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切り絵とパンを楽しむ場「アトリエ・フォーク」

モダンだけれどどこか懐かしく、無国籍な雰囲気もある。不思議な魅力を持った切り絵作家YUYAさんと、料理研究家のスパロウ圭子さんが二人で営む「アトリエ・フォーク」へお邪魔しました。民芸コレクターとしても知られる二人が集めた器や郷土玩具も拝見します。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド

アトリエ内の様子。YUYAさんの切り絵作品と、そのプロダクトがとりどりに並ぶ。

アトリエ内の様子。YUYAさんの切り絵作品と、そのプロダクトがとりどりに並ぶ。

 
切り絵作家として活躍しているYUYAさん。その作品には独特の世界観があります。明るくメリハリのある色使いで、愛嬌のある楽しさを漂わせ、ややグラフィック的にモダンな印象を持ちつつ、フォークロア調のどこか懐かしくゆるやかな和みもある。北欧風のようでもあって、南米っぽくもあるような、ありそうでどこにもない、架空のおとぎの国を連想させます。カラフルな色の印象が強いけれど、実際は限定された少ない色数で、洗練されたフォルムの絵柄を表現しています。

切り絵作家と料理研究家として、二人で独立するまで

「ちょっきんきりえ」の名でご存知の方もいるかもしれません。YUYAさんが、自身の個展を開くときのタイトルです。最初の個展は2007年とのことですから、もう10年近く前。当時はまだ会社員として働きながら、自身の創作活動を行っていました。

「大学では建築を学び、卒業後は建築設計事務所で働いていたこともありました。元々昔からグラフィックデザインが好きで、古い本などを集めてはよく見ていました。駒沢の給水塔を保存する会(大正12年に竣工した味わいある建物で、世田谷区の地域風景遺産に認定されている)に入っていたのですが、そこでフリーペーパーを作っていて、イラストを描いたことが、この道に入るきっかけです。その頃から、切り絵で作品を作っていました」

個展もその時の人のつながりからやることになったそうですが、当時は一回きりのつもりで、まさか続けるとは思っていなかったそうです。ところが個展をしたことが人の縁を呼び、今につながるように。切り絵作品制作以外に、グラフィックデザインなどの活動も広がり、時間的にも足りなくなって、そろそろ独立してアトリエを持ちたいと思うようになりました。

ポストカード、手ぬぐい、スパロウ圭子さんの手作りジャムなど。

ポストカード、手ぬぐい、スパロウ圭子さんの手作りジャムなど。


料理研究家のスパロウ圭子さんは「食のアトリエ・スパロウ」を主宰、パン教室をアトリエ・フォークで開催しています。YUYAさんのパートナーでもあり、個展の時はいつもオープニングパーティーのケータリングを担っていました。(ちなみにスパロウとはスズメのことですが、昔から好きな鳥で、スズメのようにワイワイ楽しくみんなが集まる場に、という思いが込められています)

かつてより自宅への来客も多かったことから、よく料理を作って振る舞っていたそうです。食べた人に喜んでもらえると嬉しくて、ますます料理熱が深まるように。チーズプロフェッショナルの資格を取得したり、天然酵母の研究をして様々なパンを作ったり、フランス菓子・料理研究家の大森由紀子さんにフランス菓子や料理を学んだり、と意欲的に勉強をするようになりました。

「YUYAが個展を開いたおかげで、私もいろんな人と知り合うことができました。みなさんに料理を褒めてもらったことが自分のモチベーションにつながって、この道を本気で考えるようになりました」

パン教室では、圭子さんの作るパンや料理。民芸の器との組み合わせも楽しめます。

パン教室では、圭子さんの作るパンや料理。民芸の器との組み合わせも楽しめます。


そしてなんと、二人同時に会社を辞めて、独立することを決心!なかなか勇気のいることだと思いますが、案の定、周りにはとてもびっくりされたそうです。でも、今やりたい、という気持ちが強かった、とYUYAさんは言います。

「よく、年を取ってからやればいい、と言われることも多かったけれど、全力で動けると思っている今このときに実現したかったから、タイミングは良かったと思います。自分の周りはフリーランスで働いている人が多く、いつかは自分も、という憧れの気持ちもありました。でも自分達がいざなってみると、いかに大変かがわかってきて、改めてフリーってすごいなと思います。独立したことで、気持ちの面でも心構えが変わり、より本気で切り絵という仕事に向き合うようになりました。今までは会社員として働きながら作品を作っていたので、とにかく時間がなかったのですが、フリーになったら時間ができるかなと思ったのは間違いで、やっぱり足りない。不思議ですよね(笑)。声をかけてくれる人が今までよりも増えてきて、でもそれはありがたく感じています」(YUYAさん)

