感染症

多臓器不全の原因・症状・治療法・予後…急死リスクも

【医師が解説】急死の原因にもなり、著名人の死因などでも耳にする「多臓器不全」。その名の通り、1つの臓器でなく、複数の重要な臓器が機能しなくなる重症な状態のことです。重度の怪我、様々な感染症、悪性腫瘍などが原因で起こります。多臓器不全の治療法、予後、後遺症、予防法について解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

多臓器不全とは…急死の原因にもなる深刻な症候群

多臓器不全の原因・症状・治療・予後

外傷、熱傷など緊急性の病気が原因になることがあります

多臓器不全とは、事故などによる外傷、悪性腫瘍、感染症などの侵襲が身体に起こり、その侵襲が大きかった場合、生命を維持するために必要な複数の臓器に障害が起き、その機能を保てなくなってしまった状態のことを言います。「不全」という言葉は、活動や機能が完全でないという意味です。

著名人の死因としても「多臓器不全」という言葉が報道されることは少なくありません。過去には西武の森慎二コーチ、支那そばやの佐野実氏、料理家の小林カツ代氏も多臓器不全により命を落とされています。

多臓器不全を起こす生命維持に重要な臓器としては、脳・脊髄、心臓、肺、肝臓、腎臓などが挙げられます。各臓器単体での機能低下は、それぞれ「心不全」「呼吸不全」「肝不全」「腎不全」と言われます。そのため多臓器不全と一言で言っても、どの臓器がどのような状態になるかにより、現れる症状、治療法、予後は異なります。

例えばですが、最初に心不全が起きて、連続して呼吸不全、腎不全になってしまうようなケースも「多臓器不全」です。1つの病気というよりは症候群と考えるべきでしょう。

<目次>
 

多臓器不全の原因……感染症や外傷など様々

多臓器不全の原因になるものは、いわゆる怪我から病気まで様々です。
  • 重症の感染症
  • 重症の外傷
  • 広範囲におよぶ熱傷
  • 大手術
  • 大量出血
  • ショック
  • 重症膵炎
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)……感染症などにより血管の内部で血が固まり、血を固める凝固因子が不足して出血傾向を示すもの
  • 心臓の機能が低下している心不全
  • 低血圧
  • 低酸素血症
  • 悪性腫瘍(いわゆる癌)
などです。

これらの原因から多臓器不全になるメカニズムには、「血液の循環」と「免疫」の2つが関わっています。

臓器そのものが外傷を受けたり、身体全体の外傷、外傷や大手術による大量出血、ショック、心不全、低血圧などにより、各臓器に十分な血液が行かなくなると、様々な臓器が酸素不足に陥り、本来の活動ができなくなり、多臓器不全に至ります。

さらに、血液中に菌が侵入して全身に広がってしまう菌血症などの重症な感染症、外傷などのストレスに対する生体防御としての免疫反応が起きた場合にも起こりえます。免疫反応として、免疫細胞を活発にするサイトカインが産生されますが、通常は防御に留める程度にコントロールされています。しかしこのサイトカインが過剰に作られてしまうと、免疫反応が過剰になり、白血球が血管や臓器を傷害することになります。この状態を、敗血症と呼びます。感染以外の原因で免疫が過剰になってしまう状態を「全身性炎症反応症候群」と言います。特に、血管の障害が起こってしまうと「播種性血管内凝固症候群」というものが起こり、臓器内で出血が起こります。

また、食べ物を消化するための酵素は膵臓に多く含まれていますが、膵炎になると、その酵素によって様々な臓器が「消化」されてしまい、多臓器不全に至ることもあります。

悪性腫瘍(癌)は、転移を含めて、その臓器内でどんどん大きくなって、臓器を圧迫し、障害します。さらに悪性腫瘍が進行すると、免疫力が低下し、栄養が不足することによって臓器の機能を維持できなくなります。この場合、がんの終末期に見られる多臓器不全となります。

さらに、1つの臓器が不全になることで、多臓器へ影響が波及して、複数の臓器が不全になることもあります。一例ですが、劇症型溶血性レンサ球菌感染症にかかった場合、筋肉細胞の破壊によって、その細胞に含まれているものが腎臓へ負担をかけることになり、ショックになることで循環不全を起こします。このように、多臓器不全の起こる原因や順序は実に様々なのです。
 

