怒りが発生する、特有のメカニズム
怒りがコントロールできない
仕事で疲れ切っているときに、部下の些細な行動にイラッとして、怒鳴ってしまった……。
そんな経験はありませんか?
なぜこのようなことが起こるかというと、実は怒りの奥には、別の「第一次感情」があるからです。
第一次感情には、「ヘトヘトだ」という疲労感、「期待していたのに裏切られた」という失望感、「わかってもらえない」という悲しみや孤独感等、さまざまな感情があります(※1, 2)。
こうした第一次感情が満たされない場合に、
「ヘトヘトなのに休めない! すごく不満だから、なんとか状況を変えてほしい!!」
というように、さらに強い感情に姿を変えて出てくるのが、怒りなのです(このため、怒りは「第二次感情」と呼ばれます)。
だから、心がいっぱいいっぱいになっているときほど、イライラしやすくなるのです。
怒りは悪いものではなく、うまくつきあえたら、こうした気づきにくい心の奥底に潜んでいる本音に気づかせてくれるものだといえます。
では、怒りに振り回されるのではなく、うまくつきあうには、どうしたらいいのでしょうか?
反射的な怒りをしずめる「3つの方法」
基本は「イラッとしたときに、そのまま反射的に怒らない」こと。そうすることで、人間関係の悪化やトラブルの原因となり得る行動をとらずに済みます。
反射的に怒らないために役立つ、具体的な3つの方法をお伝えします。
- 深呼吸をして、呼吸を整える。そのとき、特に長く吐くことを意識する。
- 「1, 2, 3…」と、心のなかで数字を10までゆっくり数える。
- 心のなかで「ストップ!」と言い、考えるのをやめる。
イラッとしたら、まずは深呼吸
「とっさの怒りのピークは長くて6秒」という説(※3)もあるので、少なくとも6秒間は、上記の3つの方法を参考に意識を別の方向に向けてください。
怒りを生み出すのは出来事ではなく「思考」と「価値観」
反射的な怒りをしずめても、まだ怒りがおさまらない場合もあります。こんなケースを考えてください。
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あなたはある部署のリーダーです。
所属部署の人員が減らされ、仕事量が激増。
「皆で一丸となって頑張っていこう」と思っているのに、ある一人の部下だけがさっさと定時に帰っていきます。この姿を見て、あなたはイラッとしました。
深呼吸をして、部下を怒鳴りつけることは踏み留まったものの、イライラがおさまりません。こうした場合、どうしたらいいのでしょうか?
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まず理解していただきたいのは、実は、あなたを怒らせているのは「出来事そのもの」ではなく、「思考」や「価値観」だということ。
つまり、「皆、残業しているのだから、あの部下も残業すべきだ」と捉えると「なんだ、あいつは!」と怒りの感情が発生します。
しかし、「定時帰宅こそが本来の姿なのだから、この状況下でも部下の健康を守るマネジメントのしくみを構築しなければ」と捉えたら、怒りが湧くこともないばかりか、むしろ「よし、あの部下は定時で帰れた!」という、モチベーションを高める出来事にさえなり得るのです。
対処策を考える上では、「自分の思考が怒りを生み出したんだ」と、怒りの理由を理解することが重要です。
対処策を考え、実行に移す
怒りの理由がわかったら、今度は対処策を考えましょう。たとえば、「皆、残業しているのだから、あの部下も残業すべきだ」と捉えて怒りが発生したことがわかったら、今度は「どうすれば、自分の求める状況が手に入るか」を考えてみるのです。
- 「今は、皆が一丸となって頑張る時期だから、残業してもらえないか」と部下に頼む
- 「健康が第一!定時帰宅こそが本来の姿だ」と考え方を変え、人員数の見直しを上司にかけあう
- 残業しないと達成できないムリな目標設定を変えるよう、上司にかけあう
- 「まずは自分の脳と心を休ませよう」とマインドフルネス瞑想をする
自由にいろいろ案を考えたら、それらの選択肢から、
- 具体的か
- できたかどうか確認できるか
- 難しすぎず、実際にできそうか
- 適切で効果がありそうな行動か
- すぐにできそうか
「怒りが善となるか、悪となるか」は、つきあい方次第
怒りは、振り回されると、「人間関係の悪化やトラブル、健康への悪影響をもたらす、やっかいな存在」です。
しかし、うまく付き合えたら、「あなた自身や生活を振り返る機会をくれる、大切な存在」となるので、ぜひ本稿を参考に、上手に怒りをコントロールしてくださいね。
【参考文献】
※1 蝦名玲子 『ストレス対処力SOCの専門家が教える "折れない心"をつくる3つの方法』 大和出版, 2012年.
※2 障害者職業総合センター職業センター(編) 『精神障害者職場再適応支援プログラム:気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのアンガーコントロール支援~講習編~』 独立行政法人高齢・障害・休職者雇用支援機構, 2015年.
※3 安藤俊介(監修) 『今日から使えるアンガーマネジメント 怒らず伝える技術』 ナツメ社, 2016年.
※4 蝦名玲子 『生き抜く力の育て方 逆境を成長につなげるために』 大修館書店, 2016年.
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