「人間関係が悪い職場」の飲み会に意味はあるのか?
アルコールとストレス研究から考察 職場の飲み会
「職場の飲み会」といえば、人間関係をより円滑にする等の目的で、古くから取り入れられてきたコミュニケーションのひとつです。しかし、最近では、残業代も出ないのに会費を払って仲のよくない同僚と酒を交わすことにストレスを感じる人も多いようです。
人間関係が悪い職場の場合、飲み会をすればお酒のおかげでリラックスし、同僚たちと腹を割って話せ、悪化した人間関係が改善されるでしょうか? それとも、そうしたストレスをもたらす上司や同僚とお酒を飲むことで、さらにストレスレベルが高まるのでしょうか?
ストレスとアルコールの関係についての研究から、これらの質問にお答えし、そのうえで「人間関係の悪い職場の飲み会をストレスフリーにするポイント」を考えます。
ストレスフルな出来事の直後のアルコール摂取は、ストレス状態を長引かせる
シカゴ大学の研究チームが行った研究では、ストレスフルな出来事の直後か30分後にアルコールを摂取し、アルコールがもたらす友好性や不安等の主観的反応とコルチゾール等の生理学的状態の変化を、ストレスフルな出来事の「前・直後・30分後・それ以降」で比較しています(※1)。
■ストレスフルな出来事の「直後」にアルコールを摂取した場合
- ストレスフルな出来事の直後、コルチゾール値が高まらず、ほとんど変化が見られなかった。
- ネガティブな主観的ストレス反応を増長させた。具体的には、友好性の低下、不安や混乱の高まり、といったストレスにより誘発された状態を長引かせた。
■ストレスフルな出来事の「30分後」にアルコールを摂取した場合
- ストレスフルな出来事の直後にコルチゾール値が急増し、その後、低下していく動きを示した。
- ネガティブな主観的ストレス反応の増長は見られず、アルコールを摂取する頃(ストレスフルな出来事から30分後)には、ほぼ戻っていた。
私たちの身体は、ストレスを感じると
- 脳の視床下部がCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を放出
- CRHが下垂体から産出されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌を促進
- ACTHが副腎にたどり着くと、糖質コルチコイドを含む3種類の副腎皮質ホルモンの合成と分泌を刺激
ストレスに反応して分泌されるため、コルチゾールは「ストレスホルモン」と呼ばれて悪いイメージがありますが、コルチゾールの分泌量が増えるからこそ交感神経が刺激され、血圧等が上昇し、運動機能が活性化したり脳が覚醒したりする等、ストレスに対応する準備ができるのです。よって、ストレスを感じたときにコルチゾールの分泌量が増えることは自然なことです。
前述の研究では、ストレス発生直後にアルコールを摂取した場合、このコルチゾールの分泌に関わる応答性が悪くなり、分泌量が抑制され、さらには友好性の低下、不安や混乱の高まりといったストレス状態の増長を示す結果が得られたのです。
では、こうしたストレスとアルコールの関係を踏まえて、「人間関係の悪い職場の飲み会」について考えてみましょう。
職場の飲み会で「悪化した人間関係」を改善できるのか?
再度、冒頭の質問です。
人間関係が悪い職場の場合、飲み会をすればお酒のおかげでリラックスし、同僚たちと腹を割って話せ、悪化した人間関係が改善されるでしょうか?
ここまで読まれたあなたなら、もうお分かりですよね?
答えは、「ノー」です。
嫌な相手と一緒にいてストレスを感じているときにアルコールを体内に入れると、ストレスに対応するために必要なコルチゾールの分泌量が抑制され、「嫌だ」という気持ちから誘発されたストレス状態を長引かせることになりかねないからです。
人間関係を改善してから、飲み会を開催しよう
飲み会は人間関係を改善してから
では、「人間関係の悪い職場で、飲み会を開催したい」という場合には、どうしたらいいのでしょうか?
ポイントは「"飲み会の場で"人間関係を改善しようとする」のではなく、「"人間関係を改善してから"飲み会を開催する」というように、順序を変えることです。
「一緒にいてストレスを感じない相手(良好な関係だったら最高です!)」と軽く飲みながら話す会食は、リラックスし、人間関係をより円滑にするチャンスになります。
ただ、そうした効果を得るためには「一緒にいて(少なくとも)ストレスを感じない程度の関係」を築けていることが必要です。まずはそうした関係を、飲み会前までに築いておきましょう。
【引用文献】
Childs E, O'Connor S, Wit H. Bidirectional interactions between acute psychosocial stress and acute intravenous alcohol in healthy men. Alcohol Clin Exp Res. 2011 Oct; 35(10): 1794–1803.