心臓・血管・血液の病気

TAVIとは…カテーテルを使った新しい心臓弁膜症治療法

【心臓血管外科医が解説】弁膜症治療の新たな方法・経カテーテル大動脈弁植え込み術。通称TAVIとも呼ばれます。俳優のシュワルツェネッガー氏が新しい心臓弁膜症の治療を受けられたこと、指揮者の小澤征爾氏も弁膜症のため近々治療を受けられる報道を受け、新しい弁膜症治療法について解説します。

米田 正始

執筆者:米田 正始

心臓血管外科専門医 / 心臓病ガイド

シュワルツェネッガー氏の弁膜症治療報道

心臓弁膜症

日進月歩の心臓弁膜症治療法。今回シュワルツェネッガー氏が受けたとして報じられたのは、どのような手術だったのでしょうか

俳優で元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガー氏が新しい弁膜症治療を受けました。世界的指揮者である小澤征爾氏も同様の治療を受ける可能性があることも報じられています。この新しい弁膜症治療とはどのようなものか、解説します。

まずシュワルツェネッガー氏の最近の様子について報じた記事を引用します(朝日新聞デジタル2018年4月14日)。
シュワちゃん心臓手術後「絶好調とは言えない」
記事提供:日刊スポーツ 2018年4月14日

緊急の心臓手術を受け、今月6日に無事退院したアーノルド・シュワルツェネッガー(70)が、ツイッターで術後のコンディションについて明かした。

シュワルツェネッガーは12日、ツイッターで短いビデオメッセージを公開し、「気分は大分よくなったと、皆さんに知らせたい。まだ最高のコンディションではないので、僕のポジティブな姿勢を持ってしても、絶好調だとは言えない。でも、僕は大丈夫です。いいドクターとナースたちに恵まれた。すべてうまくいった」と説明。

さらに、今は気分転換にチェスを楽しんでいると明かし、「前に進みましょう。皆さんと、これからもつながっていたい。応援してくれて、感謝します」と語った。

シュワルツェネッガーは先月29日、ロサンゼルスのシーダーズ・サイナイ病院でカテーテル大動脈弁置換術を受けるところだったが、合併症を起こしたため、緊急の開胸手術を受けた。

長年にわたり心臓を患っていたシュワルツェネッガーにとって、1997年以来、2度目の大動脈置換手術だったが、術後の回復は順調と報じられていた。(ニューヨーク=鹿目直子)

かつて先端的治療の代表格だったロス手術とは

医学的内容の詳細は報道されていませんが、ここまでの種々の報道を総合しますと、シュワルツェネッガーさんは1997年に大動脈弁膜症に対して恐らく「ロス手術」を受けたものと推察されます。

ロス手術とは患者さんご本人の肺動脈弁をきれいに切り取り、これを大動脈弁に植え込むことで大動脈弁膜症を治す手術です。若い患者さんによく用いられる方法ですが、肺動脈弁を切り取るため、これに代わる弁を入れる必要があります。アメリカではホモグラフトと呼ばれるご遺体から頂いた弁を使える制度が充実しているため、恐らくシュワルツェネッガーさんは肺動脈弁のホモグラフトを取り付けられたものと推察されます。

1997年のこの手術は、現在であれば弁の状態によっては大動脈弁形成術、つまり患者さんご自身の弁を修復する方法を使うことができた可能性もあります。しかし当時は上記のロス手術がもっとも進んだ手術でした。

経カテーテル大動脈弁植え込み術・TAVI(タビ)

そして20年経った今、肺動脈弁のホモグラフトが壊れたため、後述する
「TAVI(タビ)」の方法で、カテーテルで足などの血管から、折りたたんだ生体弁を壊れたホモグラフトの中に入れようとしたものと考えられます。

しかし何らかの理由でこれがうまく行かず、急遽胸を開ける通常の心臓手術の方法で肺動脈弁を新しい弁に取り替えられたのでしょう。日本で配信されたニュースでは大動脈弁と記載されていますが、アメリカのテレビ放送では肺動脈弁を治したと報じられています。

このTAVIという手術法ですが、正式には「経カテーテル大動脈弁植え込み術」と言います。カテーテルという細い管(くだ)で、折りたたんだ生体弁を心臓の中に送り込む手術法です。2000年ごろから、弁が狭くなる病気である大動脈弁狭窄症で、普通の心臓手術ができないようなご高齢の患者さんなどに対して用いられるようになりました。

これを肺動脈弁に応用することも可能です。TAVIでは胸を大きく開く「開胸手術」をせずに済むため、特に2回目以後の、いわゆる再手術の患者さんでは時間もかからず、出血も少なく、低侵襲つまり体への負担が少ない治療として、近年世界的に急速に広がりつつあります。

ただ通常の手術のように細部まで眼で確認して行う訳ではないため、時にその弁を植え込む部位が裂けて出血したり、壊れた弁の石灰などが外れて血管を詰まらせ脳梗塞になることも、稀にあります。今回のシュワルツェネッガーさんの治療でも、当初はTAVIの方法で治療を進めていたのが、急遽通常手術になったのはこうした何かしらの問題が起こったからだと考えられます。

いずれにせよシュワルツェネッガーさんが回復されつつあるのは良い知らせでした。早い全快を祈ります。

小澤征爾氏も大動脈弁狭窄症治療を予定

弁膜症といえば世界的指揮者の小澤征爾氏も、大動脈弁狭窄症のため一時コンサートなどを休み、治療に専念されることになったと報じられました。

小澤さんは80歳を超えておられるため、体に優しいTAVIを受けられるのかも知れません。こちらも早い全快を祈ります。TAVIは順調に行けば回復も速いため、音楽活動を早期再開していただければ何よりです。

日進月歩で進む弁膜症治療法

このように、弁膜症の治療は日進月歩です。お薬や手術、特に弁形成手術も大きく進歩しましたが、TAVIなどの開発でご高齢の患者さんや、がんなどの病気をお持ちの患者さんなど、通常の心臓手術があまり好ましくない場合でも、安全に治療ができるようになりつつあるのです。

弁膜症で治療が必要と言われたら、こうした方法についても質問されると良いでしょう。

参考サイト:心臓外科手術情報WEB 心臓弁膜症のページ
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