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『あなそれ』に欠けている不倫ドラマに必要な要素

TBS系火曜21時の『あなたのことはそれほど』がヒット中、さらに劇場版『昼顔』が2017年6月10日に公開され、ドロドロの不倫ドラマが人気です。なぜ今、不倫ドラマなのか? 「不倫ドラマ」という言葉もなかった19世紀後半にさかのぼり、その歴史からたどってみましょう。

黒田 昭彦

執筆者:黒田 昭彦

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『あなそれ』に『昼顔』……不倫ドラマが人気

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(C)2017 フジテレビジョン 東宝 FNS27社

TBS系火曜21時の『あなたのことはそれほど』(『あなそれ』)がヒット中、さらに劇場版『昼顔』が2017年6月10日に公開され、不倫ドラマが人気です。なぜ今、不倫ドラマなのか? 歴史からたどってみましょう。


不倫ドラマのルーツは純文学

不倫ドラマのルーツ的存在は19世紀後半の「姦通(かんつう)小説」。フローベルの『ボヴァリー夫人』やトルストイの『アンナ・カレーニナ』が代表作。「姦通(…男女が不義の交わりを結ぶこと)」というのが現代からするとキツイ表現ですが、昔は姦通罪などそういったんだからしょうがない。制約の多い社会制度とそこからの女性の解放を描く、というのが文学的テーマ。日本では大正時代の有島武郎『或る女』などあります。

ここまでは純文学ですが、姦通罪も廃止された戦後にはより通俗的に、芥川賞的から直木賞的に変わっていきます。そのころの代表的な作品は大岡昇平『武蔵野夫人』や舟橋聖一『雪夫人絵図』。これらの作品が1950年代後半から1960年代前半にかけて大量に映画化され「文芸メロドラマ」と呼ばれます。


時代とともにライトに

1957年には三島由紀夫が『美徳のよろめき』を書き、すぐに映画化され大ヒット。ここから「よろめきドラマ」という言葉が生み出されます。「姦通小説」からかなりライトになりました。

このあたりで発展途上期だったテレビドラマが出てきます。1960年に昼ドラの元祖的作品『日日の背信』が登場しヒット。昼ドラの主流が「昼メロ」になります。

1977年には山田太一脚本の『岸辺のアルバム』が登場。八千草薫演じる主婦が徐々に不倫に引き込まれていく姿と家族の崩壊をリンクして描写、多くの人が認めるテレビドラマ史に残る名作です。

さらに1983年~1985年には『金曜日の妻たちへ』シリーズ三作が登場し大ヒット。この作品が「不倫」を「男女間の不義密通」という意味に定着させたといわれています。それ以前「不倫」は「倫理的ではない」ということで、男女間のことだけではなかったのです。

 

廃れない不倫ドラマ

恋愛ドラマ全盛期だった1990年代。恋愛ドラマのバリエーションとして不倫ドラマが多数つくられました。特に目立つのは1997年。この年『失楽園』が出版、役所広司・黒木瞳で映画化、古谷一行・川島なお美でドラマ化され社会現象に。それに影響されたか薬師丸ひろ子・内野聖陽の『ミセスシンデレラ』、石田ゆり子・岡本健一の『不機嫌な果実』、豊川悦司・夏川結衣の『青い鳥』と名作・話題作が次々と制作されています。

恋愛ドラマの時代が終わった2000年代。夜の連ドラでは減少しますが、2002年に『真珠夫人』がヒットし、不倫ドラマの舞台は昼ドラに戻ります。

2010年代に入ると再び夜の連ドラで不倫ドラマが増えます。そのキッカケは意外にもNHKからで『セカンドバージン』。ドラマ10枠が大人向けの恋愛ドラマを目指したからで、大人だとどうしても男女のどちらかは既婚になってしまいます。『ガラスの家』『紙の月』『さよなら私』『はつ恋』と続きます。

 

既婚女性が不倫にはしる3つの「前置き」

そして2014年の『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』、今回の『あなそれ』につながるわけです。ここまで不倫ドラマを振り返ってみると、一つ特長があるのに気がつきました。「既婚女性が不倫をするには前置きが必要だ」ということです。世間の認識として男性や未婚女性の不倫とは禁断レベルが違い、簡単にはできません。

そのためドラマで既婚女性が不倫する前置きとして大きく3つあります。
  • 文学的テーマとして、本当の愛の追及
  •  DVなど夫婦の明らかな破綻
  • 不倫に対する罪悪感と、ためらう時間
ところがこの観点から『昼顔』と『あなそれ』を比較すると好対照。『昼顔』が3つすべて満たしているのに対して、『あなそれ』は全く無視しています。『昼顔』はタイトルからしてカトリーヌ・ドヌーブ主演の名画のイメージを借りています。DV、セックスレスを盛り込み、また一線を越えるのも第5話、時間をかけています。

対して『あなそれ』。「運命の再会」は美都(波瑠)の思い込みにしか見えないし、だんだん執着がひどくなる夫の涼太(東出昌大)も最初は問題が表面化していません。そして第1話にしてスピード不倫。まったく前置きがありません。さらに美都の性格も「強欲で女のダメなところが煮詰まった女」と劇中でいわれ、これまでの不倫ヒロイン離れしています。

ヒットを記録したTBS系火曜22時枠『逃げるは恥だが役に立つ』や『カルテット』には、契約結婚から始まる恋愛や、真紀(松たか子)と幹生(宮藤官九郎)の夫婦を始めとした不思議な人間関係など、「なにこれ?」というすぐには呑み込めない引っかかりがありました。『あなそれ』の「前置き」を無視した不倫も、そこから興味が広がりヒットにつながった”共通点”といえそうです。


ドロドロな展開をまた見たい

『昼顔』と『あなそれ』、この違いはなんなのか。昨年、2016年の流行語にもなった「ゲス不倫」ブームの影響もいわれていますが、不倫がもてはやされたわけじゃないのでちょっと違うでしょう。

ありそうなのは13時台放送の昼ドラが2016年3月でなくなってしまった影響。昼ドラ特有のドロドロ展開をまた見たい、という視聴者需要にこたえているんではないでしょうか。それが『逃げ恥』で成功した、SNSで拡散されて話題になるパターンにハマってヒットしているんではないかと。

『あなそれ』と同じ枠で昨年放送の『せいせいするほど、愛してる』や、テレビ朝日系金曜ナイトドラマ枠の栗山千明版『不機嫌な果実』に『奪い愛、冬』も昼ドラ的ドロドロドラマでした。『あなそれ』のヒットでこのジャンルがさらに増えそうです。
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