていない(エンジンの動力が伝わっていない)のです。すなわち、その他の2本は「ただ転がっているだけ」という状態。それを「二輪駆動(2WD)」と呼びます。二輪駆動のクルマは、エンジンの場所によってさらに分けられます。
■FF(Front engine Front drive)
フロントエンジン・フロントドライブと言い、市販されている小型や普通乗用車はほとんどがこの駆動方式です。ボンネットの中にエンジンがあり、前のタイヤが実際に動いているクルマのことをFF車と呼びます。
FF車はエンジンや舵を取るための部品が、すべてボンネット内に収まっているので、人が乗る空間が広く取れるのがメリットです。また、エンジンやトランスミッションといった重い部品が前に集まるので、前に荷重がかかり、どっしりとしたフロント部分を前のタイヤの力で引っ張るので、まっすぐ走る安定感に優れていると言われています。
デメリットとしては、昔はハンドルの切れが悪い、小回りが効かないなどと言われましたが、最近のクルマは舵取りに干渉する部品を小さくするなど、改善を重ねていますし、一般のユーザーが運転しにくいほどのことはありません。FRやMRなど、他の駆動方式(特にスポーツカー)と比べると、加速が少しモタモタするところもありますが、普通に日本の高速道路を走る分には問題もありません。
また、前輪が動いているので、比較的雪道や滑りやすい路面に強いのがFF車です。少しの雪であれば、前輪にチェーンを巻けば走れてしまうのもメリットの一つです。
トヨタ「Passo」のようなコンパクトカーはもちろん、最近ではミニバンも多くがFFを採用しています。「室内空間を広くする」ことを目的とするクルマのほとんどがFF車です。
■FR(Front engine Rear drive)
フロントエンジン・リヤドライブと言い、ボンネット内にエンジンがあり、後ろのタイヤが動いているクルマのことをFR車と呼びます。前輪は「舵取り」、後輪は「駆動」(エンジンパワーを伝えて動いている)と、役割を分担しているクルマです。
前に置かれたエンジンのパワーを後輪に伝えるために、プロペラシャフトという細長い軸がクルマの前方から後方に向かって、下回りに配置されています。そのため、後席中央シートの足元には、ボコッとした盛り上がりができてしまいます。タクシーで真ん中に乗る人にとっては邪魔な、あの足元の膨らみ。あれはFR車特有のものです。
真ん中をズドンっと前後に突き抜けるプロペラシャフトがあるため、FR車の後席足元真ん中には盛り上がりができてしまいます。FF車にはこのシャフトがないため、室内が広く取れるのです。
さらに、FR車は前のエンジンパワーを後輪に伝えるために、後方にもデファレンシャルギアという大きな部品があり、FF車と比べると室内が狭く、セダンの場合はトランクルームも容量が小さくなってしまうデメリットがあります。
しかし、FR車はハンドルの切れがよく小回りも効き、ボンネット内にスペースの余裕があり、大きなエンジンを搭載することもできるので、運転の楽しさを追求するスポーツカーや、大型の高級セダンにも採用されています。
大型セダンでもあり、スポーツカーとしても代表的な日産のブランド「スカイライン」。FR 車の駆動方式を維持しながら進化してきたモデル。
■RR(Rear engine Rear drive)
リヤエンジン・リヤドライブと言い、クルマの後方にエンジンが搭載され、駆動も後輪のクルマのことです。
エンジンが後方に搭載されているので、ボンネットを開けたところが荷物スペースとなり、後方にはトランクルームがありません。前に重たいエンジンが無く、後方に重心があるため、駆動する後輪にパワーが伝わりやすいのが特長です。アクセルを思い切り踏み込んでもタイヤが空転しにくいため、加速力や瞬発力はとにかく最高であると言われています。
他にも、床面積を広く取れるため、大型バスなどにも採用されています。
RR車はエンジンが前に無いため、前輪の切れ角が大きくなり、小回りが効くのはもちろん、ハンドル操作も軽いため、運転操作が楽しいクルマとも言えます。しかし、パワーの大きなクルマだと、タイヤに力が伝わり過ぎたり、ハンドルがよく切れて、ドライバーの想像以上に曲がり過ぎることもあり、初心者には運転が難しいというデメリットもあります。
RR車といえば、ドイツのポルシェが代表的なモデルの一つです。
RRの代表と言えば「ポルシェ911」。スマート「フォーフォー」などのヨーロッパ車も採用している。1938年から2003年まで生産されていた旧い「ビートル」(タイプ1)、通称「カブトムシ」もRR車でした。
