伊予の小京都と称される「大洲の町並み」
鎌倉時代末に大洲城(旧称は岳城)が築城されて以来、城下町として栄えた大洲。中心地の肱南地区は、戦災を運良くまぬがれたことで、城下町特有のT字路、L字路、袋小路などの伝統的な町並みが、今もなお大切に残されています。「おはなはん通り」は、昭和41年に放映された、NHK朝の連続テレビ小説「おはなはん」のロケが行われたことから、そう呼ばれるようになりました。江戸時代の町割りと家並みが忠実に残され、当時の庶民の生活を垣間見ることができると同時に、今も人々が住み続けています。
この通りは、北側の商家エリアと、南側の武家屋敷エリアの境界にあたり、腰板張りの武家屋敷となまこ壁の土蔵が対称的な家並みを見せています。当時は大洲城より臥龍の地にある下屋敷(現・臥龍山荘)へのお成道(お殿様の通る通り)として使用されていたため、他の通りに比べて道幅が広いのも特徴です。
一方、「明治の家並み」と呼ばれる一角は、明治時代に養蚕や製糸業が盛んだった通りで、往時の雰囲気が残されています。大洲神社の石段の登り口には、昭和燈と呼ばれる鉄筋コンクリート造の燈籠がそびえています。元々は大洲の盛況ぶりを物語る煉瓦の煙突でしたが、昭和天皇即位の記念に改造され、現在の姿になったそうです。
城下町・大洲を歩くなら、案内人付きまち歩きツアー「おおず歴史華回廊」への参加がおすすめ。肱南地区をめぐるコースのほか、肱川のうかいを観賞する船に乗船するコース(夏~秋)、長浜を訪ねるコースなどが用意されています(有料、要事前予約)。
「大洲市観光総合案内所」
・住所:愛媛県大洲市大洲649-1 大洲まちの駅あさもや内
・TEL:0893-57-6655
・交通:JR伊予大洲駅から車で約5分
※案内人付きまち歩きツアー「おおず歴史華回廊」のコーススケジュールはHPにて確認を。
「大洲の町並み」
・住所:愛媛県大洲市大洲
・交通:JR伊予大洲駅から車で約5分
次にご紹介する絶景は、肱川のほとりの景勝地に建てられた山荘庭園です。案内人付きまち歩きツアーで訪れることもできます。
風流人が細部にまでこだわりぬいた「臥龍山荘(がりゅうさんそう)」
大洲藩3代藩主・加藤泰恒が、目の前に望む蓬莱山が龍の臥す姿に似ていることから、この地を「臥龍(がりゅう)」と命名。肱川のほとりの最も美しい景勝地・臥龍淵に初めて庭園を築いたのは、豊臣秀吉の命で大洲を治めた、藤堂高虎の重臣、渡辺勘兵衛でした。以後、歴代藩主の遊賞地であった場所に、明治の貿易商・河内寅次郎が明治30年から10年余りをかけて築いたのが、現在の山荘です。入口の石積みに、まず目を奪われるでしょう。七段の乱れ積みに始まり、末広積み、そして最後に月と船がその中に描かれた流れ積み。こうした導入部分からして、大変風流な趣向が感じ取れます。
足元に目を移すと、苔庭に配された飛石もなかなか見事。石の形状がそれぞれ異なるのですが、絶妙なバランスでセンスの良さを感じさせます。てまり石、臼石、伽藍礎石といった銘石揃いです。
庭園のほぼ中央にある石燈籠ですが、実は日時計の役割を果たしているとか。この燈籠によって季節ごとの光の射し加減や、月の見え方などを計算した上で、建物の位置を決めていったそうです。
園内で最も眺めの良い場所に建てられているのが、不老庵。臥龍淵を眼下に望む崖の上に、舞台造りに建てられた数寄屋造りで、庵そのものを舟に見立てているのだとか。
竹網代張りの舟底天井には、中秋の名月の頃、川面の月光が映り込むように設計され、ここにも風雅な趣向が表れています。
不老庵の広間から眼下に目を映すと、透明度の高い臥龍淵の川面が広がり、息を飲む美しさに歓声が上がります。静寂に包まれた庵の中で、四季折々の風景を朝に夕に独り占めしてきた昔人を、つい羨ましく思ってしまいました。
そして最後に、入口付近に建つ臥龍院を見学しましょう。茅葺き屋根に農村風寄棟の平屋建てで、桂離宮、修学院離宮、梨本宮御常御殿などを参考に建てられた名建築。
撮影不可なので内部の様子はお見せできないのですが、「霞月の間」の霞棚と月に見立てた丸窓、こうもり型の引手、「清吹の間」の欄間の透かし彫りなど、凝った意匠が随所に施されてそれぞれに素晴らしく、見ごたえがあります。
2011年にミシュラン・グリーンガイド・ジャポンの一ツ星に認定、2016年に国の重要文化財に登録されました。世界が認めた、それだけの価値を充分に感じられる山荘です。
「臥龍山荘」
・住所:愛媛県大洲市大洲411-2
・TEL:0893-24-3759
・観覧時間:9:00~17:00(最終入場16:30)
・定休日:無休
・観覧料:大人800円
・交通:JR伊予大洲駅から車で約3分