離婚前提の結婚生活……事前に取り交わす「離婚約」とは?
夫婦生活を続ける形で将来の離婚の約束をする「離婚約」。あなたは、どう思いますか?
離婚約という言葉は、もともとはお笑いタレントの男性の造語と言われているもの。具体的には、「子どもが成人したら、別れる約束をしている」「夫が定年退職をしたら、離婚を切り出すつもりでいる」というように、将来、離婚する前提で現在も結婚生活を続けている夫婦間の決まり事と言えるでしょう。
じつは、この離婚約という言葉が登場する前から、離婚の約束を取り交わしつつも夫婦として共同生活を続けているケースはいくつもあります。
離婚前提の結婚生活を経験した夫婦のケース
■離婚約の実例その1:Mさん夫婦(30代)の場合6年前に結婚したMさん夫婦には、4歳と1歳になる2人の子どもがいます。妻は子育てと家事に忙殺されて、好きだった仕事のキャリアも途中であきらめ、今は専業主婦の日々。夫は仕事が忙しく、平日も深夜近くに帰宅することが多く、今どきのイクメンとは言えない状態でした。
仕事を理由に週末も家を空けることが多くなってきたと思った矢先、夫の浮気が発覚しました。妻は産後クライシス気味だったこともあり、売り言葉に買い言葉で大喧嘩に発展。「じゃあ、別れよう」ということになったと言います。話し合いの末、「上の子が小学校に上がるタイミングで離婚をし、妻が子どもを引き取り、苗字を変える」という結論にいたったとのこと。現在は、1年後の離婚に向けて夫婦それぞれ準備を進めているようです。
■離婚約の実例その2:Tさん夫婦(40代)の場合
Tさん夫婦が離婚約をしたのは1年前。度重なる夫のモラハラ発言に耐えかねて、妻が家を出ることにしたときのことでした。経済的なことへの不安もあり、いきなり離婚するのではなく、「とりあえず、1年間は生活費を夫から妻へ渡しつつ、“おためし”の形で別居をしてみよう。その後、妻に仕事が見つかって経済的に安定したら、正式に別れよう」と決めました。
ところが、実際に別居をしてみると、お互いに相手のいいところばかりが思い出されたと言います。「もっと自分にも努力できた部分があったはず。こんな流れで本当に別れていいのだろうか?」というお互いの思いのもと、Tさん夫婦は離婚約から1年たった約束の日に夫婦関係を修復し、やり直すことを決心したとのこと。それからは、別居前よりお互いに思いやりを持って接することができるようになり、夫のモラハラもすっかり改善したそうです。
……離婚約をしたことで、リスタートを切る心構えができたケース、かえって夫婦関係が改善したケースなど、実情はさまざまです。
離婚前提の結婚生活「離婚約」がもたらす3つのメリット
離婚約のメリットや落とし穴とは?
■離婚約のメリットその1:経済的な準備ができる
たとえばパートナーの浮気が発覚して離婚をする場合でも、「浮気をしたから、すぐに別れた」という場合と比べると、離婚約をしてから別れた場合とでは、実際に離婚をするまでの時間に差が出ます。その時間の差は、経済的な差を生みます。
つまり、すぐに離婚をした場合、あわただしく慰謝料や養育費などを取り決める必要がありますが、離婚約をしてから実際に離婚するまでに時間があれば、じっくりと経済的な環境を整える戦略を練ることができます。離婚までの時間を活用して、貯金やローンの計画を立てることも可能でしょう。
■離婚約のメリットその2:夫婦関係を改善できる可能性がある
実例その2で紹介したTさん夫婦のケースのように、離婚約をしたことにより夫婦関係がいい方向に変化することもあります。「相手のことをイヤになった」→「すぐに別れたい」という勢いや感情的なことで離婚を決める場合、離婚をしてみて「やっぱり、もっとよく考えればよかったかも……」と後悔しても、時計の針を戻すことはできません。
離婚約をすることでお互いに落ち着いた気持ちで、あらためて相手のこと、夫婦のこと、子どものことなどを考えたとき、改善できるチャンスが待っているかもしれないのです。「離婚約をして気持ちがスッキリしたことがきっかけで、はじめてパートナーに本音を言えるようになった」という人もいます。
■離婚約のメリットその3:精神的な準備ができる
離婚を決めたときは「大丈夫」と思っていても、実際に離婚後の生活がスタートし、ひとり暮らしがはじまってみると、しばらくは孤独感やさびしさを味わうことがあります。「バツイチの人」として、世間から向けられる目にも慣れる必要があるでしょう。そうしたさびしさや辛さも、離婚約から離婚までの期間があることで救われることがあります。
「今はまだ一緒に住んでいるけれど、あと◯年したらひとりで生活することになる。そんなとき、どうしたらいいか?」とシングル生活をシミュレーションしていくことで、少しずつ心の準備ができるようになります。離婚約から離婚までの時間を活用して、「おひとりさま」として生きていくための心のトレーニングができるのです。
離婚前提の結婚生活「離婚約」をする際の注意点
このように、すぐに離婚をするよりも、離婚約をしてから離婚にいたるほうが、さまざまなメリットがあるように思えるかもしれません。ですが、離婚約にも落とし穴があります。それは、パートナーのタイプや性格によっては、離婚約を切り出すことがマイナスになるケースもある、ということです。「離婚約をしてから離婚をするまでの間に、もらえるはずの財産を隠されてしまい、受け取り損ねた」「『どうせ別れるなら、もうどうでもいい』とヤケになり、かえって夫婦関係が悪化した」というように、パートナーに開き直られた場合、離婚約を取り交わす前より厳しい状況になりかねないからです。パートナーのタイプや性格をよく見極めたうえで、離婚約の話し合いをする必要があるでしょう。
もしもお互いが離婚約に同意ができ、それを形にしておきたい場合、全国各地にある公証役場にて公正証書に残すことをおすすめします。その際、夫婦のみで訪れるより、弁護士や行政書士といった専門家に内容を相談しつつ、公証役場に同行してもらえるとよりスムーズでしょう。
いずれにしても、離婚約を取り交わすときに大切なのは、「離婚をするかor修復するか」をゴールに考えて夫婦間でもめるより、「お互いが幸せになるための選択は何か?」をきちんと考えることなのです。
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