YZF-R1のエンジンを搭載するMTシリーズの頂点「MT-10」
ヤマハ(YAMAHA)がリリースする車両の中で最強の走行性能を誇るバイクと言えば、YZF-R1(ワイゼットエフアールワン)です。1998年に発売されてから7回ものモデルチェンジを繰り返し、走りの性能が向上してきました。2015年には8代目となる新型YZF-R1がリリースされました。998cc・並列4気筒エンジンを搭載し最大出力は200PS/13800rpmという、紛れもないモンスターマシン。
国内では厳しい排ガス規制の関係で販売されておらず、ヤマハの逆輸入車を扱う株式会社プレストコーポレーションが販売している状況です。 このような状況下でYZF-R1のフレームとエンジンをベースに開発されたのが、MTシリーズの頂点モデル「MT-10」と「MT-10SP」です。
MTシリーズと言えば、MT-25、MT-3、MT-07、MT-09と兄弟車両が揃っており、それぞれが違った魅力を持つ個性的なバイクです。
MT-10は一体どんな個性を見せてくれるのでしょうか? MT-10と、追加装備が加わった豪華仕様のMT-10SPを都内の通勤で試乗したインプレッションをお届けします。
まずはMT-10の装備をチェック
先進の装備を纏ったMT-10。その豪華な装備を確認していきましょう。まずは弟分のMT-09と共通の装備が多数あります。 白く美しい光源のLEDヘッドライトは消費電力を減らし、さらに優れた視認性を発揮します。また後輪のスピンを感知すると、点火系や燃料の噴射量などを感知してライダーをサポートするトラクションコントロール。雨天時など路面が滑りやすい所を走行する際や、砂利が浮いているような道を走る際も安心感を与えてくれます。 走行モード切替システムは、エンジンの特性を3つのモードから選ぶことができるシステムです。弟分のMT-09は最もスポーティーなAモード、扱いやすいSTDモード、パワーを最も抑えたBモードという3つのモードを選択可能でした。 MT-10では最もパワフルなモード1、次いでモード2、モード3というように呼び方が変わりました。試乗中は雨天の日も多かったのですが、モード2もしくはモード3にし、トラクションコントロールを効かせた状態で走行していたので安心できました。
街中を走行する際に助かるのが、アシスト&スリッパークラッチ。クラッチレバーの重さを軽減してシフトダウンした際の急激なエンジンブレーキによりリアタイヤがロックするのを軽減する機構です。
正直この装備に関しては、極端にクラッチが軽い印象は受けませんでした。ですが少しでもクラッチの重さが軽くなっているのならありがたい機構です。
次にクイックシフト。クラッチ操作なしにシフトアップ操作ができる機構ですが、街中では正直使いません。サーキットなどでタイムを削る走りをする際には恩恵をもたらしてくれることでしょう。 ブレーキは4ポッドラジアルマウントキャリパーとダブルディスク。さらにABSを標準搭載。ハイパワーバイクですので、ブレーキシステムが豪華なのは安心感があります。
さらにMT-10には、ツーリングで高速道路を走る際に便利なクルーズコントロールシステムを搭載しています。4速から6速のギアで50km/hから100km/h走行時にセットが可能となっています。
MT-10の燃費を図ってみたところ、街中で12~13km/L、高速走行時で20km/Lぐらいでした。高速道路走行時は連続航行距離が300kmぐらいまで伸びるので、クルーズコントロールシステムは使い勝手が良さそうです。 さらに前後のサスペンションは、カヤバ製のフルアジャスタブルタイプ。スプリングを縮めて乗り心地を硬くするプリロード調整はもちろん可能。細かい乗り心地やサスペンションの動きを制御する伸び側・圧側のダンパー調整機能まで備えています。
MT-10SPにはさらに豪華装備が追加!
