「幸せ自慢」をしていたのに……
セレブ妻たちの幸せ自慢の裏には……
あるとき、40代から50代の既婚女性3人と話す機会があった。彼女たちの口から出てくるのは「幸せ自慢」ばかり。実際、3人とも専業主婦で外車を乗り回し、エステで磨いた肌は輝き、着ているものも持っているバッグもブランドもの。こちらとしてはひたすら羨ましいなあとぼうっと見ているしかない。
ところがしばらく黙っていた1人の女性が「でも私、夫のことが好きじゃないのよね」と言い出した。あとの2人の目が輝く。
「私も」
「私もよ。キッチンで夫が後ろを通り過ぎると寒気がするほど」
3人を取り巻く空気が一気に変わった。
「夫が出張に行くと、このまま帰ってこないでほしいと思う」
「思う思う」
3人は、実は夫がいなくなればいいのにと思っているのだという。
感謝しなければいけないのはわかっているけど
家政婦扱いする夫にキレる妻たち
ミエコさん(42歳)は、ひとり娘を私立中学に入れ、今は「自分がやりたいこと」を探している最中だという。
「私、去年娘を中学に入れてほっとしたのか体調を崩したんです。めったに具合が悪くならないから夫は意外だったみたい。寝込んだ私の枕元で、『で、オレは何を食べればいいの?』って。私の心身には夫への恨みが溜まっていたんでしょうね。そのひと言でキレました。いつか絶対、この人がげっそりするほどの復讐をしてやろうと心に決めた(笑)」
人の何倍も稼ぎ、楽な生活をさせてもらっていることに「感謝しなくてはいけない」とミエコさんはいつも思っている。だが、病気の妻に「オレは何を食べればいいの?」と聞く夫に素直に感謝することができないのが現実だ。
「夫は家の中を完璧にすることを求めている。機嫌が悪いと棚を指でなぞって私の顔を見るんです。埃が溜まっているんでしょう。私は知らん顔をします。この人に愛情なんて持てない。だけど別れたら、私は今の生活ができない。だから夫が居心地いいように暮らしをととのえるのが私の仕事だと割り切るようにはしています。それでもときどき、ため息が出ます。夫がいなくなって、なおかつ今の生活が保てればいちばんいいんですけどね」
ミエコさんは苦笑いしながらそう言った。
また単身赴任してほしい
「私には天国の時間が2回もあったんですよ」そう言うのはカナエさん(48歳)だ。37歳のころ、3歳年上の夫が2年ほど単身赴任したのだ。北海道だったから、帰ってくるのはせいぜい月に2回くらい。
「当時、10歳と8歳だった娘たちも最初は寂しがっていたけど、すぐに慣れて女3人で楽しい日々でした。夫が帰ってきたときは『またお父さんが単身赴任すればいいのにね』とよく3人で祈っていたものです」
その日は再度、訪れた。その7年後、夫が今度は九州へ。支店のてこ入れだというから、夫は仕事ができる人のようだ。
「そのようです(笑)。でも私にとっては決していい夫ではなかった。子どもが小さいときはまったく手伝ってくれなかったし、子どもがうるさいのも成績が悪いのも全部私のせい。『あんたの子でもあるんだよ!』と怒鳴ったこともありました。夫は何も言えなくなったっけ。2度目の単身赴任のときは、娘たちも思春期だったので喜んでいましたね。単身赴任から帰るたびに、夫と私たち3人との気持ちは離れていった。今では夫が帰宅すると娘たちは自分の部屋へ行ってしまいます。私は夫に食事を出すとリビングでテレビを観てる。ほとんど会話はありませんね。また単身赴任すればいいのに、と娘たちとよく話しています」
夫というものは、家族の一員であると認識していないのだろうか。自分が家族から疎まれていることをわかっていないのだろうかとカナエさんは真顔で言った。
今日こそ帰ってきませんようにと祈る日々
サトコさん(50歳)は、夫が朝出かけるとき、「行ってらっしゃい」と言いながら、心の中で「今日こそ帰ってきませんように」と祈るのだという。「ときどき夫が外で死ぬ夢を見るんです。そうすれば家のローンは生命保険で相殺されるし、上の子は働いているし、下の子は大学生なので、もうそれほどお金もかからない。家を売って小さなマンションでも買って、ほそぼそと暮らしていけたらいいなと思うんです」
自由になりたい、とサトコさんはつぶやく。毎日、家族に尽くす日々に疲れている。
「子どもたちはいいんです。成長してちゃんと自分のことができるようになっていく。ただ、夫は私を金のかからない家政婦さんとしか思っていない。私は夫が生活費として振り込んでくれるお金で飼われているようなもの。夫の収入も知らないんですから」
じゅうぶん過ぎる生活費の中から、へそくりをしてきた。洋服などは夫の家族カードを使えばいい。何を買っても夫は何もいわない。それは愛情ではなく、「私に関心がないから」とサトコさんは言う。
「私個人には関心はない。だけど“妻”という存在がいないと困る。夫にとってはそんなところでしょう。一時期、私も仕事をしたいと言ったことがあるんです。鼻で笑われました。『おまえに何ができるんだ』って。あのときからかな、夫が帰ってきませんようにと祈るようになったのは」
夫はそんな言葉を発したことを覚えていないかもしれない。だが、妻は傷ついている。
他人から見たら羨ましいような生活をし、本人も「幸せ自慢」をしてしまう女性たちが、これほどまでの絶望感や夫への不信感を抱いている。家族としてこのままでいいのかと思いながらも、寄り添う気持ちのない夫からは心がどんどん離れていく。夫が妻のそんな気持ちに気づく日は来るのだろうか。