誰でもなりうる「依存症」……いくつもの発症要因

依存症

飲酒、喫煙、買い物、スマホ、ゲーム……日常生活や人生に影響が出るほど何かにのめりこんでしまう「依存症」。いくつかの要因が考えられますが、誰にとっても他人事ではありません

日常的な楽しみとしての飲酒、ギャンブル、買い物。これらは多くの方にとっては、いずれも特に問題のない気晴らしの一つでしょう。しかし、日常生活や人生に大きな支障が出るほど、これらにのめり込んでしまう方がいることも事実です。その違いや線引きは、どこにあるのでしょうか?

依存症は、多くの方は自分には全く関係ないものだと思われていると思いますが、ある条件が成立すれば、誰にでもリスクがある病気です。今回は依存症になる原因、多様なリスク要因について詳しく解説します。

依存症の要因:遺伝

依存症は、その人自身の生活習慣の問題に見えるかもしれません。人は人、自分は自分、と捉えがちかもしれませんが、実は両親や祖父母など身近な親戚に何らかの依存症になった人がいる場合、一般的に見て、その依存症の発症リスクは相対的にはっきり高まる傾向があります。

血のつながりが強いということは、DNAに記されている遺伝子情報が似ているということです。遺伝子は、ごく簡単に表現すれば、人が生きるために必要とするタンパク質の設計図の集まりです。一般的に何かしらの疾患に遺伝性がある場合、病気の発症には、その遺伝子で生み出されたタンパク質が何らかの形で関わっているともいえます。

遺伝性の有無を調査する基本的な手法の一つに、双子の調査があります。一言で双子と言っても、両者の遺伝子が全く同一の一卵性双生児と、遺伝子が異なる二卵性双生児の、2つのタイプがあります。

もし双子の片方が何らかの疾患を発症した場合に、他方も発症率が高かった場合、その疾患に遺伝性が認められる証拠として考えられます。特に一卵性双生児における発症率が二卵性のそれよりも明らかに高まっていた場合、その疾患に遺伝性がある有力な証拠だとみなされます。

では依存症の場合はどうかというと、一部の違法薬物に対する依存症について、一卵性双生児の発症率が二卵性双生児のそれよりも明らかに高くなることが知られています。しかし同時に、これらの調査が示唆する重要な結果として、発症はかならずしも遺伝要因だけでは決まらないことも覚えておかなくてはなりません。遺伝要因に加えて、何らかの環境要因や心理的要因がさらに加わることが、その依存症の発症に大きく影響することが判明しています。

依存症の要因:「冴えない気持ち」や「心の病気」

何かに依存していくきっかけ、言い換えればそれにのめり込んでいく原因のひとつとして、心に問題を抱えていることが挙げられます。いつも気持ちが冴えない、先が見えない、不安が強いといった状況にあると、それらの気持ちを楽にするため、あるいは辛い気持ちを忘れるために、通常以上に何かを求めやすくなります。「気持ちが冴えないこと」は、依存症の基本的なリスク要因の一つなのです。

また、何らかの心の病気をすでにわずらっていることも、依存症のリスク要因と言えます。うつ病、摂食障害、対人恐怖症、統合失調症などの精神疾患の療養中は、飲酒やタバコなどの量が通常よりもかなり増加しやすくなる傾向があります。医師の立場からは、健康的な生活習慣を患者さんにアドバイスしていくことも、精神疾患から健康に回復していくための重要なポイントだと言えます。

依存症の要因:環境や文化的な要素

また、飲酒やギャンブルなどにのめり込んでいくきっかけには、仲間から誘われて、というものも少なくないものです。依存症は一般的にそれを始めた年齢が早期であればあるほど、依存症につながるリスクが高まります。例えば未成年の頃から飲酒をし始めた人は、成人後に飲酒を開始した人と比べ、アルコール依存症の発症率が明らかに高くなります。

また、飲酒やギャンブルなどにポジティブなイメージを持っていることも、それらの依存に歯止めがかかりにくくなる原因の一つです。たとえば、飲酒をする姿やギャンブルに興ずる姿に対して「クール」「イケてる」といった印象をもともと持っていた場合、それに過剰にのめりこむことが悪い結果につながりやすいということを、当たり前ですが認識しにくくなってしまいます。つまり、遺伝だけでなくこれらのいわば当人の文化的な要素もまた、依存症のリスク要因と考えられるのです。

依存症発症を防ぐ方法は? 人生に虚しさを覚えた場合

上記の通り、依存症になりやすい要素は複数挙げられます。しかし、依存症を予防する方法はごくシンプルで、一言で言えます。それは、「その依存対象に近づかないこと」に尽きます。

当然すぎると思われるかもしれませんが、これには毎日の生活習慣が大きく関わります。例えば何か別の一般的に見ても健全なものに対して一生懸命打ち込んで時間を割いているような時は、頭の中に飲酒やギャンブルなどが入りこむ余地は少なくなってくるでしょう。こうした状況は依存症の予防法としては理想的なものだと思います。

一方、何かの理由で自分を見失ってしまった時は、注意が必要です。もし自分が何を目指しているのか分からなくなってしまい、虚しい気持ちや時間を持て余してしまった場合、空虚さをしのぐために何となく手を出したことに、そのまま深くのめり込んでしまうリスクは低くありません。飲酒、喫煙、買い物、ゲーム、ドラッグ、異性……何に対しても依存してしまうリスクがあります。

人生に虚しさを覚えること自体は、誰にでもあるものです。

ちょっとした嫌なことが重なったときかもしれませんし、身近な人の死などのかなり深刻なことが起きたときかもしれません。また、現在は差し迫った困りごとがない場合でも、幼少時のトラウマ体験などが原因になって虚しさを抱えている方もいらっしゃいます。こうした気持ちの不調に対して、いかに気持ちを前に向けていくか。それは私たちが生きていく上での課題の一つとも言えるかもしれません。解決法となる答えは一つではなく、人それぞれのやり方があるでしょう。自分ひとりだけが辛いのだと気持ちを内向きにして自暴自棄にならないよう、前向きに踏み出す方法を考えていくことが大切なのです。


以上、今回は依存症のリスク要因を詳しく解説しました。遺伝や環境など、該当するものがあった方は少し心配になってしまったかもしれません。しかしリスク要因が備わるということは、統計上、通常の数字と比べて相対的に発症率が高くなることが示されているだけで、個々の将来を予測するものではありません。また、逆に今回解説したリスク要因に全く当てはまらない方でも、辛い気持ちや虚しさを感じている中で、その発症の素地が作られてしまう可能性があることも事実です。リスク要因が備わるということは通常よりも依存症に注意すべきこと、また、そうでない方も無関係と思って自暴自棄な依存に走るべきではないことを、ぜひ頭に置いておいて下さい。
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