「遊びと仕事の区別がなくなりましたよね。例えば何かを食べていても、こうしたらもっと美味しいだろうとか、採算合うかな?とか、色々考えるようになって。今は周りが応援してくれるので、これから頑張っていきたいです」(圭子さん)

アトリエを構え、第1回のオープンアトリエを開催したのが2016年の12月。YUYAさんの作品やそれをベースにしたプロダクト、そして圭子さん手作りのパンやジャムも並び、自由に手に取って、購入することができます。以降月1回オープンアトリエを開催し、お客様と緩やかに交流する機会を作っています。圭子さんはそれ以外にパンやお菓子の料理教室も開催しています。インスタグラムなどSNSを見て遠くから来てくれる人もいれば、ご近所の人が見つけてくれることも。元々来客の多い家だったせいか、色々な人が来てくれることが嬉しいそうです。

「切り絵」というものづくりへの想い

YUYAさんの作業机には、たくさんの切り絵のかけらが。細かい切り抜きも取っておき、アイデアのきっかけに活用されます。

YUYAさんの作業机には、たくさんの切り絵のかけらが。細かい切り抜きも取っておき、アイデアのきっかけに活用されます。

色とりどりの切り絵。ここからどんな作品が生まれるのでしょう。

色とりどりの切り絵。ここからどんな作品が生まれるのでしょう。
 

ところで、YUYAさんがどんな風に作品を作っているのかも聞いてみました。個展など自分で何かを表現するために生み出す作品と、誰かからの依頼で制作する場合とでは、全く異なってくると言います。

「個展の場合は自由なので、自分でテーマを決めて、それに沿って作品を考えます。前回は『民芸と暮らす』というテーマで、自分が持っている民芸品からイメージをふくらませ、民芸に合う空気感のものを作りました。面白かったのは、お客さんの受け取り方が人によって違うこと。モダンに感じる人もいれば、いかにも民芸的と言われることも。色々な反応をもらえることは楽しかったです」

一方、依頼を受けて作品を作る時は、相手がどんなイメージでやりたいのか、じっくり話を聞くようにしているそうです。デザインやイラストに詳しくない場合、具体的なイメージを表現することが難しい人も多いため、柔らかい感じ、可愛い感じ、幾何学っぽい感じなど、キーワードをもらえるようヒアリングをし、その人はどんなものが好きか考えたり調べたりして、できるだけ沿うように作っているそうです。

机の傍らには、ちょこちょこと郷土玩具。そして本棚には民芸や古陶の本と一緒に、グラフィックやイラストの本が収まっています。サヴィニャック、レオ・レオニ、エルヴェ・モルヴァンなどもあります。

机の傍らには、ちょこちょこと郷土玩具。そして本棚には民芸や古陶の本と一緒に、グラフィックやイラストの本が収まっています。サヴィニャック、レオ・レオニ、エルヴェ・モルヴァンなどもあります。


「作品を作る時は無心。頭で考えているのかどうか、自分でもよく分からないんです。なんて言ったらいいのか分からないけれど、自然に勝手に進んでいく。あれこれ考えて作るというよりは、夢の中で作っているような。後で見て、自分でもどうやって作ったのかよく分からない時があります。手が勝手に動いて、気付いたらできていた、という感じ。考え込んで作ると、逆にうまくいかなかったりします。その時の空気感で、集中して一気にぱーっと作る方が、いいものができるんです」(YUYAさん)

「私もどうやって作っているのか知らないんです。集中しているようなので、口出ししないようにしています(笑)。展示の設営の時になって、あ、こんなの作ったんだーって知るくらいで」(圭子さん)

無心から生み出される、YUYAさんならではの切り絵の世界。

無心から生み出される、YUYAさんならではの切り絵の世界。


天から舞い降りてきた類い稀なる才能で描いているのか??と思いきや、自分は絵が得意ではないと思っている、と言うYUYAさん。

「よく人前でライブペインティングなどする方もいますが、自分にはできないです。人に見られているとダメなんですね。サラサラっと描けるタイプではありません。でも、だから切り絵なのかなと思っています。形を切って、組み合わせながら絵を作る。元々建築をやっていたので、そういうデザインの感覚なんでしょうね。昔の外国のグラフィックをよく見ていたので、その影響も大きいと思う」

YUYAさんがこれからやってみたいことのひとつはテキスタイル。現在オリジナルで手ぬぐいを作っていますが、もう少し柄を増やしたり、いろんな布のプロダクトに応用したりできるよう、もっと幅広くやってみたいそうです。また、圭子さんと二人で作る商品も、自分たちらしい特徴として出していきたい、とのこと。二人でものづくりできることが楽しい、と圭子さんも言います。

