薬の飲み忘れ・中断による症状再発のリスク

服用

高齢の方は服用薬が多くなる傾向があり、その管理は意外と大変

「あれ、食事の後で薬飲んだっけ?」という経験、皆さんもありませんか? 私は薬剤師として働き日々薬の飲み方などを説明していますが、正直に告白すると、私自身もこの経験は1度や2度ではありません。

その後にゴミ箱をひっくり返して薬の入っていた包装の有無を確認したりと、自分でも「何をやっているんだ、俺は……」と情けなくなったことは数知れずあります。

特に高齢者の方などは、若い方と比べてどうしても薬の種類が多くなりがちです。さらにそれぞれの服用回数、食後や就寝前など服用のタイミング、錠数や包数などがバラバラのことも多く、薬の飲み忘れが起こってしまうのも無理のないことかもしれません。

しかし、特に継続して管理が必要な持病を持たれている方などの場合、薬の飲み忘れや服薬の中断などは、症状の悪化や再発につながります。毎日忘れずに服薬することは非常に大切です。

今回は、薬ごとに服薬のタイミングなどが異なる理由など、薬の作用に関する基礎を解説した上で、薬の飲み忘れ防止法と最新技術についてご紹介したいと思います。

薬によって飲むタイミングや服用回数が異なる理由

医薬品

薬ごとに吸収性や分解のされやすさなどが大きく異なる


そもそもなぜ薬を服用する回数やタイミングは異なるのでしょうか。全部の薬が同じ服用回数で同じタイミングであれば、飲み忘れは起こりにくくなるはずです。

もちろんこれには理由があります。それぞれの薬には吸収されやすさなどの「個性」があり、研究の末にそれぞれの薬が最も効果を発揮できるように飲み方が設定されているのです。

比較的長く身体にとどまることができる薬は1日1回など少ない回数で済みますが、身体の中から素早く排泄されてしまったり、分解されてしまう性質の薬は1日のうちに複数回服用することが基本になります。

タイミングについても食事と一緒に服用することで、より身体に吸収されやすくなるものは食後服用が基本です。服用後に眠気やふらつきが起こりやすい薬なら、そのリスクを回避するために就寝前となります。

服用薬が多い方は誰しも「全部、1日1回の食後にならないのか!」と感じると思いますが、上記のような理由があるのです。

100均でも購入できる薬の飲み忘れ防止グッズ

グッズ

100均にも便利で簡単な飲み忘れ防止グッズがある(入っている薬は実際の服用法とは異なります)

薬の個性が違う以上、正しくその効果を求めるためには、やはり個々人が工夫して服薬管理をしていかなくてはなりません。

簡単なものとしては、最近では薬の飲み忘れを防ぐための様々な商品が100円ショップなどでも売られています。

最も簡易なタイプのものは、日にちと飲むタイミングごとに間仕切りがある小物入れのようなデザインのものです。その他にも日付の部分に薬を入れる袋が付いたカレンダータイプの製品などもあります。

これらのいわばアナログな方法での薬の飲み忘れ防止グッズは、価格もデザインも様々なので、ご自身に合ったものを探してみるのもよいでしょう。

薬ケースが発光し服用タイミングを知らせるIoTも登場

上記のようなアナログなアイテムに加え、最近はネットなども活用した薬のケースや、薬自体に飲み忘れ防止システムが加えられたハイテク医薬品も登場しています。

例えば脳梗塞再発を抑えて血行を改善する薬で、服薬を促すIoT技術が使われているものがあります。薬はプラスチックの包装ではなく、特別な装置を内蔵した薬ケースに入っています。

このケースに設定された薬を飲む時間帯になるとLEDが発光し、患者さんに服薬を促します。簡単な操作で薬を一度取り出すると消灯するので、後の時間になっても飲んだことが分かるという仕組みです。

さらにケースには通信機能があり、専用のアプリを自分のスマホやタブレットにインストールすれば、服薬の履歴を付けることも可能となります。これを利用すればLEDとアプリで二重の飲み忘れ防止システムがはたらくことになります。

さらに追加設定を行えば、薬を服用した患者さんのスマホなどからネット経由で家族や医療機関に薬が取り出されたことを通知するメールが届く仕組みもあるそうです。

服薬をアシストするシステム

服薬をアシストするシステム イメージ図

この機能を利用すれば「九州の実家で一人暮らしの母親がしっかりと薬を飲めているか娘さんが把握する」など、安否確認も含めて活用することが可能でしょう。

薬自体にセンサーが内蔵されている医薬品も

また、統合失調症などに使用される薬で、錠剤自体に銅やシリコンでできたミリ単位の微細なセンサーが内蔵されたものも米国で承認されました。

服薬した錠剤が胃に到達するとセンサーが胃液と反応して信号が発信されます。信号は服用した患者の脇腹などに装着してある検出器がキャッチし、信号を受け取った検出器を経由して自身や介助者のモバイル端末に服用完了の通知が入ります。

役目を終えたセンサーは吸収されることなく安全に排泄されて役割を終えます。

「IoT」と医薬品の未来

IoT

ネットはヒトとヒトだけではなくモノとヒトの領域にまで拡大している


近年、「IoT」という言葉をニュースや新聞などで頻繁に聞くようになりました。IoTとは「Internet of Things」の略で、ごく簡単に言うと「モノに内蔵されたネット技術」と説明されます。

代表的なIoTの活用例としては、航空機エンジンに内蔵されたセンサーがネット経由でエンジンの異常や部品の劣化を知らせ、航空会社にメンテナンスを促すといったものが挙げられます。

一般生活レベルで実用化されて普及してきているのは、見守り機能を目的としたセンサーを内蔵した給湯ポットなどでしょうか。給湯ポットが使用されると、指定されたアドレスに使用状況のメールが送信されます。

「給湯ポットが使用されている」ということは「使用者はしっかり生活している」ことになり、遠方に住んでいるご家族の安否確認に繋がります。この製品の基本理念は上記の服薬システムとも共通す部分があるでしょう。

薬にIoTを活用した飲み忘れ防止機能は、服薬忘れによる症状再発などだけではなく、家族の安否確認などその他のメリットも期待できます。その反面、服用薬の情報はその方の持病や病歴に直結するため、極めてプライバシー性の高いものとも言え、扱いには注意も必要です。

今後、超高齢化社会を迎えるにあたって服薬する薬が多い高齢者を中心に薬の飲み忘れは、今以上に問題になってくることが予想されます。それに対応するように医薬品のハイテク化やIoT化も加速し、そこから得られる情報管理の議論も活発になっていくかもしれません。
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