さまざまな企業のWeb動画が炎上するのは何故?
どの企業も赤ちゃんとママの幸せを願っている
しかし、予想に反して(まれに故意に)ターゲットの反感を買ってしまい、莫大な製作費をかけた動画を取り下げなくてはいけなかったり、下手をすると不買運動が巻き起こる……これは一体どういうわけでしょうか?
Webマーケティングの専門家によると、「制作現場に女性が少なくターゲットの気持ちが分からないから」とか「リテラシーをもって制作物をチェックする人・機能が組織にないからだ」などの理由が挙げられ、どれもごもっともだと思います。
……が、育児系Web動画に関しては、そのほかに「ターゲット=今まさに育児中のお母さん」が「普通の精神状態ではないこと」にも、炎上の一因がありそうです。
出産後のママは、誰もが産後うつと背中合わせ
誰もが産後うつと背中合わせ
赤ちゃんを守るために必要以上に攻撃的になったり、心身ともにぐったりしたり。そのくせ「赤ちゃん」に関する情報には敏感で、SNSに流れてくる育児系の話題はけっこうキャッチしていたり。
産後は、ホルモンバランスが乱れていて、そこに不安やストレスがかかると「産後うつ」になりやすいといわれていますが、この時期、心身ともに100%元気なお母さんなんていないだろうなと思います。
かくゆう私も、第一子は産後3日でNICU(新生児の集中治療室)に入ることになり、涙が勝手に溢れて止まらない、実母や夫の言動に猛烈に腹が立つなどを経験。第二子の産後は、長かった入院とツワリ生活の反動で気分は上がっているのに、身体がついていかず、感情の起伏が激しくて長男のイヤイヤにキレまくっていました。これも今だからこそ、客観的にそう思えるのですが。
育児系Web動画に共感しすぎて3秒で泣く
泣き止まない赤ちゃんに頭を悩ませる日常
まず登場する母親と自分が重なって泣き、赤ちゃんを見ては泣き、ストーリーに泣き、音楽に泣き、キャッチコピーに泣く。総じて号泣です!産後のお母さんのほとんどは、育児の辛さと素晴らしさを経験していると思われるので、どちらかの側面をくすぐれば、泣きオトシは簡単でしょう。
先日、かつて炎上したオムツ会社のWeb動画(コーポレートメッセージ)を見たところ、最後の出産から2年も経っているのに、作中のお母さんの苦しさに共感して泣きました。そしてYouTubeにて次から次へと再生される育児系動画に、感動して号泣。この、「まだ泣けてしまう」乳児のお世話体験の余韻の長さに唖然とします。これは一生続くのでしょうか?
育児系Web動画のキャッチコピーを比べてみよう
ところで私の肩書はいちおうコピーライターなので、各動画のストーリーとメインキャッチコピーについてサクッと言及したい衝動にかられました。今回、「ワンオペ育児の称賛か?」と議論を巻き起こした物を含め、4本の育児系Web動画を紹介します。私はいずれも号泣しながら見ましたが、みなさまはいかがでしょう?
1. ユニ・チャーム「ムーニー」の動画
ムーニーから、はじめて子育てするママヘ贈る歌。 「moms don’t cry」(song by 植村花菜)■内容
ワンオペレーションで赤ちゃんの世話&家事をしているお母さんのリアルな日常を描く
■キャッチコピー
その時間がいつか宝物になる。
■世間の反応
この動画については賛否両論ありましたが、目立ったものは「苦しかった育児を思い出して辛くなった」というお母さんたちの声。中には「ワンオペ育児賛歌である」といった育児系NPO代表の方の厳しい意見もありました。一方で、感動的&好意的だと受け止めるママ達も居ました。
■メーカーの制作意図
ハフィントンポストの記事によると、メーカー側の意図は下記で、動画の取り下げなどは予定していないとのこと。
本来の意図はリアルな日常を描き、応援したいという思いだった。
悲しいかな、日常のリアルを本当に現実的に描くことに成功してしまったがために、フラッシュバック効果が生まれ、一部のママ達は苦しい気持ちになってしまったようです。
しかし、このさじ加減、難しいものがあります。育児期間をとっくに過ぎて思い出が美しく熟成したお母さんからすると、「お、良いこというわねえ。本当にそうだわ」とむしろ好意的。しかし、育児サバイバルで苦しんでいる渦中だったり、まだ生々しさが残っているお母さんは受け止められないのでしょう。
がんばっているのに、もっとがんばれ、汗と涙をふりしぼれ、と言われる昭和の運動部的なアレを呼び起こすのかもしれません。
2. P&G「パンパース」の動画
パンパース キミにいちばんのこと■内容
子守歌をうたいながら、赤ちゃんを寝かしつけるお母さん。歌詞には赤ちゃんをとりまく肉親や近所の人々(お父さん、お姉さん、おばあちゃん、お医者さん、ペット、ガードマンなどなど)が登場し、赤ちゃんのためにできるちょっとしたことをしてくれるというもの。
■キャッチコピー
世界で一番たいせつなキミのためなら、
いつだっていちばんのことをしてあげる
there is nothing we wouldn't do.
