モーニングアフターピル・緊急避妊薬とは
避妊に失敗してしまった時、望まない妊娠を回避する方法としてモーニングアフタ―ピルを服用するという方法があります。しかしそれだけで安心してはいけません
さらに、こうした質問をしてきた同世代に対しては、子宮頸がんワクチンが未接種であればなるべく早く接種した方がよいことや、低用量ピルの内服も勧めることにしています。なぜなのか、その理由をご説明する前に、まずは「緊急避妊薬」について少しお話ししましょう。
モーニングアフターピル・緊急避妊薬とは
「緊急避妊薬」は、名前の通り、避妊に失敗してしまった際、性交渉後に緊急的に内服する避妊薬のこと。事後避妊薬、モーニングアフターピル、アフターピル、Emergency contraception、Plan Bとも呼ばれています。性交渉の際にコンドームが破れてしまった、コンドームに穴が空いてしまった、コンドームが途中で外れてしまった、そもそも避妊をしていなかった、などの理由で、妊娠を望んでいない場合に、緊急的な手段として翌朝に服用されることが多いからです。日本で唯一承認されている「ノルレボ」の作用・妊娠阻止率
日本で唯一承認されている緊急避妊薬に、「ノルレボ」があります。レボノルゲストレルという黄体ホルモンが主な成分で、以下の2点の効果により、妊娠を防ぐことができます。1点目は、子宮内膜の増殖を防ぐこと。これにより、受精卵が着床しにくくなり、避妊につながります。2点目は、妊娠している状態に近づけること。排卵の抑制や遅延させることができるため、妊娠を防ぐ効果を得られます。
「ノルレボ」は、2011年2月に日本で承認され、同年5月にあすか製薬より発売が開始されました。性交渉後72時間以内、つまり3日以内に一回1錠(1.5mg製剤)内服する必要がありますが、服用は早ければ早いほど効果的。保険適応外のため、自己負担額は1万3000~1万6000円と高額ですが、国内の臨床試験における妊娠阻止率は81.1%と高く、妊娠率は1.59%と低いのが特徴。ちなみに、海外の臨床試験では妊娠阻止率は84%であり、妊娠率は1.34%であったと報告されています。
海外の緊急避妊薬事情……薬局購入でき安価・新たな承認薬も
「知らないのは愚か、知らないのは罪」。先進国では、緊急避妊薬のことをこのように評価しています。アメリカやイギリスなどの欧米諸国では、2000年前後に緊急避妊薬として承認が始まり、市場に出始めました。2006年10月末時点では、国連加盟国の192カ国中114カ国で承認されていましたが、当時日本は未承認。未承認の国のイランやアフガニスタン、北朝鮮などごく少数の国々に、日本も名を連ねていました。10年ほど遅れて日本でもようやく承認され発売されるに至ったものの、現在も処方箋なしでは手に入らない薬です。「欧米より性教育が進んでいない」という理由から薬局販売が先送りされているのが現状です。一方、多くの先進国ではすでに市販薬として販売されているため、薬局やドラッグストアなどで簡単に購入できます。すでにジェネリック薬品も出回っており、米国では10ドル前後と比較的安価に購入できる点にも大きな違いがあるといえるでしょう。さらに、幼少期からの性教育や避妊についての教育がなされていることもあり、普及率は高くなっています。
ちなみに、国内では未承認ですが、ヨーロッパでは2009年、米国では2010年に承認された緊急避妊薬にエラ(Ella)があります。主成分は、ウリプリスタール酢酸エステル。女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロジェステロン(黄体ホルモン)の混合剤で、排卵を抑制し、受精卵の着床を阻害することによって、妊娠しにくい状態にすると言われています。ノルレボと異なり、性行為後120時間(5日)以内に1度内服するだけでよく、費用は1万円前後とノルレボより安価。さらに、臨床試験でも妊娠阻止率が95%以上と報告されており、内服する時間が早ければ早いほど、避妊効果は高くなるようです。