■MR(Midship Rear drive)
ミッドシップエンジン・リヤドライブと言い、構造はRRに少し似ています。エンジンが前輪と後輪の間にあり、後輪が動いているクルマのことです。
エンジンが車体の中心よりも後方側に置かれているクルマをMRと呼びます。重たいエンジンが車体の重心近くにあり、とにかく重量バランスが良いのがメリットで、F1などのフォーミュラーカーにも採用されている駆動方式です。
実際に市販車でMRを採用しているクルマは、RRと同じく非常に少数です。エンジンが車内スペースを犠牲にし、室内空間が狭くなるため、乗用車にはあまり向かないデメリットがあるからです。カーブを曲がるときにも、重心が重たくなるためスピンしやすくなります(くるくる回るコマの原理と似ています)。そのため、RRと同様、初心者には非常に運転が難しいのです。これも、スポーツカーのような走りを追求するクルマのみと割り切って採用されている駆動方式の一つで、MRの代表と言えばイタリアのスポーツカー、フェラーリやランボルギーニが有名です。
国産車でMRを採用しているのは、ホンダのS660などです。
ホンダ「S660」はMRの軽自動車スポーツカー。小さくて重量配分も良く、運動性能も優れているので、運転好きからは期待の一台として注目を集めています。
■4WD(4 Wheel Drive)
これまでの二輪駆動が「実際に駆動力のある(エンジンのパワーが伝わっている)タイヤが2本だけで、他の2本はただ転がっているだけ」もしくは「舵を取るだけ」しかしていないのに対して、四輪駆動は「すべてのタイヤが駆動する」方式です。
雪道や、オフロードなどの滑りやすい路面で、どちらか二輪が空転してしまっても、もう2本のタイヤも動いているので、クルマを安定させて走ることができるのです。雪や土の道だけでなく、雨の日のアスファルトでも安定性を発揮します。二輪駆動よりも確実にエンジンのパワーをタイヤに伝えることができるので、雪道や山道を走るクルマだけでなく、スポーツカーにも採用するメーカーもあります。
4WD(四輪駆動)は、全部のタイヤに駆動力を伝えるための部品が多く、その分の車重も大きくなります。そのため二輪駆動に比べると燃費が悪くなるとも言われていますが、最近では4WDのシステムを軽量化したり、低燃費への開発も進められているので、ものすごく燃費が悪いとは言えなくなってきています。
また、4WDというと、ジープタイプのようなSUVを想像する人もいるかもしれませんが、コンパクトカーやセダンなど、普通の乗用車にも4WDが多く設定されています。雪国に住んでいるなど、普段使いでSUVは必要無いけれども、雪の季節だけはしっかり走れる駆動力が欲しい、という人のためです。
4WDと言えば三菱「パジェロ」のようなSUVを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、普通の乗用車にも4WDはたくさん設定されていて、2WDと4WDから選べる車種も多くあります。
駆動方式はどのように選べば良い?
人をたくさん乗せたり、荷物も多く積みたい人には、室内空間が広く、走行も安定しているFF車がオススメです。FF車は二輪駆動のなかでも雪道に強いので、普段は街中で使い、冬場、スタッドレスタイヤやチェーンを使ってウィンタースポーツに出かける程度であれば、十分に使えます。年のうち数ヶ月間は雪が降る地域の人は、乗用車タイプでも4WDを選んでおけば間違いありません。
FR車は国産車ではよくスポーツカーに採用されていて、アクセルを踏み込んだときの加速感の気持ちよさや、ワインディングロードを走ったときのハンドルの感覚から得られる「人車一体感」は、運転が好きな人には気持ちよく感じられるはずです。トヨタ「86」やマツダ「ロードスター」など、走りそのものを楽しみたい人にオススメのFR車です。室内空間や荷室の広さを求める人には向きませんが。
RRやMRは運転席の後ろにエンジンがあるという、独特な運転感覚を味わえます。後輪からググッと加速のパワーを感じられるので、レーシングカーに乗っているかのようです。
実際には、国内で市販されているクルマの多くがFF車なので、後輪駆動(FR、RR、MR)や四輪駆動は特別な駆動方式と思われてしまいがちですが、駆動の種類によって機能や乗り心地も変わってきます。
クルマを買う時には、自分のニーズに合わせた駆動方式を確認してから車種を選んでみませんか。クルマのカタログや、自動車メーカーのサイトでは「主要諸元表」が見られます。その「駆動方式」という項目をチェックして見ましょう。