多臓器不全の症状……不全を起こした臓器によって多種

多臓器不全の症状もまた、不全を起こす臓器によって様々です。機能不全となる臓器別に、どのような症状が表れるかを列挙します。
  • 心臓……脈が乱れる不整脈、低血圧、身体のむくみ、息切れ、動くとつらい
  • 肺……顔色が悪くなる、呼吸が早くなる多呼吸、呼吸がしにくい・呼吸困難
  • 腎臓……尿量が少ないか尿が出ない、血尿、蛋白尿
  • 肝臓……身体が黄色くなる黄疸、全身倦怠感
  • 消化管……吐血、下血、嘔吐、腹痛、腹部膨満
  • 血液……出血しやすくなる、血が止まらない、貧血、免疫力低下
  • 中枢神経……意識障害、精神障害、けいれん
  • ホルモン異常……高血糖、低血糖
などが見られます。多臓器不全の場合、複数の臓器が障害されますので、同時に複数の症状が出ます。

そして先述しましたが、上記のような各症状が出ることで、血が止まりにくくなる「播種性血管内凝固症候群に」なると、クモ膜下出血、脳内出血を起こし、脳の機能不全に至ることもあります。
 

多臓器不全症の治療法・対処法

多臓器不全になってしまった場合、入院の上、長期にわたる治療が必要になり、難渋することが多いです。原因と状態によっては、残念ながら致死的なものになることもあります。1つ1つの臓器に対する治療を同時に行っていくことになりますので、この治療さえ行えば大丈夫と言えるような劇的な治療方法はなく、原因の病気に対する治療と各臓器の保護およびそれに替わる治療が中心になります。例えば、細菌感染症が原因であれば、抗菌薬を使用し、腎不全を起こしている場合は透析が必要になります。

重症の感染症であれば抗菌薬、重症の外傷であれば外科的治療を含めて集中治療を。広範囲におよぶ熱傷に対しては皮膚の保護と感染症予防を行いながら、大量出血、ショックに対して輸液、輸血。重症膵炎に対しては酵素を抑える治療、播種性血管内凝固症候群(DIC)なら凝固因子の補充と血栓を抑える治療、悪性腫瘍には抗ガン剤治療と外科手術などです。
  • 心不全…心臓の機能を上げる強心薬、補助心臓、人工心臓など
  • 呼吸不全…人工呼吸器による呼吸管理、人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療(ECMO)
  • 腎不全…血液透析、持続的血液ろ過透析、血漿交換
  • 肝不全…血漿交換
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)…血が固まらないようにする抗凝固療法、凝固因子を補充するための補充療法(新鮮凍結血漿や血小板の輸血)
  • 感染症…抗菌薬、免疫グロブリン療法
  • 免疫過剰状態…血液浄化方法、免疫抑制療法
  • 高血糖には血糖を下げるインスリンの持続点滴の治療、低栄養には口から管を入れて栄養を補充する経管栄養、大きな静脈にカテーテルをとどせておいて、そこから糖分が高くてカロリーの高い点滴を使用する中心静脈栄養を行います。
感染症で免疫が過剰になっている場合は、免疫を抑制すると感染症が悪化しますので、治療についてはバランスが必要になります。集中治療によってどの程度回復するのかが今後の生命予後および後遺症の有無に関わってきます。
 

多臓器不全の死亡率・予後・後遺症の有無

原因、原因の重症度、多臓器不全の重症度、臓器の機能不全の数や種類などによって異なりますが、死亡率は30~80%と非常に高くなっています。急に多臓器不全になってしまうと、急死の原因にもなります。そのため、いかに多臓器不全の状態に至るのを防ぐかが重要です。不全になった臓器によってその後の障害も異なってきます。脳であれば、麻痺などが残る可能性がありますし、心筋梗塞による心不全であれば、その残った心筋の状態によって、運動できる範囲が決まってきます。
 

多臓器不全症になりやすい人・予防法

多臓器不全は、子どもから大人までなりうる症候群と言えます。悪性腫瘍であれば、高齢者に多いですが、外傷、熱傷、重症の感染症は子どもにも見られます。原因によって、なりやすい人は様々ということになります。

多臓器不全の予防法は、当たり前ですが、多臓器不全の原因となるような病気や怪我を予防することにつきます。外傷、熱傷は、注意や対策によってある程度予防することができるでしょう。感染症に対しても、免疫力が低下すると重症化しやすくなりますので、普段から病原体への抵抗力をつけておく必要があります。膵炎の予防は、高脂肪食の制限と禁酒です。
体調不良から時間の経過とともに多臓器不全に至ることも十分あり得ますので、まずは普段からの体調管理を心がけるようにしましょう。

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