妊娠したくないなら低用量ピルも検討を…その効果とメリット
注意しなくてはならないのは、これらの緊急避妊薬はあくまでも緊急時に使用する薬であり、強制的に避妊させるものであるため、身体への負担が高いということです。そのため、私は妊娠を希望しない場合は、毎日内服することで高い避妊効果が得られる「低用量ピル」を勧めています。低用量ピルを飲み忘れなく継続して内服した場合の妊娠率は0.3%と言われており、最も高い避妊効果が得られます。そして、低用量ピルには避妊以外にも以下のような効果・メリットがあるのです。
■低用量ピルの効果・メリット
- 妊娠率0.3%の高い避妊効果
- 女性ホルモン量の変動が少なくなり、生理前症候群(PMS)が緩和される
- 子宮内膜の厚みが減ることで、月経痛がやわらいだり、月経時の経血量が減少することで貧血も軽くなる
- 規則正しい生理周期になるため、生理不順も改善される
緊急避妊薬やピル服用後も受けるべき「性感染症検査」
また、避妊失敗時に緊急避妊薬の服用で妊娠を防げたからといって、安心はできません。自分の身体を守るためには、HIV、クラミジア、梅毒、淋菌などの性感染症の検査も大切です。パートナーを信頼しているから自分にはそんな検査は必要ないと思っている女性も多いかもしれません。そして、陰部にムズムズとしたかゆみや、おりものの臭いなどの違和感を自覚したとしても、すぐに病院へ検査を受けに行くのはためらってしまう女性が多いのではないでしょうか。
残念なことに、性感染症は自覚症状の乏しいことが多く、不妊の原因にもなることが指摘されています。いざ妊娠したいと思い検査をしたところ、性感染症にかかっていたと診断されるケースは珍しくないのです。自分自身の身体を守るための手段の一つとして、性感染症の検査を定期的にすることを、私はお勧めしています。
HPV感染が原因での「子宮頸がん」予防も
そして最後にもう一つ重要なことがあります。それは性交渉により感染するウイルスの一つである「ヒトパピローマウイルス(HPV)」です。HPVは、性交渉の経験のある約80%の女性が50歳までに一度は感染すると言われているウイルスであり、子宮頸がんの原因になります。子宮頸がんは、30~40代が好発年齢であり、多くの患者が小さな子供を残して亡くなってしまうため、「マザーキラー」とも呼ばれている疾患です。怖い病気ですが、子宮頸がん検診を受けることにより、初期の段階で発見することは可能ですし、早期発見できれば子宮を温存する治療を検討できるケースもあります。子宮が温存できれば、がん治療後も妊娠の可能性を残すことができます。
HPV感染予防で有効な方法としては、子宮頸がんワクチンを勧めています。日本では2013年から定期接種となったものの、ワクチン接種後の副作用の報告を重視した厚生労働省が「接種の積極的な勧奨」の一時中止という決定を下しました。その結果、混乱が生じてしまい、子宮頸がんワクチン接種を希望しない女性が増えてしまっているのが現状です。
その一方で、世界保健機構は「HPVワクチンは極めて安全である」と宣言しています。アメリカ疾病予防管理センターの研究グループは、2006年中旬にアメリカでHPVワクチン接種が開始されて6年間で、14歳から19歳の女性におけるHPV感染率が64%、20歳から24歳の女性においては34%も低下したと報告しています。
性交渉前に接種することが理想ですが、社会人になってからでも遅くはありません。子宮頸がんの予防と早期発見のために、子宮頸がん検診を毎年受けること、そして子宮頸がんワクチンを接種することを同じ女性である医師としても心から勧めたいと思います。
万一の場合に「緊急避妊薬」という選択肢を知っていることはもちろん大切です。しかしそれ以前に、性交渉があるのなら、それに伴う妊娠以外のリスクも理解した上で、適切な検査を定期的に受けること。自分の身は自分で守らなければなりません。緊急避妊薬を内服して、「ああ、よかった」と安心して終わるのではなく、自分の身体を真剣に見つめ直すきっかけにしてみてはどうでしょうか。
【関連記事】