ボツリヌス菌によって起こるボツリヌス症とは

乳児

徐々に離乳食がスタートする赤ちゃん。ハチミツは健康食品のイメージが強いのかもしれませんが、1歳未満の乳児には決して食べさせてはいけません(画像はイメージ)

2017年3月30日、蜂蜜を食べたことによる乳児ボツリヌス症により、生後6カ月の赤ちゃんが亡くなってしまうという事故が報道されました。一般的に健康食品としても人気の蜂蜜ですが、1歳未満の赤ちゃんに食べさせてはいけない食品の一つです。

ボツリヌス症とは、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)と呼ばれる細長い形をした桿菌から産生される「ボツリヌス毒素」によって起こる食中毒です。ボツリヌス毒素には、神経を麻痺させるはたらきがあります。

ボツリヌス症は4種類に分類されています。

  1. ボツリヌス食中毒(食餌性ボツリヌス症)…食材に含まれるボツリヌス菌と、菌が産生した毒素を摂取して起こるもの
  2. 乳児ボツリヌス症…ボツリヌス菌の芽胞(後述)を摂取することで、1歳未満の乳児の腸管で芽胞から発芽し、増殖して、産生された毒素を吸収して起こる
  3. 創傷性ボツリヌス症…土壌に含まれるボツリヌス菌が傷から侵入して、芽胞から発芽し、増殖して、産生された毒素によって起こる
  4. 腸管感染毒素型ボツリヌス症…大人に起こる乳児ボツリヌス症と同じで、ボツリヌス菌が定着して、芽胞から発芽して、増殖して、毒素を産生する

特に1歳未満の乳児の場合、腸内細菌の状態が大人と異なります。そのためボツリヌス菌が腸内にとどまりやすく増殖しやすいため、大人とは異なるボツリヌス症になりやすいのです。蜂蜜やコーンシロップなどのボツリヌスが含まれる可能性のある食材を乳児に与えないことは、小児科医の常識になっています。

乳児ボツリヌス症による死亡率…蜂蜜が乳児が危険な理由

実は生後2週までは、母乳の成分によりボツリヌス菌が腸内にとどまることはありません。しかし、生後2週以降から1歳までは、腸内細菌の構成のために、ボツリヌス菌が腸内にとどまりやすくなり、腸内で増殖し、毒素を産生してしまうリスクがあることが知られています。成人は平気でも、乳児は蜂蜜摂取により、多くの毒素が体内に回ってしまうことがあるのです。

乳児ボツリヌス症は死亡例はこれまでなかったものの、人工呼吸器の使用が必要になることもあります。成人がボツリヌス症になった場合はウマから作られた抗毒素製剤を使用しますが、乳児ボツリヌス症には通常は使用することができません(アメリカでは抗ボツリヌスヒト免疫グロブリン製剤が認可承認を受けています)。

アメリカでは、1976年~2006年までに2419症例の乳児ボツリヌス症が患児が報告されており、その0.8%にあたる20例が死亡しています。原因が蜂蜜だと考えられるものは、1970年代では39.7%と多かったのですが、2000年代には4.9%に減少し、特定できなくなってきています。日本では今回、初めて蜂蜜摂取した例での死亡例が報告されてしまいました。

どれくらいで症状が出る? ボツリヌス症の症状・潜伏期間

まず、乳児ボツリヌス症が蜂蜜を食べてしまってからどれくらいで症状が出るのかの潜伏期間と、主な症状について解説します。

■乳児ボツリヌス症の潜伏期間
約3~30日

■乳児ボツリヌス症の主な症状・経過
まずは便秘になることが多いです。数日後から、赤ちゃんの動きが減ったり、筋肉に力が入っていないような状態になったりします。哺乳が弱くなり、泣き声も小さくなります。次第に目をつぶった状態になり、無表情な顔つきになり、全身の筋肉が動きにくくなり、呼吸もしにくくなります。これらの経過による、最悪の場は死亡してしまうすることがあります。

また、乳児ボツリヌス症以外の各ボツリヌス症の症状は、それぞれ以下の通りです。

■ボツリヌス食中毒(食餌性ボツリヌス症)の症状
  • 摂取してから発症までの潜伏期間:早くて5~6時間、遅くて2~3日(一般に8~36時間)
  • 症状:吐き気、嘔吐、下痢などの症状から始まり、めまい、頭痛、全身の違和感、目の症状(視力低下・かすみ目・物が二重に見えたり、眩しさを感じる)と口の症状(ノドの渇き、言葉が出なくなったり、物が飲み込みにくくなる)などの神経麻痺の症状が出ます。さらに進行すると、お腹が張ったり、便秘になったり、尿が出なくなったり、手足の脱力感と麻痺がおこり、呼吸ができない状態になれば、死に至ります。
■創傷性ボツリヌス症の症状
  • 潜伏期:受傷後4~21日
  • 症状:ボツリヌス食中毒と同じですが、胃腸症状はありません。日本での報告も2017年現在ではありません。米国で多く、最近ではドラッグの注射部位の汚染などによる発症が報告されています。

■腸管感染毒素型ボツリヌス症の症状
  • 症状:大人が発症しますが、乳児ボツリヌス症と同じです。増殖して毒素が見られ、便から長期にわたり、ボツリヌス菌と毒素が出ている。抗菌薬を使用している患者にみられています。

ボツリヌス菌の性質…100℃以上数分の加熱で殺菌できる

ボツリヌス菌は、消して珍しいものではなく、ごく身近に存在している菌です。土壌、河川、海などに広く分布していると言われます。そして空気のある所では、ボツリヌス菌は「芽胞」と呼ばれる、いわゆる冬眠しているような状態になります。

