大人のためのフランス恋愛映画から学ぶ
『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』から30年――大人になった女性のための、リアルで官能的なフランス映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』が3月25日公開になります。パリのクラブで再会して恋に落ちた男女の10年の物語。苦痛を伴うほどの激しい愛によって傷ついた心をどう癒せばいいのか。フランス女性の恋愛観、ライフスタイルからそのセンスを楽しみつつ、心の癒し方、辛い恋愛からの回復についても学びましょう。
オトナが激しい恋に落ちる、大胆なアプローチとは?
本物の激しい愛には痛みを伴うほどの激しさが…(c)2015 / Les Productions Du Tr?sor - STUDIOCANAL - France 2 Cin?ma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films ? All Rights Reserved (c)PHOTO: (c)PRODUCTIONS DU TR?SOR
つきあっている間は理想の男性だったはずなのに、結婚したとたん思いがけない素顔を見せられて……というのは国籍問わず、よく聞く話ですよね。
まずは今回の映画のストーリーから追ってみましょう。
スキー場で転倒した弁護士の女性トニー(エマニュエル・ベルコ)は、療養中にジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)との波乱に満ちた関係を振り返ります。10年前、トニーは学生時代に密かに憧れていたジョルジオとパリのクラブで再会。レストラン経営者で、いつも華やかな美女たちを引き連れていたジョルジオは、当時マジメな学生のひとりだったトニーのことを覚えていなかったけれど、彼女のある「機転の利いたアプローチ」で彼の心をつかみます。そして、激しい恋に落ちた二人。
「機転の利いたアプローチとは?」と疑問を感じた人もいるでしょう。
トニーは、いたずらっ子のような笑顔を見せながら、ジョルジオの顔にグラスに入った氷をパシャパシャと軽くかけたのです。これは昔、ジョルジオがやっていたことのマネ。自分がやっていたことですし、彼の興味を引くには十分なアプローチですよね。
肝心なジョルジオの反応は? というと、彼は次に彼女に会うために携帯電話をそのまま彼女に渡します。モテる男はやることが大胆!
そして、恋に落ちてからの展開は早く、ジョルジオはトニーに「君の子どもが欲しい」と言い出します。遊び人ということは分かっているので不安を抱きつつ、彼の言葉を信じて愛情に満ちた結婚式を挙げるのです。
やっぱりカッコイイ。フランス流大人の結婚式 (c)2015 / Les Productions Du Tr?sor - STUDIOCANAL - France 2 Cin?ma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films ? All Rights Reserved (c)PHOTO: (c)PRODUCTIONS DU TR?SOR
余談ですが、フランス流大人の結婚式はやっぱりカッコイイ! 実は再会の際、トニーはすでにバツイチなのですが、再婚でもこんなに素敵な結婚式ができるのだと、大人の女性に勇気を与えてくれるはず。
男は楽しさだけを共有したがり、女は悲しみも分かち合いたがる
トニーは弁護士で知性にあふれる女性ですが、ジョルジオのまわりの華やかな美女にコンプレックスを抱いています。一方、ジョルジオは女性を喜ばせることにかけては天才的で、パーティー好きで派手な男。自由を愛する彼は結婚しても自分の欲望に正直で、楽しい時間だけをトニーと共有するのが当然のように考えています。セクシーなジョルジオと過ごす時間が夢のように楽しければ楽しいほど、裏切られたときの傷は深くなる……。彼の身勝手な言動に傷つけば傷つくほど、彼女の心は揺れ動き、理性でコントロールできないほど自分自身を追いつめてしまうのでした。
女性は共感を求めるといわれるように、悲しみもすべて分かち合えればと願いたがるものですが、男性はそれはコンプレックスという弱さを見せることだと考えがちです。作品の中でジョルジオは息子を喜ばせることに一生懸命な良い父親ぶりを発揮しますし、理想的な父親のような振る舞いも身に付いています。
ただ、愛する女に弱みを握られたくない、自分が優位でいたいという気持ちが彼にあるのも見て取れます。愛すればこそ、最高の自分を見せていたいという男の心理が働いて、彼女をより苦しめてしまうのです。
心の傷を回復させるために本当に必要なことは?
トニーが過去10年にわたるジョルジオとの関係を思い起こす、療養中の場面は印象的で象徴的です。ケガの治療をしながら、心の痛みとも向き合い、同時に傷を癒しているのだと分かります。同時期に、彼女は若者グループと仲良くなります。普段の生活では接点のない年下の彼らと無邪気に笑ったり、冗談を言い合ったりするうちに、人生のシンプルな喜びを取り戻すのです。
実際、ガイドの私も大きな病気をしたときに、心と体はつながっていると実感したことがありました。深刻な問題を抱えているときほど、単純なことに対する喜びを感じることが大事ですし、癒しに大事なのはウソや争いのない空間なんですよね。
原題の『MON ROI』は、「私の王様」という意味。ジョルジオを王様として崇め、搾取されるような「破壊的な恋愛関係」を思い出し、客観的に自分を見つめ直すことで、トニーの心も変わっていきます。彼に寄りかかるのはなく、自分の足で立ち、自分の人生を生きる覚悟を持とう、と。
恋愛も結婚も依存や搾取の関係ではありません。自分の足で立ってこそ、相手に与える愛を持つことができ、はじめて幸せになれるもの。それができれば、私たちはもっと自由に、恋愛を楽しめるのではないでしょうか?
作品情報『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
「王様」と呼びたくなるような魅力的なダメ男を激しく愛してしまった女性の10年…(c)2015 / Les Productions Du Tr?sor - STUDIOCANAL - France 2 Cin?ma - Les Films de Batna - Arches Films - 120 Films ? All Rights Reserved (c)PHOTO: (c)PRODUCTIONS DU TR?SOR (c)PRODUCTIONS DU TR?SOR / SHANNA BESSON
第68回 カンヌ国際映画祭 女優賞受賞/第41回 セザール賞 主要8部門ノミネート
監督:マイウェン
出演:ヴァンサン・カッセル、ルイ・ガレル、イジルド・ル・ベスコ
配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
3月25日(土)YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開