住まいの分野でも活用と発展が期待されるIoTとAI
まず、IoTについて少し説明しておきます。モノそのものに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互の通信を可能とすることで、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことをいいます。例えば自動運転の技術にも使われています。GPSやレーダーなどが用いられ、現在、国や自動車メーカーの間で主導権を握るための熾烈な競争が行われています。カーナビや衝突防止機能など一部技術はすでに普及していますね。
「スマート家電」もIoTと関連があります。例えば、一例としてスマートフォンなどで遠隔操作できるエアコンなどがすでに登場しています。このように様々な分野で広がりつつあるわけですが、AIも同様です。
人工知能ですから状況を自ら学習し、ユーザーにとって使いやすかったり快適な状況を作り出してくれる技術です。ちょっと話はそれますが最近はAIによって無くなる職業が予想されたりしています。
先日はある新聞社が、AIが作成した記事を公開したそうで、簡単な文章ながら十分に読める内容だったといいます。つまり、私のようなライター業を主とする職業も、もしかしたらAIに取って代わられる時代が来るのかもしれません。
そういう意味では、IoTもAIも脅威に感じる部分がありますが、とはいえもはやこの流れは止められないでしょう。映画「ターミネーター」のような状況を考えるとぞっとしますが、人に優しく様々な手助けをしてくれるものであれば歓迎です。
スマートウェルネスの実現に貢献へ
特に住まいと暮らしの分野ではなおさらです。現在、どのような活用が想定されているのでしょうか。一つは人が健康に長生きするための手段、具体的には「スマートウェルネスな住まい」を実現する要素としてです。これは簡単にいうと
・エネルギー効率が高く
・健康増進に貢献する
住宅のことをいいます。
要するに省エネでありながら、無理なく冬も暖かで夏も涼しく過ごせる誰もが安心安全な住まい、というイメージです。部屋間の温度差で発症する「ヒートショック」を軽減できるからです。もう一つはこれに関連するものとして、高齢者にとって住みやすい住環境を整える要素として、活用が進みつつあります。
例えば先日、大和ハウスが着工を始めたと発表したマンション「(仮称)プレミスト湘南辻堂」では、ヘルスプロモーションサービスを展開するといいます。これはリストバンド型のウェアラブルセンサーにより、入居者に運動メニューを提供するものです。
このマンションの居住者はサービスにより、より健康になりやすい住環境を獲得できるわけですが、サービスの中にIoT(ウェアラブルセンサー)と、AI(情報の分析)の技術が盛り込まれているのです。
住まいの中に入ってくることが見込まれるロボット。いずれもユーザーと会話することで、執事のような存在となり、様々な機器の操作を容易にし、便利な暮らしに貢献するものになるという(クリックすると拡大します)
光・温度・湿度などの自動コントロール、エアコンや照明、あるいはカーテンの開閉などが連動。例えば、晴れの日、曇りの日、雨の日では日照や室温の状況が異なりますから、そうした情報に基づき寝室の環境を良くするというイメージです。
高齢者などの介護の分野ではロボットの活用が始まろうとしています。高齢者の会話の相手として、痴呆症などの予防の目的などの効果が期待されているものです。また、住まいの中にも導入され、新たなコミュニケーションとなることも想定されています。
「あれば良いよね」を超えられるかが課題
もちろん、IoTとAIはスマートウェルネスの分野だけでなく、暮らしをより良くするために普及が期待されています。例えば、住まいの中には玄関ドアホン、照明、給湯、太陽光発電システムなどのモニターが並んでおり、これは見た目があまりよくありません。住まいの中にある様々な機器の操作パネル。このように1ヵ所にまとまって配置されている場合はまだましで、分散されていると移動するだけでも面倒だ。IoTの技術はそうした面倒を解消することにも役立てられる(クリックすると拡大します)
そのツールとしてもロボットが役割を担う可能性があるわけです。今回紹介したのは住まいや暮らしの中で活用が期待されているIoT、AIの事例のほんの一部で、例えば冒頭に紹介した自動車も住まいとリンクすることで、より便利で快適な暮らしが実現できると考えられています。
「考えられている」というのは、とはいいつつもまだしっかりとしたニーズが確立されているとは言いづらいのが、IoTとAIの分野なのです。例えば、健康サービスの話を書きましたが、今現在では別にウェアラブルセンサーが不可欠なものと思われるでしょうか。
ロボットもそう。最もAIを連想させるツールですが、例えば某通信会社が普及を進めているロボットが本当に必要でしょうか。まだ「あれば良いよね」というレベルだと思われます。このようにニーズ、要するに使い道の面でまだまだ課題が多いのです。
象徴的なものが、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)です。スマートハウスの中核的技術であり普及こそ進んでいますが、不可欠なものになっているかというとそうは言いがたい状況です。
HEMSもインターネットやセンサーなどと接続されており、IoT、AIの一種といえるわけですが、そもそもの機能はエネルギーの制御と「見える化」です。しかし、設置した住まいで毎日確認され、省エネに励んでいる方はどれくらいいるでしょうか。
住まいの世界に新風を吹き込む!?
誤解のないように申し上げておきますが、省エネなどには貢献度が高いツール。その存在価値は十分に認められますが、しかしながらまだ「あれば良いよね」の段階であるのです。この段階を超えることが、IoTとAIの普及のカギとなるはずです。さいたま市のある地域のポータルサイト内にHEMSの街バージョン「TEMS」が設けられている事例。このように単体の住宅だけでなく、街のエネルギーの状態や各種情報とともに表示されると、ユーザーのHEMSの利用頻度が高まるかもしれない(クリックすると拡大します)
中には「これって本当に必要なのかな」と思わざるを得ないものがあったのは事実。しかし、そうしたものから「あれば良いよね」を超えるものがきっと出てくるだろう、と思われたからです。
例えば学生が起こしたベンチャー企業があったのですが、若い世代の人たちが自由な発想でモノづくりができるのがIoT、AIの分野だと思われます。あまり代わり映えのしない住宅の分野に、あっと言わせる新風を吹き込んでくれるかもしれないと感じました。
というのも、耐震や断熱、耐久性などといった住まいの基本技術がすでにしっかりと確立されており、技術的な進展はIoTやAIといった分野でしか期待できないと思われるからです。また、そうした発展が住まいの世界をより面白くしていくはずと考えるからです。
ところで、「攻殻機動隊」というアニメをご存じでしょうか。その主人公・草壁素子は壁紙や家具がヴァーチャルリアリティで様々に変わる部屋に住んでいるのですが、そんなことが可能になるのなら、私は素晴らしいなと思いますし、住んでみたいなと思います。
しかし、そんなアニメやSF映画のような世界がもうそこまで来ているのかもしれません。よく考えてみると、パソコンや携帯電話がここまで普及したのはこの数十年のことですから。住まいの分野のIoT、AIのより良い姿での普及も加速度的に進んでいくものと私は考えています。