人生の中で起きる、お金の問題、不安にどう向き合う?
前回は、「たったこれだけ!シンプルで正しい資産運法」についてお話しました。今まで以下の記事の中で、人生の中でのお金の問題と向き合うコツについて解説してきました。この最終回では、そのポイントをお教えします。1回目「お金って何?お金に振り回されないようにするためにはどうすればよいのか」
2回目「あなたの必要貯蓄率がわかる『人生設計の基本公式』」
3回目「今日から始めたい『貯蓄プロジェクト』」
4回目 どこで運用するかで大きな差がつく「お金の置き場所」
5回目「お金を増やすために知っておきたい3つのキホン」
6回目「お金を増やすために知っておきたいリスクの考え方」
7回目「お金の運用は『効率よく』『より確実』に」
8回目「たったこれだけ!シンプルで正しい資産運用法」
お金の不安に負けないために。大切なのは今、貯めること
お金について不安を持っているという人は少なくありません。「不安」という感情の多くは、現実を正しく知らないことから生じます。皆さんもこれまでの経験からご納得いただけるのではないでしょうか。そして、あれこれ考えているうちに、不安は不安を呼び、ますます大きくなっていきます。
お金に関しては、例えば老後不安について、実際、自分の老後がどのくらい資金不足なのかよく分からない。けれど、不安を煽るよう記事や本が溢れている様をみて、ますます心配になってくるといった具合です。
結論を申し上げれば、お金についての不安は、正しい方法を用いて、自分でなんとかするしかありません。
一般的には、老後に必要な額を一度に手に入れるのは難しいので、自分の人生の中の持ち時間を使い、計画的に、正しい方法で、これを手に入れられるように実行していくしかないのです。
改めてお伝えしたいのは、「現役時代に稼いだお金の一部を将来に備えて貯めておき、老後はその蓄えで生活する」というのが、人生の中においてのお金の流れだということです。
年金や蓄えが多いのか少ないのか、また、何歳まで働くのかなど、人によって違いますが、多くの人にとっては、「稼いで、貯めて、取り崩す」が基本です。
まだまだ老後は先だから、親を見ているとどうにかなっているから、とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなに楽観的に考えていてはいけない、時代は変化しているのだと付け加えておきます。
高度経済成長期に働いてきた現在の70歳代以上の世代は、いわゆる「昭和のすごろく世代」と言われ、十分な年金に支えられ、悠々自適に暮らしている方も多いでしょう。そんな世代をみて、どうにかなるのだろうなどとは思ってはいけないのです。
もちろん、終身で確実に受け取れる公的年金は頼りの綱ですが、年金財政が、少子高齢化の影響を受けることは免れないでしょうし、今、多くの企業年金は、終身から有期へと移行しています。
現役世代のほぼ全員が、確定拠出年金制度に加入できるようになった今、税制に大きな優遇措置のあるDC制度等を使い、国に頼るばかりではなく、「自分年金」を作ることも重要なのです。
お金の不安を解決するためのシンプルな方法
今までの記事では、不安を解消するためのシンプルな方法を、8回にわたってお伝えしてきました。最終回にあたり、大切なポイントをまとめておきましょう。<1> 実行可能な貯蓄額を出すことから「貯蓄プロジェクト」は始まる
まずは、「人生設計の基本公式」を使い、あなたが実行可能な貯蓄率を導くことからスタートします。実行可能な貯蓄率を出すことが、なぜ必要なのでしょうか。一つには、「現実を知る」ということです。先に述べたように、年金受給額の問題だけではなく、時代は変化しているという点です。それは、人生の持ち時間がさらに長くなっているということです。
平均寿命は過去35年間で、男性7.44年、女性8.29年延びています。「人生100年時代」と言われますが、まさに、100歳まで生きても不思議はない時代になったのです。
先日、厚生労働省が発表した2016年の日本人の平均寿命は、女性が87.14歳、男性が80.98歳となり、いずれも過去最高を更新しました。
この「平均寿命」というのは、ゼロ歳の赤ちゃんがその後何年生きるかを示していますが、死亡率の高い乳児期を生き延びれば長生きする人が多く、実際には、現時点で、男性83歳、女性89歳の生存率は50%超です。半分の人が生きているのです。今後、みなさんが100歳まで生きる可能性は十分に高いのです。
長い老後に困らないように、厳しめに、今、自分が必要な貯蓄額を算出し、それを達成していくことが大切です。
実行可能な目標額を出し、それを守っていくことで、あなたの老後は、とりあえずは、お金の心配をしないでも良いということです。
もちろん、各種の節約術を試して生活の改善を図った理、お金の運用方法を研究したりすることも自由ですが、まずは、「人生設計の基本公式」で計算してみて、人生全体のお金の流れのつじつまがあっているのかを知りましょう。
<2>適切な「必要貯蓄率」とは
算出した「必要貯蓄率」が高すぎて実行できないと思ったら、数字の見直しをしてみてください。「あなたの必要貯蓄率がわかる『人生設計の基本公式』」でも解説していますが、「老後生活費率」を下げたり、住宅ローンが終わったら、これを式に反映することもできます。例えば、持ち家があることは、支払い家賃と持ち家の維持費等の差として表れ、ある程度継続性のある差をもたらすと考えます。これは、あたかも年金の額が増えるのと同様の効果を老後の生活費に対してもたらしてくれます。
つまり、家を購入することなく、リタイアメント後も家賃を払い続けるとしたら、仮に、家賃が毎月15万円とすれば、年間180万円かかります。しかし、持ち家の場合は、ローン完済後、固定資産税や家の修繕などに掛かる費用などを年間90万円と想定しても、おおよそ半分くらいは老後の生活費を助けていると見込んでよいと考えるのです。
持ち家のメリットを年間90万円として年金額に加えることで、必要貯蓄率を下げることができます。このように、様々な方法を試して、実現可能な必要貯蓄額を出してみましょう。
<3>必要な貯蓄ができていれば「老後の不安」も解消
必要な貯蓄ができていれば、老後の心配はありません。計算をせずに、現実をみないことことが、必要以上の不安を引き起こし、例えば、勧められるまま、よく分からないままに、買うべきでない金融商品を買ってしまうなど、お金に関する大きな失敗の原因になります。適切な場所にお金をおき(どこで運用するかで大きな差がつく「お金の置き場所」)「勘所」をしっかり抑え(「お金を増やすために知っておきたい3つのキホン」 「お金を増やすために知っておきたいリスクの考え方」)、シンプルで正しい運用法で(「お金の運用は『効率よく』『より確実』に」「たったこれだけ!シンプルで正しい資産運用法」)、お金にも働いてもらいましょう。
お金の問題は、「自分で」考えるべきことです。個人をめぐる諸事情も、経済状況や環境も違いますし、また、将来の変化を完全に予測することは不可能です。しかし、現在できるだけの備えを実行することで、将来起こる事象に対応していくことは可能です。あなたの人生の行く末に、後悔をしないためにも、ぜひ、あなたの「貯蓄プロジェクト」をスタートさせていください。
最後に、人生において、お金よりも大切なことが沢山あります。お金の心配に気を取られず、人生をより有意義なものにすることに力を注いでいただければと思います。
※全9回の連載の中でご紹介している運用については、拙著『人生にお金はいくら必要か』(山崎元氏と共著・東洋経済新報社)でご紹介している方法です。