■世間の反応
炎上した1のオムツ動画と対比され、好意的な印象を持たれたようです。私も涙腺崩壊で、辛い状態にいようとも、母親はこう思っている/こう思いたいというインサイトにドンズバ。このキャッチコピーを書いたコピーライターさんは凄いなと憧れます。
少数に「一番のことをしてあげられない私を責められているようだ」「現実とはかけ離れている」という意見もあるでしょうね。
3. 花王「メリーズ」の動画
花王 メリーズ メリーズからママへの応援ムービー 「なんで?」篇■内容
育児に直面した母親の「なんで?」を軸に、自分を責める表現から、徐々に育児に前向きになっていく表現に変わり、実際の母子が多数登場する。
■キャッチコピー
・数え切れない『なんで』を重ねて、私はママになっていく。
タグライン(会社やブランドの在り方を表すコピー)
・その笑顔を、もっと、ずっと。
■世間の反応
ざっくりとした肌感ですが、「(良い意味で)泣ける」といった反応が多いようです。
キャッチは「なんで?」を軸として展開したストーリーを総括する形になっていて、きれいにまとまっています。作中の親子が全部「子供+母親」で途中から違和感を覚えていたのですが、「ママ」に捧げる応援歌だったからなのですね。でもそこにパパも入れておいてほしいところです。
■メーカーの制作意図
メーカー側の意図はホームページに掲載されています。
赤ちゃんと過ごす毎日は、人生の中で経験したこともない不安や悩みがたくさん。でも実は、それは人生の中でいちばん愛おしい時間でもあるのです。メリーズから、すべてのママに心をこめてお贈りするムービーです。
4.アカチャン本舗の動画
ままとぱぱでいてくれて、ありがとう■内容
一人の赤ちゃんが誕生して5歳に成長していく「はじめての〇〇」の過程を、子ども目線&子どもナレーションで回想。
■キャッチコピー
ままとぱぱでいてくれて、ありがとう
タグライン(会社やブランドの在り方を表すコピー)
スマイルな育児を
■世間の反応
あまり拾えなかったので、ガイドの感想を。子どもに「ありがとう」と言われるのが、親の泣き所(良い意味で)ということをついていて、うまいなと思います。個人的に「スマイルな育児を」のタグラインがなんだか落ち着かないのですが、好みの問題でしょう。
■メーカーの制作意図
メーカー側の意図はホームページに掲載されています。
子育ての中には、大変なこと、つらいこと、困ったこともあるけれど、ふとした日常の楽しさやうれしさも、成功のよろこびや感動も、たくさんあふれています。私たちは子育てのどんな場面でもお客さまの気持ちに寄り添い、それを支える価値を生み出し提供していきます。
育児系Web動画は、ママだけでなくパパや周りの人を登場させたほうが良い
育児はみんなでやるものという理想
それが、多少、夢物語であろうとも、「このような理想のある商品/企業です」と表明したほうが、プラスになると思うのですがいかがでしょうか。
炎上動画のキャッチコピーを勝手に考える
ワンオペだとキツい母親ひとりvs子供複数人
「ワンオペ育児=辛いことを必死にしている人」として、どういう言葉を投げかけたらいいのでしょうか?
まずは、がんばりを認めてあげることが重要!
- ママはがんばっています。
- ママに拍手を送ります。
- ママは昨日より、強くなっている。
- あなたがママで、すごく幸せ。
- ママ、いてくれて、ありがとう。
- ぜんぶ背負わなくていいんだよ、ママ。
- こんなママを助けられるのは、みんなです。
うまくやれば、超敏感状態にある産後ママや育児サバイバル中のママに300%でヒットしそうな育児系Web動画。しかし、ママたちの実態と気持ちを誤差なく把握しないと打撃も300%になる恐れもあります。イメージを高めるためのブランディング動画を作るには、そのあたりを慎重に考慮する必要がありそううです。