「森戸海岸」バス停を降りて

築100年の建物を改装して誕生

築100年の建物を改装して誕生


海岸沿いを走るバスの窓からヒマダコーヒーを発見したのは、2016年10月の午後のことでした。さりげなくセンスのいいあの店構えはきっとカフェに違いない……そんな予感がしてバスを降りてみると、はたしてそれは誕生して間もない、魅力あふれるお店だったのです。

築100年の建物をリノベーション

ヒマダコーヒー店内

ヒマダコーヒー店内


築100年になるというこじんまりした2階建て。その1階部分を風合い豊かに改装した空間に、古びた家具が並んでいます。といっても、どっしりした重厚さではなく、どこか透明感のあるテイスト。映画館に置かれていたという木製の机。英国軍が使用していたキャンバス地のローバーチェア。意外な座り心地の良さに驚かされるディレクターズチェア。

席について最初にテーブルに置かれたのは、メニューと、グラスに入った水――ではなく白湯でした。ひとくち飲めば、透き通った優しい熱が体に沁み通っていきます。ヒマダコーヒーにはあちこちに、小さく目をみはるそんな「磁石」がちりばめられているのです。

アンティークの靴修理道具

アンティークの靴修理道具


たとえば、並んだ本の背表紙。音楽。テーブルに運ばれてくるコーヒーとお菓子。お料理、うつわ、古道具。そこにある磁石に引き合う磁石を体内に持っている人は、自然にすっと引き寄せられる。それが相性というものなのかもしれません。ある人は音楽に。ある人はマサラ風味のカフェオレ「インド珈琲」に。

私の磁石は幾つも続けざまに強く反応してしまったのですが、とりわけ、座った席の後ろに並ぶ本に目が釘付けに! そこには読み手の好みと意志がくっきり表れています。ブルース・チャトウィンに串田孫一に……素晴らしいラインナップで本の前を離れられません。

机の引き出しにもたくさんの本

机の引き出しにもたくさんの本


「引き出しを開けてご覧になってもいいですよ」と、背中から店主の声がかかり、本が並ぶ古ぼけた机の引き出しをひとつひとつ開けていくと、そこにも多数の本が。宝箱を開けたようでした。

ヒマな店名の意味は、素晴らしい暇つぶし


奥の一角

奥の一角


それにしても、おっとりとして、とぼけた店名ですね。あんまり暇では困ってしまうはずですが、店主の齊藤啓介さんは、思わずあくびが出てしまうようなゆっくりした時間を過ごせる場所、という意味を込めて名づけたのだと、丁寧に言葉を選びながら語ってくれました。

何かに急かされているような生活から離れて、最高に気持ちのいい暇つぶしをするために訪れる喫茶店。

絶品・手打ちパスタのナポリタンは、ケチャップまで自家製!

トマトをベースに野菜や果実を煮込んで作る自家製ケチャプと、手打ちパスタ

トマトをベースに野菜や果実を煮込んで作る自家製ケチャプと、手打ちパスタ


メニューはどれを選んでも幸せになれるはずです。深みのある味わいのコーヒーは、東逗子の「珈琲屋きりぎりす」や葉山の「FIVE BEANS」などからスペシャルティコーヒーの豆を仕入れ、ネルで注意深くドリップしています。取り扱う豆の種類は季節とともに変わるので、訪れるたびに楽しみに出会えるかもしれません。

2度目に来訪した時にいただいたナポリタンは、昔ながらの喫茶店風かと思いきや、フェットチーネのような平たい手打ちパスタに、自家製ベーコンと手作りケチャップを絡めた傑作! 齊藤さんは毎朝、強力粉と地粉に平飼い玉子とオリーブ油を加えて捏ね上げ、平打ちパスタを作っています。何度でも食べたくなる一皿です。

スイーツも他のメニューも、すべて驚くほど手間と時間をかけた、されどちっとも気取ったところのない美味しさ。どうぞゆったり、のんびり味わって楽しんでくださいね。

COYAで触れたもの

ヒマダコーヒー店内

ヒマダコーヒー店内


齊藤さんが薫陶を受けたのは、かつて根本きこさん・西郡潤士さん夫妻が営んでいた名店「COYA」でした。

「美意識というと大げさですが、息づかいを学ばせてもらったかな。彼らの日々の暮らしそのものがお手本でした」

もともとCOYAの常連客だった斉藤さん。仕事を辞めたとき、絶好のタイミングで西郡さんに「うちで働かない?」と声をかけられたそうです。

「スタッフとしてCOYAの中に入ってみると、こんな細部にまで美意識を徹底させているんだと驚かされました。それは努力というよりも、たとえば優秀なダンスパフォーマーが指先のひとつひとつにまで意識がいきわたっている感覚に近かったんじゃないかな」

ヒマダコーヒー店内

ヒマダコーヒー店内

そんな視線を持つ人が作るヒマダコーヒーもまた、齊藤さんならではの世界をくっきりと持っていて、都心とは異なる葉山時間の縦糸に良い香りのする横糸を加えて、豊かなヒマ模様を織り上げています。

ほんの数分歩けば、そこはもう海。春の海と喫茶店。幸せなあくびが何回数えられるでしょうか。

何気なく開いたガンジーの伝記に、100ルピー札がはさまっていました。齊藤さんのインド旅行の思い出。

何気なく開いたガンジーの伝記に、100ルピー札がはさまっていました。齊藤さんのインド旅行の思い出。


MENU

Beverages
珈琲各種 580円~
クリーム珈琲 650円
インド珈琲 650円

Sweets
スコーン(2個)530円
チーズケーキ 580円
ナツメヤシのブラウニー 580円

Foods
ナポリタン 1180円
ピザトースト
船乗りのサンドイッチ
※メニューはときどき変更になります。

shop data

HIMADA COFFEE(ヒマダコーヒー)
神奈川県三浦郡葉山町堀内975
TEL 046-874-7211
営業時間 10:00~18:00、水木休

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。