タイニーハウスとは?
アメリカでは、西海岸を中心に、ここ10年ほどの間に「タイニー・ハウスに暮らす」というムーブメントが起こっています。タイニー・ハウスとは、10~20平米という小さな面積の「小屋」。世界に冠たる消費大国でありながら、アメリカには一方でヘンリー・ソローのように、多くのものを持たない、自然の中での静かな暮らしに憧れる伝統もあります。
2008年のリーマン・ショックによって、そんなアメリカの一面がクローズアップされてきているのかもしれませんね。
日本でも!?みんなが「小屋」に興味シンシン
ミニマリズム、ものに頼らない小さな暮らしの定着もあってか、「小屋」への関心は日本においても確実に高まっています。小屋について多くの情報発信を続け、2015 年には「小屋フェス」を開催したSuMiKaのマーケティング担当、名取良樹さんにお聞きしました。「私たちは、家を建てたい人と作り手のマッチングサイトを運営していますが、マーケティングの中で“小屋”というのが非常に強い訴求力を持つワードであることがわかってきました。小屋、と聞くだけでワクワクしてきませんか? 僕もです(笑)。そこで一度、小屋好きな人たちが集まるフェスをやりたいと、一昨年、長野県茅野市で日本初の「小屋フェス」を開催したんです」(名取さん)
「小屋フェス」に14000人
小屋フェスでは20棟の個性的な小屋が展示され、その場で作る小屋のワークショップや手作り講座も開催されました。地元産の新鮮な野菜や果物を使ったフードや地ビール、地元在住作家さんによる雑貨や家具などのマルシェを楽しみながら、ライブステージでは音楽も。小屋フェスには、9日間で14000人が集まったそうです。
「来てくださったのは、ほんとうにさまざまな方たちです。小屋を“離れ”としてお考えの地元のシニアの方もいれば、小さいお子さんと一緒の若いファミリー、スモールショップを開きたいという女性おひとりの参加もありました。皆さんが持つ、小屋に対する夢や憧れは、本当に千差万別なんです!」(名取さん)
小屋には意外な問題も……
建坪も小さく、セルフビルドの安価なキットも流通していますが、小屋といえども建築物。「10平米以下であれば、小屋には確認申請も固定資産税も関係ない、と思われていますが、実際はケースバイケース。庭の隅に建てた基礎のない物置であっても、住居とみなされ、課税対象となることもありますし、自治体によっても判断が異なる。小屋は法律上のグレーゾーンなのです」(名取さん)
子供の遊び場やDIYの作業場にするとしても、田舎の借地に建てるとしても、あらかじめ用地や建築についてよく調べ、場合によっては地元の工務店や自治体、司法書士などに相談した方がよさそうです。
現代の日本人が小屋に求めるもの
日本にも、『方丈記』(鴨長明)以来の「小さく暮らす」ことへの憧れが伝統としてありますが、現代の日本人は、小屋に何を求めているのでしょうか。「それを知るために、我々は大規模なアンケートを実施しました。対象者はのべ20000人。小屋に興味があると答えた回答者の中心は、意外にも子どものいる40~50代でした。その人たちが欲しいと思っているのは、キッチンやシャワーなどの水回りを備え、ある程度の快適性を備えた小屋。面積も、確認申請が省略できる可能性のある10平米よりも広い、20平米から30平米という、現実的なものでした」(名取さん)
従来のニーズと思われていた10平米以下よりもややハイスペックな、「暮らせるレベル」が求められていたのです。
「必要最低限」の価値観が変わってきた
「今、小屋を求める人は、必ずしもギリギリのミニマムを追求しているわけではないんです。たとえば、“小屋”という検索ワードと一緒に上がってくるのは“家族”。小さいお子さんと、週末を小屋で過ごすとき、水回りも電気も断熱性もない10平米(六畳一間)ではやはり、楽しめないし、それはやっぱり“暮らし”ではないですよね」(名取さん)鴨長明が暮らした方丈(約3m×3m)の庵は、今で言う六畳弱。何も持たずに生きる、単身者のストイックな生活には足りるかもしれませんが、各種電化製品を使い、友達や家族とさまざまなことを楽しみたい現代人には、やはりちょっと狭いようです。
日本人の「家」に対する意識の変化
昭和の昔、高度成長期とそれに続くバブルの時代に存在した「住宅すごろく」(賃貸アパートから始まり、社宅、分譲マンションと進み、郊外の一戸建てを“上がり”とする)はもう、確実に過去のものとなりました。「明らかに、日本人の“家”に対する考え方が変わってきているのを感じます。築40年以上の古いビンテージマンションをリノベーションして住む、などという選択は従来ありえませんでしたが、すっかり定着しました。「豊かさ」の方向性が変わってきたのではないでしょうか。
IT化によって働き方が変化し、多拠点居住が特別なものではなくなりつつあるのかもしれません。一年に何日も行かない豪華な別荘ではなく、シンプルな小屋のような家を、都会と田舎に持つ。必要な空間が、たとえば60平米としたら、それぞれ30平米ずつでいい。しかもそれぞれに何もかも揃えたりしない、といったような」(名取さん)
日本型タイニー・ハウスの開発・販売も
SuMiKaではこのアンケートをもとに、20~30平米の、タイニー・ハウスより少し大きなサイズ(スモール・ハウス)の商品、bakkenを開発・販売を開始しました。現在、愛知県蒲郡市の住宅展示場「SHARES ラグーナ蒲郡」に展示されているbakken30を見学しましたが、ロフト付きのログハウスで、移住の初期拠点やスモールオフィスとしては十分な印象です。しかし収納はないので、三人家族が一般的な家財道具を置けば、たちまちいっぱいになってしまうと感じました。
宿泊・体感できる小屋?
bakkenが展示されている「SHARES ラグーナ蒲郡」は、「宿泊できる住宅展示場」。bakkenにも宿泊することができるそうです(事前予約制、有料)。小屋に憧れている人、自分で小屋を建ててみたい人が、自分がやりたいことを、どんな風に実現するか、またどんなものが置けるか、リアルなサイズ感の中で確認できるチャンスです。
<関連情報>
SuMiKa(公式サイト)
〒108-0074
東京都港区高輪2-17-13
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