噴火した火口周辺で起きること
厳冬期の硫黄島。活発な火山活動が見られる
2018年1月23日、草津元白根山が噴火。隣接するスキー場では雪崩も発生し、直後に数名のスキー客が巻き込まれてしまいました。今回死者、負傷者が発生したのは、主に「噴石」による打撃が原因でした。噴石による人的被害2014年9月に発生、58名もの死者を発生させた御嶽山の噴火を思い起こさせます。
■冬に積雪のある火山付近は、雪崩や火山性ガスによる事故のリスクも
冬季に積雪のある火山では、この他にも、登山客やスキー客を巻き込み、被害を発生させるような現象が起きる可能性があります。
火山の噴火時には「火山性地震動」が発生するとともに、「空震」が発生します。後者は一般的に聞き慣れない現象ですが、噴火により、空気中を伝わる衝撃波のことです。これらによって、周辺の建物のガラス窓などを振動させ、破壊する力を持ちます。大規模な爆発事故や隕石の通過などでも起きる場合があります。
火山の周辺に積雪があった場合、この地震動や空震によって、大規模な雪崩が発生する可能性があります。今回の草津元白根山の噴火では、スキー場に噴石が次々と落下する映像が記録されましたが、これらの衝撃も、雪崩を誘発する原因となります。
さらに噴火発生時には、火口からの高温の噴出物によって瞬間的に積雪が溶け「融雪型熱泥流」というものが発生することもあります。これは斜面の樹木や土砂を巻き込みながら急速に下降するため、山麓にある人家や集落に対して大変な被害を発生させる可能性があります。
降雪の多い地域の活火山においては、これを想定したハザードマップが作成されています。国内では十勝岳の噴火時に記録されています。1985年、コロンビアで起きた火山爆発による熱泥流では、麓の集落の避難が遅れ、なんと2万5000人もの死者が出るなど、大惨事になったケースもあります。
この他、噴火時には「火山性ガス」が大量に噴出するケースもあります。温泉地に行くと鼻をつく「硫黄臭」も、原因の物質は「火山性ガズ」です。噴火時には「硫化水素」「二酸化硫黄」「二酸化炭素」などが発生しますが、有毒であり、濃度によっては人を即死させるほどの毒性を持っています。
草津などでは空気中の成分などを常時計測し、一定以上の濃度が計測されると警報を鳴らすなどの体制がとられています。過去、活火山周辺では噴火時に限らず、この「火山性ガス」による事故が発生しているので、そのリスクも知っておくべきことです。
火口から一定以上離れれば基本は安全
草津元白根山の噴火によって噴石が到達した距離は約1kmとされていますが、草津町長は火口周辺2kmの範囲内を立ち入り禁止エリアとしています。そもそも、火山の災害リスクは、火口からの距離によって減っていきます。直下の山麓やハザードマップで示されている危険エリアを除いて、一定の距離を置けば「安全」というのは十分に根拠のあることです。むやみに噴火を恐れ、同じ名前がついているだけで、距離のある温泉地などを避けるのは残念なことと言えるでしょう。
草津元白根山の噴火は、噴火の前兆となる火山性地震も観測されておらず、マグマの噴出も見られない「水蒸気爆発」によるものと見られていますが、多くの噴火活動には、前兆現象となる地震動や山体の膨張などが発生します。もちろんそのような情報があったときには火山周辺には絶対に近づかないことが重要です。
しかし普段からすべての活火山から避けるようにすることは、なかなか難しいこと。活火山であるからと富士山の登山を控える人はいません。イメージだけで活火山を遠ざけるのではなく、正しく情報をとり、噴火の際にどのような対処をすべきかを知っておくことの方が重要です。
もしも近隣で火山噴火が発生したら
■日本国内にも、活火山に隣接する観光地はたくさん日本国内には1万年以内に活動のあった「活火山」が111あり、スキー場、温泉地、観光地に隣接している場所も多いので、「知らないうちに近くにいた」ということもあるはずです。
活火山の中には、富士山はもちろん、伊豆大島(1986年に噴火)、新島、三宅島(2000年に噴火)なども含まれます。何度も噴火を繰り返す桜島や阿蘇、近年に水蒸気爆発を起こした箱根だけではありません。スキー場で多くの人を集めるニセコも活火山です。
そんな中、蔵王や浅間山などでは火山活動が観測されているため、現時点で火口周辺規制(レベル2)が行われています。(草津白根山、桜島、霧島山などはレベル3で入山規制)
■活火山周辺に行く場合、気をつけるべきこと
これらの活火山周辺に行く場合は、気象庁の火山活動の情報を収集し、活発化している(レベル2以上)場合は周辺での登山、スキーなどの行楽は避けるのが賢明です。
そして噴火情報を入手したら、すぐに頑丈な建物の中に退避すること。活火山周辺では、待避所となる建物の場所を把握しておくことが大事で、いかに短時間で退避できるかが生死を分けることがあります。
退避所に逃げる間もなく頭上に噴石が降り注いだ場合には、少しでも生存の可能性を高めるために、近くの岩陰に隠れる、荷物の入ったバッグを頭上に掲げるなどの行動が必要になります。
噴石がおさまった後にも、泥流、有毒性のガスの発生など二次的に被害を受ける可能性もあります。退避の際の安全を確保できると思われる場合は、なるべく早く火口からの距離をとるというのが最終的な対処方法となります。
世界中の活火山の7%が日本国内に存在しています。そんな火山大国に住む日本国民は、そのリスクの反面、温泉など観光地としてのさまざまな恩恵も受けています。正しい情報を入手して、この自然現象とうまくつきあっていくことが必要と思います。
活火山への対処方法・気をつけるポイントまとめ
1.活火山の周辺地域に行く場合は気象庁の情報を収集する。2.退避所となる建物の位置、ハザードマップなどを、事前に入手しておく。
3.火山であることを留意して、火口からの一定距離を保っておく。
4.噴火に遭遇してしまったら、生存確率を上げる対処方法をとる。
5.活火山であることが直ちに周辺地域に危険を及ぼすわけではないことを心に留めておく。
【関連記事】
雪崩から身を守るには?
スキー場で地震を感じたらどうする?
雪山の遭難、雪崩事故に遭わないためには?
活火山で噴火に見舞われたら? 逃げる術はあるのか?