子育て/子育てに役立つ最新心理学

「育児の大変さ」はなぜ伝わりにくいのか?

ママが育児や家事などを1人でこなす「ワンオペ育児」、その背景には、パパが育児の大変さを理解していない現況があります。なぜ、子育ての苦労は伝わりにくいのでしょうか? 心理学的に考察していきます。

佐藤 めぐみ

執筆者:佐藤 めぐみ

子育てガイド

夫が原因の育児ストレス、ママが求めていることとは?

こんな状況でも家事を回さねばいけない…それでも楽だと言いますか?

こんな状況でも家事を回さねばいけない…それでも楽だと言いますか?

育児の大変さへの理解が増し、イクメンが増えているような印象がある昨今ですが、実際には、まだまだ。パパの中には、「育児や家事は気楽なものだ」と捉えている人たちがいます。ママにとって、そのような目で見られていること自体が、ストレス増大の原因に。実際に、多くのママが、このタイプのストレスで悩んでいます。

やってみないと分からない大変さが伴うのが育児。なぜその大変さが伝わりにくいのかとその対応策について、心理学的な側面からお伝えしていきます。


育児ストレスの原因は、ずばり「夫」

「ママのイライラの根源は……?」「育児ストレスの原因は……?」
このようなアンケート、これまでにきっとご覧になったことがあるでしょう。その度に、いつも上位(多くは1位)なのが、「夫」という結果。子供が生まれ、旦那さんがストレスの原因になっているというママは非常に多いものです。

ママがパパに対し、イライラしてストレスをためる理由は色々ありますが、主には、「自分優先の行動をしている」「生活のパターンを変えない」「育児に協力的でない」。さらには、「育児や家事を楽だと思っていることに腹が立つ」という意見も多いようです。実際、カウンセリングでは、「夫に、1日子供相手に遊んでいるだけだろうと言われた!」というママの憤りを聞きます。

最近、明治安田生命保険が、育児に関する調査の中で、「育児(0~6歳)に給与がもらえるとするといくらか」という設問をしました(*)。その結果、全体の平均額は年237万円。

その内訳は、
  • 「0円」…男性 11.5%、女性 3.3%
  • 「101万~300万円」男性 28.6%、女性 47.8%
  • 「301万~500万円」…男性 20.2%、女性 19.2%
  • 「501万円以上」…男性 8.4%、女性3.7%
だったそうです。

501万円以上と高い枠にも男性が多いものの、0円と答える男性も多く、女性の3.5倍。その結果を同社は、「『イクメン』は増えているが、男性の間で育児労働を軽んじる風潮がまだ根強いのでは」と指摘しています。女性は、育児の大変さを経験した上での回答ですが、男性の方はその経験の有無により、結果が別れているようです。

しかし、ならば見合う対価をもらえれば、上記のような夫に対する不満がなくなり、ママのストレスも減るのかと言うとそんなことはありません。そこには、お金では解決しない、いえ正確には、お金では解決してはいけない心理が関係しています。


ママがお給料をもらうと育児へのやる気が下がってしまう!?

仮に、ママが自分の育児に対し、本当にお給料をもらったらどうなると思いますか? それまで以上のモチベーションで育児に望めるようになるのでしょうか? 答えは複雑です。なぜなら、育児をする目的が、「お金を得ること」にすり替わってしまうからです。

アメリカの大学が行った「やる気の出どころ」に関する実験があります。その実験では、大学生を2つのグループに分け、パズルをしてもらいました。
  • グループ1:パズルが解けたら、1ドルをもらえるという約束をした
  • グループ2:何も約束をしなかった
この条件下で、両グループに一定時間パズルを解いてもらった後、実験者は、8分間、その部屋を離れ、ワンウェイミラー越しに学生の様子を観察しました。すると、報酬をもらったグループ1の学生のほとんどが、8分間の自由時間にパズルに取り組むことはなく、雑誌を読むなど、パズル以外のことをしはじめたのです。

これは、「報酬制度が導入されたことで、行動の目的が変わってしまった」ことを意味します。つまり、それまでは純粋に楽しんでいたパズルを、「報酬をもらうための手段」として捉えるようになってしまったというわけです。

このような実験は数多く行われており、目に見える報酬が、本来のやる気を損ねてしまう「アンダーマイニング現象」として知られています。

筆者は、普段、この現象を、子供のやる気をキープする際に気をつけたいこととして引用することが多いのですが、実際にはどこででも起こりうることです。もし、育児の対価としてママが「お給料」をもらい、我が子を育てる目的がすり替わってしまったら、それこそ怖いことです。


育児ストレス緩和へ、ママがパパに求めているものとは?

お金で動くことに慣らされてしまっている人ほど、育児や家事のような日々の頑張りを過小評価してしまいがちです。それが「育児は楽だ」という見方につながってしまうのです。

今は物質主義的な世の中のため、目に見えにくくお金に換算できない労働や行動は、いつの間にか「やって当たり前」「存在しないもの」とみなされてしまいます。でも、実際にはそうではありません。「報酬」のない労働こそ、純粋なモチベーションが原動力になっている価値あるものだからです。

ママのストレスを減らし、前向きに育児に向き合えるようにするには、アンダーマイニング現象を起こさずにやる気をキープする方法が必要なのですが、そこがうまくいかず、ママはストレスを抱えているのが現状です。

前述のとおり、アンダーマイニング現象は、「お金」「ご褒美」のような目に見える有形のもので起こります。そして、目に見えない無形のものでは起こりません。

では、ママにとって、目には見えなくてもストレスが吹き飛ぶほどの喜びって、何だと思いますか? それは、パパからの「理解」と「ねぎらい」です。これこそ、ママが求めているものなのです。

ママは、パパに理解をしてもらいたいと強く思っています。バラの花束よりも、豪華なプレゼントよりも、パパからの日々のねぎらいが欲しいと感じています。パパからの「いつもありがとう」という言葉で、ママの疲れは一気に吹き飛ぶのです。

*参照:明治安田生命保険相互会社 「子育てに関するアンケート調査」
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※乳幼児の発育には個人差があります。記事内容は全ての乳幼児への有効性を保証するものではありません。気になる徴候が見られる場合は、自己判断せず、必ず医療機関に相談してください。

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