MT-10のサスペンションも充分に豪華なサスペンションが装備されていますが、MT-10SPのサスペンションはオーリンズの電子制御サスペンションが装備されています。MT-10の場合、乗り心地やバイクの動きを変える際には工具でセッティングしてサスペンションを変える必要がありましたが、MT-10SPはプリロード以外のダンパーをボタンひとつで変更することが可能です。
さらにマニュアルモードとオートモードがあり、オートモードはなんと走行状況によってコンピューターが最適なセッティングをしてくれるモードとなっています。 ディスプレイにはTFTフルカラー液晶メーターが採用され、セッティング変更の際などはスピードメーターやタコメーターの表示が消えてセッティングデータが映し出されるようになっています。
さらにシートには専用のアルカンターラ調を採用するなど、見た目にも豪華仕様となっています。
街乗りではMT-10、MT-10SPどちらも足回りが硬すぎる
MT-10SPは乗り心地をボタン操作である程度変更することが可能ですが、フロント、リア共にプリロードだけは手動で変更しなければなりません。ボタン操作で最もサスペンションが柔らかいセッティングにしてみたのですが、それでも前後サスペンション共に街乗りでは硬い印象がありました。
前後サスペンションのプリロードのかかり具合を見てみたところ、フロント側は15段階調整が可能。15が最も硬い状態で、出荷時は11。リアは最大9mmまでスプリングを縮めることが可能で、出荷時は2mm縮んでいる状態でした。
いずれも最も柔らかい状態にセッティングにして試乗してみたところ、格段に乗りやすくなりました。 MT-10はサスペンション自体が異なりますので、セッティングが異なります。前述したようにこちらも硬い印象。MT-10は全てアナログでセッティングが可能ですが、ダンパーの調整を最も柔らかくしてもまだ硬かったので、プリロードのセッティングを変更しました。
こちらはフロントが15段階調整が可能で、最も硬いのが15。標準セッティングは9。リアサスペンションは最大8mmまでスプリングを縮めることが可能で、標準は4mm縮んでいました。
こちらも一番柔らかいセッティングにしましたが、底づきすることなく乗り心地、コントロール性共に良くなりました。
MT-10のシート高は820mmと高め。シートも広めで乗車時は股が広がってしまうこともあり足つき性は良くありません。プリロードを調整すると、乗車時のシート高が少し下がり乗りやすくなるのでおすすめです。
街乗りではMT-10の足回りの方が扱いやすい印象
走り出して最初に感じたのが、低速時のハンドリングが若干重い感覚です。慣れてしまうと極端に重くなっているわけではないことがわかりましたが、低速時のハンドルのふらつきを電子制御のステアリングダンパーがサポートしているような印象があります。サスペンションは出荷時の状態から前述したように大きく変更していますが、前後共にプリロードを完全に抜いて柔らかいセッティングにすると乗り心地が格段に良くなります。コーナリング時のきっかけも作りやすくなるので、街乗りメインの方はセッティングを変更することをおすすめします。
私の体感だと、MT-10SPとMT-10のサスペンションをどちらも一番柔らかくセッティングするとMT-10の方が柔らかくなる印象がありました。そのため小さな段差なども多い公道ではMT-10の足回りの方が扱いやすい印象です。
またコンピューターがサスペンションのセッティングを走行状態に合わせて変更してくれるMT-10SPの電子制御サスペンションは、公道では恩恵がわかりにくく、セッティングを変更しても変化がわかりにくい印象を受けました。
ただしこれはあくまでサーキット走行を視野に入れていない私の感覚の話。シビアに足回りのセッティングを詰めてタイムを削ることを考えるサーキットでは電子制御サスペンションの恩恵は大きいのかもしれません。
MT-10とMT-10SPのエンジンは弱点があるが公道も走りやすい
MT-10とMT-10SPに搭載されているエンジンはYZF-R1ベースですが、ストリート用にチューンされており、超高回転型のYZF-R1のセッティングに比べてストリートで多用する低中回転重視のセッティングになっています。そのためMT-10とMT-10SPに搭載されるエンジンの最大出力は160PS/11500rpmと、YZF-R1と比べると控えめになっています。