「今まではそれぞれに活動していた感じが強かったのですが、アトリエというこの場所ができてからは、これはどうしようか?と一緒に考えることが多くなりました。お菓子やジャムの中身は私が作って、それに合うようなパッケージをYUYAに考えてもらうなど、お互いに相談しながら作っています。今後はここでしか買うことのできないコラボ作品をもっと増やせたらいいなと思います」

民芸・郷土玩具コレクションを拝見

膨大な郷土玩具コレクション!!ここはもう小さな美術館のようです。

膨大な郷土玩具コレクション!!ここはもう小さな美術館のようです。


そして、アトリエ訪問のもう一つのお楽しみは、二人が集めまくった民芸コレクション鑑賞!圭子さんのパンや料理は全て民芸の器を使って供されます。食器棚にずらりと並ぶ器に興味が集中!また部屋のあちこちにはひょうきんな風貌の郷土玩具がほのぼのと鎮座しています。自室には無数のコレクションがあり、まだまだ集める気満々だそう。作り手の工房や民芸店、古道具店を巡るのが二人揃って大好きで、旅先で見つけて連れ帰ってきたものもたくさん。

「うちは仲間もいっぱいいて、居心地いいよ~」と目を細めながら玩具たちに話しかけている圭子さん。確かにそれぞれが気持ち良さそうに、のんびりと佇んでいます。日本のものも、海外のものも古いものも、仲良く入り混じって独特の雰囲気を醸し出しています。中にはリサイクルショップで50円なんてものもあり。二人のフィルターを通すことで、かけがえのない宝物となって、大切に並べられています。

「価値などは関係なく、おおらかで和むもの、一緒にいたいなと思うものを選んでいます。二人共好きなものが似ているので、誰も止めません(笑)。うちでは断捨離なんて考えたことないです」

ちょっとへっぽこでお茶目な風貌のものが多いです。

ちょっとへっぽこでお茶目な風貌のものが多いです。

日本だけでなく、世界各国のものが並びます。白い人形はスペイン・マヨルカ島のもの。

日本だけでなく、世界各国のものが並びます。白い人形はスペイン・マヨルカ島のもの。

食器棚に並ぶ器も見応えあります。

食器棚に並ぶ器も見応えあります。

民芸や郷土玩具への興味は、この器から始まりました。鳥取・中井窯の掛け分け皿です。

民芸や郷土玩具への興味は、この器から始まりました。鳥取・中井窯の掛け分け皿です。
 


最後に、5月に行われる個展のお知らせです。

■ちょっきんきりえ展vol. 8 小さなアトリエから
切り絵・文 YUYA(切り絵作家/Atelier FOLK主宰)

・日時:2017年5月19日(金)・20日(土)・21日(日)11:00~19:00 会期中在廊
・会場 haus & terrasse (ハオス&テラス) 渋谷区渋谷1-20-3 TEL 03-6427-5705
www.def-company.co.jp/hausandterrasse/

「アート&食」をテーマにした中野の工房アトリエ・フォークを昨年秋にオープン後、初開催となる「ちょっきんきりえ展」。サンタフェ~ロサンゼルスの夏の旅から帰り、小さなアトリエで気分新たに制作した作品を発表し、手ぬぐいやカード類などデザイングッズも販売します。また、食のアトリエ・スパロウによる手づくりのパン・ジャム・お菓子の販売も上記日程で行います。会場は渋谷の静かなエリアにあるハオス&テラス3階、真っ白で心地よい空間。吉本 宏さんの選曲による美しい音楽とともに、春の個展をお楽しみください。

・ウェブサイト YUYA|ちょっきんきりえの部屋 http://chokkin-kirie.com/
・インスタグラム yuya_chokkin_kirie

○フード販売 食のアトリエ・スパロウ
19(金)天然酵母パン・お菓子  21(日)ベーグル・お菓子
*ジャムは会期中販売、内容は予定。すべて売切次第終了となります。

○音楽選曲 吉本 宏(bar buenos aires / resonance music)

アトリエの前で。YUYAさんとスパロウ圭子さん

アトリエの前で。YUYAさんとスパロウ圭子さん


■アトリエ・フォーク
東京都中野区中野1-41-4
TEL 03-6873-8566
http://atelier-folk.com
オープンアトリエは月1回開催。HPやSNSでの告知を参照ください。

パン教室の内容とスケジュールは、「食のアトリエ・スパロウ」のHPを参照ください。
http://atelier-sparrow.com



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