貧血とは……無症状でも放置は禁物

悩む女性

50歳未満の日本人女性の22%が該当すると言われる「鉄欠乏性貧血」。自覚症状がある人はもちろん、無症状のケースも多いので注意が必要です

「貧血と指摘されたことは何度もあるのですが、結局何が悪くて、何をすればよいのかわかりません」という質問は、外来でも後を絶ちません。今回はそもそも貧血とは何なのかというところから、その原因や症状、治療法や予防法について、わかりやすくお伝えしたいと思います。

血液内科学の世界的教科書である『ウィントローブ臨床血液学』によると、「貧血とは、体内の末梢組織に十分な酸素を運ぶだけの赤血球の量が維持できていない状態」と定義されています。多くの場合、「鉄分が体内で不足した結果、全身に酸素を運ぶヘモグロビンを生産できなくなり、体内の組織が酸欠になった状態」です。身体中が酸欠状態になるため、貧血は私たちの体に様々な問題を引き起こします。 

貧血は、時に頭痛・動悸・息切れ・易疲労・集中困難・虚弱など非特異的な症状を起こすことがありますが、多くは無症状です。しかし放置すべきでなく、貧血が重度になると感染症にもかかりやすくなり、心不全を引き起こすリスクも挙げられています。貧血症状を起こしているものが大きな疾患である可能性もあります。さらに、子供の場合は認知機能の低下や精神・運動機能の発達遅延を引き起こすことも報告されています。

日本人の貧血の多くを占める「鉄欠乏性貧血」とは

 「そういえば、最近無性に氷が食べたくなります」。内科の外来を毎日するようになってからというもの、このような患者さんが多いことに驚いています。この症状は日本人の貧血の多くを占める「鉄欠乏性貧血」でよく見られるものですが、患者さん自らがそのような訴えで受診をされることはまずありません。だからこそ、めまいやふらつきなどの不定愁訴を訴えられる患者さんが来られた場合、「氷を無性に食べたくなったりすることはありませんか?」と、限られた診察時間の中でも忘れずに聞くようにしています。これは「氷食症」と呼ばれ、鉄欠乏性貧血が進んだケースでよく起こる症状の一つで医療者の中ではよく知られているものなのですが、なぜ貧血になると氷が食べたくなるのかのメカニズムはまだ明らかになっていません。

もちろん、鉄欠乏性貧血であったとしても、皆が氷をバリバリ食べるようになるわけではありません。先述した通り、貧血は無症状なことも多く、現れる自覚症状も様々だからです。

ある日、「健康診断でヘモグロビン値が6g/dLだったので、先生に今すぐ病院に行くように言われて来ました」と、母親と共に診察室に入って来た中学生がいました。ヘモグロビン値のあまりの低さに驚きましたが、その子自身は貧血と関連するか不明な倦怠感以外は、ふらつき、息切れといった貧血の特徴的な症状を何一つ自覚していませんでした。「氷を食べたくなることもないし、病院に行きなさいと言われた理由も分からない」と言っていました。私は貧血かどうかの精査をすべく、即座に血液検査をしました。そして、彼女の場合は自覚症状がほとんどない状態の鉄欠乏性貧血と診断し、鉄剤の内服による治療を開始しました。2ヶ月が経った頃、「倦怠感が少し取れた気がする」と報告してくれた彼女の笑顔は、今でも忘れられません。

鉄欠乏性貧血の原因……ダイエットや偏食の影響も

鉄欠乏性貧血の原因として、ダイエットや偏食、菜食主義による鉄の摂取不足が挙げられます。近年の女性の美的意識の変化は、貧血の主な要因です。痩せ願望が高まり、ダイエットが流行している結果、1995年に1886kcalだった20~29 歳の女性の平均摂取カロリーは、2013年には1628kcalに減少しました。18~29歳における推奨摂取カロリーの1950kcalよりもはるかに少なく、また1946年の都市部の摂取カロリーの1696kcalも下回っています。

鉄の摂取不足も深刻です。18~29歳の日本人女性の一日の鉄の摂取推奨量は、10.5mgです。けれども、実際の鉄の摂取量は、2001年以降推奨量を下回っており、2015 年の20~29歳女性の鉄の平均摂取量は6.6mgでした。

虎の門病院の久住英二医師らによる2002~2005年の調査によると、50歳未満の日本人女性の22.3%が貧血、そのうちの25.2%が重度の貧血だといいます。久住医師らの調査から10年がたった現在、さらに貧血が進行している可能性は十分に考えられます。

鉄欠乏性貧血は公衆衛生の問題……世界各国と日本の対応

世界には、鉄欠乏性貧血を公衆衛生の重大な問題であると位置づけし、貧血対策として食品へ鉄を添加している国が多々あります。たとえば、アメリカやイギリスでは小麦粉に、フィリピンでは米に鉄を添加しています。けれども、日本における貧血対策は全くなされていません。残念ですが、自分自身で、レバーや赤身の肉など、鉄を多く含む食品を毎日十分に摂取するしかありません。

ちなみに、「鉄分の王様」と呼ばれていたひじきですが、それは、鉄釜を使用していた頃の過去の話です。近年、一般家庭でも使用されているステンレス釜での調理したひじきが広く流通した結果、ひじき100gあたりの鉄の含有量は、鉄釜を使用していた時の58.2mgに対して、6.2mgに減ってしまっています。それでも、鉄を多く含む食品の一つには変わりありませんが、ひじきをよく食べるようにしているから大丈夫、といった過信は禁物です。

貧血の治療法・鉄剤の副作用と問題点

では、「あなたは貧血です」と言われたら、どんな治療を受けることになるのでしょうか。鉄欠乏による貧血の治療は、鉄剤の内服です。内服を始めて1週間もすると、幼若な赤血球である網状赤血球が増加し始めます。2ヶ月も内服を続けると、貧血は改善します。ただし、貧血が治ったと自己判断して、この段階で鉄剤の内服を中止してしまうと、すぐに貧血は再発してしまいます。というのも、鉄の貯蔵がまだ十分ではないからです。自転車操業のような状況を打破するには、さらに3~6か月は鉄剤を飲み続ける必要があります。

鉄剤の最大の問題点は、吐き気や嘔吐などの消化器症状が出やすい点でしょう。「鉄剤を飲むと気持ち悪くなって、仕事どころではなくなってしまうので飲めません」という方も、実際に多いです。そのような方には鉄剤を減量し、必要に応じて鉄剤の静脈注射を行うなどの処置をすることもあります。

鉄欠乏性貧血と起立性調整障害の違い

また、外来をしていて気がかりなのは、「鉄欠乏性貧血」と「起立性調整障害」を混同してしまっている方が多いことです。「最近、立ちくらみがすることが多くて……貧血かもしれません」という訴えが多々あります。もちろん、鉄欠乏性貧血でもみられる症状ですが、こうした症状の多くは鉄不足によるものではなく、交感神経と副交感神経という自律神経のバランスが乱れる「起立性調整障害」による症状です。 

この場合は、鉄剤などの治療ではなく別の対策が必要になります。まずは自分のめまいや立ちくらみの原因が何なのか、病院で血液検査を受けて判別することが大切です。

今回は、臨床現場での実例を交えながら、貧血の原因や症状、治療法や予防法の基本について解説させていただきました。自覚症状がなくても健診結果で貧血と指摘された方はもちろん、気になる症状がある方、「最近氷が無性に食べたい」といったことに心当たりのある方は、面倒がらず、ぜひ一度病院を受診してみてくださいね。
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