パワーモードが変更できるMT-10とMT-10SP。モード1とモード2に関してはモード1の方がスロットルのレスポンスがシビアなのですが、どちらも扱いにくさは感じません。モード3は明らかにパワーが落ちる印象があり、疲れている時にはシビアなアクセルコントロールを一切必要としないので良さそうです。
初期型のMT-09のAモード比べると、MT-10とMT-10SPのモード1は走り出しに急激に加速するピーキーな感覚がありません。そのため街中でもスタート時にシビアなアクセルコントロールが求められません。むしろ走り出しは若干トルク不足を感じます。
しかしモード1はスロットルレスポンスが鋭いので、発進時に初心者のように何度かエンジンの回転が勢いよく上がってしまいました。MT-10とMT-10SPのエンジンパワーが発揮されるのは7000rpm以上。吸気の音が「きゅーん」と鳴り響き、気分が高揚しますがあまりの加速に目が全くついていきません。
公道では7000rpm以下でも充分にパワーを感じられ、楽しく走行が可能です。MT-10とMT-10SPの唯一の弱点は、Uターンや極低速で侵入しなければならない交差点などです。1速に入れてリアブレーキをかけながらUターンしようとするとガクガクとノッキングしてしまいクラッチの操作が要求されます。
また他のバイクでは2速で侵入できる超低速の交差点などもガクガクしてしまうので、1速に入れた方がスムーズにクリアできます。超高回転型エンジンを低中速重視にセッティングしているとはいえ、アイドリング+1000rpmぐらいは力がないのでかなりガクガクします。
いつもより1速落としてコーナーに入れば全く問題ないので、一週間通勤で使っているうちに慣れてスムーズに走れるようになりました。
MT-10/MT-10SPは素晴らしいスポーツ性能だがツーリングにも最適
加速、減速、旋回どの動きもフラッグシップバイクらしく高レベルのMT-10/MT-10SPですが、個人的に嬉しかったのが直進時の安定性です。電子制御のステアリングダンパーやフルアジャスタブルのサスペンション、アルミ製で剛性に優れたフレームやスイングアームの恩恵があり直進時の安定感は他のMTシリーズとは比べものにならないほど優れています。燃費があまり良くないので下道での連続航行距離は短めですが、高速に乗ってしまえば300km近くは走れますし、許容できる範囲と言えます。街乗りは我慢できるレベル。高速道路は優れた直進安定性で快適。コーナリング性能もショップに相談してサスペンションのセッティングが決まれば初心者でも扱いやすくなります。
紛れもないモンスターバイクですが、乗ってみればMT-10は乗り手に優しく、慣れてしまえばこれほど安心感を持って乗れるバイクもありませんでした。
MT-10をカスタムするなら
国内で公道走行可能なMT-10用マフラーは限られますが、レース用マフラーなどでも有名なアクラポビッチからスリップオンタイプのマフラーがリリースされています。サイレンサーには強度と軽さに優れたチタンを採用しています。MT-10用の認証マフラーはアクティブからもリリースされています。またSP忠男からは、エキパイ部分のみのパワーボックスパイプも販売されています。MT-10は優れた直進安定性とクルーズコントロールシステムでツーリング向きですが、風あたりはなんとかしたいところ。POSHのハイプロテクションタイプスクリーンはサイズも大きいので、ウィンドプロテクション効果にも期待できます。色も選べるのもポイントが高いですね。あまりストリートファイタースタイルのイメージを崩したくない方は、一回り小さいサイズもリリースしているので検討してみても良いかもしれません。
MT-10 スペック詳細
認定型式:2BL-RN50J全長/全幅/全高:2,095mm/800mm/1,110mm
シート高:825mm
車両重量:210kg〈212kg〉 ※<>はSP
燃費消費率:WMTCモード 14.0km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時
総排気量:997cm3
最高出力:118kW(160PS)/11,500r/min
最大トルク:111N・m(11.3kgf・m)/9,000r/min
燃料タンク容量:17L(無鉛プレミアムガソリン指定)
タイヤサイズ(前/後):
120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/ 190/55ZR17M/C (75W)(チューブレス)
乗車定員:2名