通常、菌というものは、芽胞の状態になると熱に強くなります。菌のタイプによっては15分間100℃で加熱にしても死なないものもあるほどです(それらも120℃で4分間以上加熱すると殺菌可能です)。水分のない乾燥状態でも、同じように菌は死ににくなります。芽胞の状態で生き延びた菌は、酸素が少なくなると菌は芽胞状態から脱して、発芽します。そして増殖し、毒素を産生し始めるのです。

症状を起こすボツリヌス毒素は熱に弱いです。80℃で30分間、もしくは100℃以上なら数分間の加熱で、毒性が無くなると言われています。

蜂蜜だけではない!ボツリヌス症の原因となる原因食材

ハチミツ

1歳未満にはハチミツは与えないように

それでは、ボツリヌス菌による食中毒を予防するためには、蜂蜜だけに気を付ければよいのでしょうか? 実はそうではありません。ボツリヌス菌は様々な場所に存在するため、農作物、魚介類、動物の肉などのあらゆる食品の原材料がボツリヌス菌の芽胞に汚染される可能性があります。

過去のボツリヌス食品による食中毒例を挙げると、ニシンのにずし(1951年)、輸入キャビア(1969年)、辛子レンコン(1984年)、グリーンオリーブの缶詰(1998年)、あずきばっとう(2012年)など、様々な食品が原因となっているのがわかります。

乳児ボツリヌス症の場合は、1986年~2011年までの31例中、12例で蜂蜜の摂取が認められました。蜂蜜がボツリヌス菌に汚染されている割合は、5.7~6.6%程度と考えられていますが、いずれにしても注意が必要です。そして最近のボツリヌス食中毒、乳児ボツリヌス症の原因は不明なことも多くなっているため、蜂蜜以外の食品にも注意が必要です。1997年に日本で自家製野菜スープが原因とされるのが1件ありました。

ボツリヌス症の検査法・診断された後の治療法

筋電図などで神経麻痺が疑われたり、血液や便から毒素や菌が検出されると、ボツリヌス症と診断されます。

ボツリヌス菌に対する抗菌薬治療だけでは毒素は減らせないため、毒素に対する治療として、抗毒素抗体を含む製剤による治療を受けることになります。しかし、乳児の場合は、ウマの血清を体内に入れることで救命率を上げられないという報告もあるため、あまり使用されません。呼吸筋が麻痺してしまった場合には、人工呼吸器による管理が行われます。

なお、ボツリヌス症と診断された場合、医師は感染症法に従い、ボツリヌス症が発生したことを保健所に届け出ることになっています。さらに、ボツリヌス食中毒患者が発生した場合は、食品衛生法に基づき、保健所にも届け出なければなりませんので、法的に保健所に報告されます。

ボツリヌス症の予防法

乳児ボツリヌス症を防ぐには、何よりも芽胞で汚染されている可能性のある食品を与えないようにすることのが一番です。1歳未満の赤ちゃんには、蜂蜜、コーンシロップ、自家製の野菜スープやジュース等は与えないようにしましょう。これらは土壌に近いために芽胞に汚染されやすくなっているためです。ただし、野菜は十分に洗うことで土壌からの芽胞の混入をかなり減らすことができます。

また、食品中に芽胞が潜んでいた場合に、それらが発芽して増殖しないよう抑えることも重要なので、保存する場合は、乾燥した3℃未満の場所で、いわゆる低温保存しておくのがよいでしょう。

さらに毒素は熱に弱いので、食べる前には80℃で30分間か、中心温度が85℃になって30分ほど自然に冷めた状態、あるいは120℃で4分間程度加熱するのが有効です。加熱により無毒化することができます。

また、たとえ真空パックされた方な食品であっても、芽胞が混入していた場合、酸素が少ない状態でボツリヌス菌が芽胞から発芽し、増殖することがあります。パック製品だからと過信せず、容器が異常に膨張している場合は、開封時に異臭を感じるような場合には、食べずに廃棄することも大切です。

万が一、赤ちゃんが蜂蜜を食べてしまったら……

食べさせないことが大切ですが、万が一、乳児に蜂蜜を誤食してしまったらどうすればよいでしょうか?

■十分に加熱している蜂蜜の場合
120℃で4分間以上しっかりと加熱処理されている場合はまず大丈夫なことがほとんどですが、芽胞が完全に死滅していない可能性もゼロではありませんので、基本は食べさせないことです。芽胞が残っている場合は、元気がない、泣き声が弱いなどの変化が赤ちゃんに見られないか、よく観察する必要があります。もし異常を感じた場合には、すぐに医療機関を受診し、蜂蜜を食べてしまったことを医師に伝えましょう。

■蜂蜜が含まれたお菓子や離乳食を食べてしまった場合
基本は避けていただきたいのです。しかし、この場合も十分に加熱されていればほぼ大丈夫と思われますが、蜂蜜そのものが含まれている場合や、蜂蜜が後でかけられているようなものの場合は、経過に注意する必要があります。1カ月程度は様子を見ておきたいもです。

■授乳中の母親が蜂蜜を食べた場合
ボツリヌス菌が母乳から出ることはないので、授乳しても何ら問題はありません。ただし、ボツリヌス症は多くは毒素が原因ですが、便から毒素が排出される可能性はゼロではないので、当然のことではありますがトイレの後には手洗いをしっかりとするようにしましょう。

蜂蜜は自然で安全で食品という考え方もあるようですが、やはり蜂蜜は1歳になるまで与えないことが大原則です。
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